表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

AI-4

I

crash!

エネルギーを込めた両腕を、立て続けに前へ、左へ、右へ、次々と繰り出す。

イドの銀一色の冷たい肌の感触が、一瞬だけ拳の先に触れる。

拳が命中した相手は吹き飛び、もだえ苦しみながら、やがて全身の銀色が消滅し、元の人間の姿に戻る。

そういう事を、何度繰り返してきただろうか。

何体のイドを打ち破ってきたのだろうか。

どのくらいの時間が経ったのだろうか。

情報の塊として、機械の中にいれば、数字に関わることは、その数字の表示が許す限り、極めて正確な数値が瞬時に把握できたものだ。

今はデジタルではなく、アナログの世界の中にいる。

人間の感覚を頼りに、おおよその数字を推測するしかない。

ただ一つ、私の感覚がはっきりと捉えている事実があった。それは、アンセムの気配がまだ途絶えていないということ。

人間の身体という器の中にある、私自身のデータが反応しているのだ。

敵の気配が絶たれない限り、戦いはまだ続く。

私は廊下を一歩ずつ突き進んだ。遠くからはまだ人のものと思われる音が聞こえる。

果たして人間によるものだろうか、それとも銀色怪人に変貌してしまった結果だろうか。

ここで考えたところで無駄というものか、どうせどちらでも私のやることは同じだ。

学校中の至る所に、アンセムは自身の尖兵を送り込んだようだ。

最初にいた教室にいた尖兵の群を蹴散らし、廊下に出た。

一番キツかったのはその教室だったかもしれない。何せ私が現れたすぐ目の前に、十体近い敵が既に並んでいたのだから。

廊下に沿って規則正しく並ぶドアから、次々に銀色の怪人が姿を現した。

私は常に両拳にエネルギーを溜めておくことで、それらの出現に対応できるようにしていた。

飛び出し、襲いかかってきたところに、すかさずカウンターパンチを打ち込む。

敵の勢いの反発と、こちらのパンチの勢いが重なり、相手の身体は予想以上に大きく吹き飛ぶのだ。

ダメージを受けて動けなくなった相手の身体に、付着したワクチンが浸食し、その身体に侵入したアンセムのプログラムを抹消する。

そして、元の人間の身体だけが残る。多少の傷は残るかもしれないが、その身体に害を及ぼすことはないはずだ。

しかし裸のままその場に放り出された学生を見ると、少しだけ心の中にもやもやしたものが残る。これが罪悪感というものだろうか。アンセムに巻き込まれた彼らの不運には同情せずにはいられない。

さて、これからどうするか。

私の戦闘能力は、相手にも伝わっているはずだ。

アンセムにも学習能力はある。単独で戦術を考え出す能力のない兵士を、むやみやたらにぶつけるだけでは無意味だと結論を、そろそろ出している頃だろう。

とすれば、どう出てくるか。

答えは、目の前に現れていた。

私の目の前に現れた銀色のイドたち。数は三体。

さっきまでなら、それらが同時に、あるいは順番に、飛びかかってくるはずだった。

しかし、今回は違った。出てきたイドは、左右にいる二体が、中央にいる一体に寄り添うように近づいた。

そして、自らの手を中央のイドに差し伸ばした。

イドの全身を覆う銀色が、その腕を通して、中央の怪人に流れ込んでいく。

左右の二体はやがて全身の銀を失い、元の人間の姿を現して、そのままどさりと倒れた。

そして、残された中央の一体の身体が、むくむくと膨らんでいく。

腕も、足も、胴も。重さと力量が増加するのが目に見えるように大きくなっていく。

その表面を沸騰した湯のように泡立たせながら、全身の容量を増大させていった。

変化が終了したとき、怪人の身体は、廊下の幅と同じくらいの大きさになり、私の目の前に頑強な壁のように聳え立っていた。

なるほど、アンセムの出した回答は実に明瞭だ。

戦闘力の低い敵を大量にぶつけても効果がないのなら、少数により大きな力をそそぎ込みぶつけていく。

多対多の戦いならまだしも、私は一人。

さて、どこまで戦えるか。私は身構えた。

目の前の巨怪人は、巨木のように膨らみを増した腕を大きく振りかぶった。

すかさず腕が横方向になぐ。

その間は一瞬。見かけによらず素早い。

回避の動きが間に合わず、身を庇うのが精一杯だった。

私の身体は横方向に大きく吹き飛ばされる。教室の壁を、机を、椅子を、窓を突き破り、そして宙に浮いた。

風を切る感覚は、やがて平衡感覚を失った落下の感覚へと変わる。

身体を守った体勢のままで、グラウンドの上に叩きつけられた。

プロメテウスが作り出したアーマーの防御力はそれなりのものだった。窓や障害物、そして地面と衝突した際の衝撃を、全て吸収してくれた。

しかし、身体の方が思うように動くには少し時間がかかった。

巨大な力に吹き飛ばされ、落下するという体験は、私にとっても、このアヤトの身体にとっても、かなり衝撃的な体験だったようだ。

私が防御の構えを解き、砂に覆われたグラウンドの上で立ち上がった時、

ドスン、ドスンと、鈍い音が目の前に続けて落ちる。

顔を上げると、銀色の怪人、その身体を大きく膨らませた怪人が二体、三体と続けて降りてきた。

なるほど、目指すべき敵の元に、力を結集してきたというわけか。

私ははぁっと息を吐き、大きく吸い込んだ。

一番私に近い位置にいるのは、さっき私をその豪腕で吹き飛ばした怪人だ。見るだけでも、そのパワーが伝わってくる巨漢だ。

その脇にいるのは、確かに大きさは増してはいるものに、腕も胴も脚もそれほど太さを増しているわけではない。

パワー以外の点で強化が成されているのだろうと、私は判断した。

ここからは厳しい戦いになりそうだ、そう思うと、自然にこの動作が出てきたのだ。

そうすることで、頭の中もすっきりとしてくる。拳の先に、自然とエネルギーが集まり始める。

これも、人間の所行なんだろうな。そんなことを思いながら、私は一歩を進めた。

目の前の巨怪人が腕を振り上げた。

私は瞬時に地面を蹴り、相手との距離を詰める。

私の動きに、敵も戸惑いを覚えたようで、その動きが鈍りを見せた。

この巨体の懐に飛び込めば、それを盾にすることで、他の怪人からの攻撃を防ぐことも出来る。

相手の隙は一瞬、その間に打ち込めるだけのエネルギーを撃ち込む!

私は力の限り腕を動かし、エネルギーの弾丸を眼前の巨躯に撃ち込んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


A

震えが伝わってきた。

一体何が、震えたというのだろう。

触れられる物など、何もない。何かの振動が僕に伝わることなどない。

そもそも、今の僕には何もない。

見える物もない。聞こえる物もない。嗅げる物もない。味わえる物もない。

世界そのものが、ない。

今まではあった。自分の目で見て耳で聞き手で触り足で立つ、そんな世界が。

でも今はない。僕と世界を繋ぐものはない。僕は世界から完全に切り離されている。

じゃあ、今の僕は何なんだろう。

今こうして考えている僕は、一体どこにいるのだろう。

分からないまま、僕はこうして考えている。

そして今また、何かが震えるのを感じたのだ。

こうして考え、震えを感じている僕は、確かに存在するのだ。

そしてそれは、消そうと思っても消えない。

考えるのを止めようと思っても、「考えるのを止める」ことを考える僕が居続ける。

僕は、消えられない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ