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風已みて  作者: 秋風
奪うだけの国で
18/82

白い二人

 オウサマの部屋には刃物が並んでいた。それ以外にもインテリアや物の趣味等世間並な感想があるはずだが、ナギの嗜好が悲しくも刃物に視線を定めてしまう。

 カッター、ナイフ、包丁、ハサミ、ノコギリ、薙刀、剣、鎌……名前を上げたら切りがない、ずらりと棚の上やケースに横並びにされた刃物達は、使用された痕跡を残してギラリと輝いていた。

 刃物にしか興味を示さないナギに自分と同じものを感じるオウサマは声の調子を軽くしナギを呼ぶ。

「こっちに座って」と自分は先に白いテーブルに着き、向かいの席にナギを座らせた。


「あれは私の趣味なんだ。綺麗だよね」


 頬杖を付き刃物の棚に視線をやる。微笑みが貼り付けられている、その顔は楽しそうに綻ぶ。


「どれが好き? 私はハサミ。ハサミはね、紙を切る為の道具として済ませたら勿体無いよ、あれは手に直接肉の硬さを感じるためにあるんだ」


 えげつない内容を彷彿とさせるがナギは引かない。野菜をナイフで切る時の自分に似ていて、むしろ理解し合う事が出来るくらいに思ってしまう。


「ああそうかい。それより話ってなに、そもそも俺達をこっちに連れてきてどうすんだ、お前の人形にはならねぇし、働けっても盗みはやらねぇぞ」

「まくし立てないで、まぁ聞いてよ。少し質問をするよ、まず――華矜院(かきょういん)って知ってる?」


 このタイミングでの思わぬ質問に、一瞬きょとんとしてからナギは答えた。


「知ってるに決まってるだろ、華族なんて一巡じゃ有名すぎる、知らない国民が居たら笑うわ」

「じゃあ次、君は華矜院の人?」

「ちげーよ、全然知らない奴ら。俺は松籟(しょうらい)ナギ」


 ナギは自らの姓を松籟と告げた。家族構成は両親二人にナギ、一般的な家庭環境に生まれ一般的に育てられた少年。故に華族である高貴で名高い名家、華矜院等と繋がりがあるはずもない。華矜院の会社に両親が勤めていたというわけでもない。


「ではその髪はどう説明する? 白っぽいよね」

「華矜院にしかない白い髪、だろ? それ会う人会う人言われんだよ、けど俺は華矜院じゃない」

「証明出来る? 君の両親は白い髪じゃなかった?」

「違う、俺だけがこうだった」

「なら華矜院の血の遺伝が世代を跨いで君にだけ現れたのかも、どう?」


 オウサマはしつこく白い髪を穿鑿する。ナギは意見を信じて貰えない不満と両親を思い出した事によりささくれ立った。


「あぁそうだな、確かにそうかもな。俺はじいさんばあさんを知らない、もしかしたら何処かで華矜院と繋がってたのかもな」


 オウサマは待ってましたとばかりに微笑んだ。


「そう、その証言が欲しかったよ、ありがとう!」


 暴君と呼ばれているオウサマだが今はどう見ても子供っぽい童顔な青年でしかない。無害で、暴力とは無縁の見目麗しいだけの存在。銀の髪は窓から入る太陽の光できらりと光る。


「で、俺が華矜院の血を持ってたとして、なに? 金もないし身分もないし役に立たないと思うけど」

「役には立つよ、欲しいからって言ったじゃない。お願い、少し付き合ってよ、いい結果が得られたら直ぐにあのお兄さんの所に帰してあげるから、ね? ね?」


 身を乗り出してナギの両手をぎゅっと握るオウサマ。益々子供っぽくなるオウサマの言動がナギには不気味だった。だがオウサマの言う通りにしていればミズガレの元に帰れる。頷く以外になかった。


「アガミとウルワも帰せ、それから奪われるだけの国にくるの止めろ、部下にも止めさせろ。水も食料もルールを持って分け合え、そして節約しろ。そしたら協力してやる」


 次々ナギの口から追加される要求は軟禁されている少年のものとは思えない程に高姿勢だった。オウサマはあっけらかんとして、そして冷笑した。立場の優劣を弁えない不敵な物言い。不遜な少年は暴君に対して恐縮しない今までになかったパターンをとった。何より二夜の未来に向かい合う姿勢、どの人間にもなかった。


「乱れた二夜を統率しろと? 夢物語だね、そんな事出来るわけがない」

「あんたなら出来るかもな、だってあんたはオウサマなんだろ? 荒くれ者を支配するだけの力が、異能があるはずだ、じゃなかったらあんたが王に祭り上げられてる理由がない、とっくに悪に国もあんたも蹂躙されてる」

「失礼だな。人徳の成せるわざと言ってよ!」

「ないな」

「も〜う……、確かに支持されて立ってるわけじゃないんですけどね。――支配。君にはこの意味が分かってるようだね」

「あんたの異能、教えろよ――」

「それは宣戦布告かな。いつか私を倒そうと」

「さあな」


 笑い合う。口が歪む。互いの腹を探る駆け引きは無言が延長する。


「月――、私の異能は月さ」


 長い静寂の後、口を開いたのはオウサマだった。


「月は世界の半分を支配している、分かるか? 二夜の半分は私の時間だ」


 瞳が射抜く。ぞくりとした。ナギの背中に冷たいものが走る。

 オウサマの目、二夜の泉のような目が氷に覆われている。ナギの体は全く動かない、汗が頬を伝い指が小刻みに震える。これは……、暴君に支配されているという感覚なのか。


「勝てるか? 月という女王を携えた王に」

「さあ、な……」

「いいよ、挑みたくなったら何時でも来るといい。月のない時間にでもね」


 硬直が溶ける。眼力だけで屈していた事実を誤魔化すようにナギは椅子から立ち上がった。

 椅子の影が揺れる。ナギは知った。今は夜ではない、月もなく体が動かなかったのは、オウサマという底知れぬ存在に純粋に畏怖していたからなのだと。




 ルナはウルワの手をぎゅっと握り廊下を進んだ。

 オウサマの城と言っても絵本に見るような典型的な造形の巨大な城が建っているわけではない、城というのは根城という意味合いが強い。

 それ程大きくない、しかし城というだけの広さと高さと、装飾された窓に柱に鋭い屋根をこの建築物は持っていた。

 誰か建てたか解らない年代物の城は先住民が建て直し使っていたようで、それが今となってはオウサマの城となり悪の拠点となっている。

 その悪の拠点だが、見た目は優雅な白い城なので禍々しさは全くない。内装も白と青で統一されている。

 廊下にも青い絨毯が敷いてあった。靴音は柔らかい毛に吸収されるのでウルワにとって他人の存在を探るには息遣いと気配でしか何も推測出来なかった。それがまた恐ろしかった。


「ルナ」

「はい?」


 廊下の向いからルナを呼び止めるのは一人の男。くすんだ金の髪に歴戦の傷を纏ったしなやかな肉体の男だった。

 ルナは男の名前を思い出そうとする、しかし目の前の顔と記憶にある数々の名前が該当しない。


「誰でしたっけ? 顔の良い殿方は覚えているはずなのですがねぇ」

「おっ、嬉しいねぇ。出来れば名前も覚えててほしかったよ、オレは俊足」

「俊足? 名前がです?」

「オレに名前はねぇさ。変わりに俊足とそう呼ばれてる」

「……ああ、最近ここに来たばかりの、足の速いあの」

「そ」


 俊足と呼ばれている男は漸くルナが自分を思い出してくれたところで本題に入った。


「オウサマはいるかい?」

「居ますよ」

「会いたいんだけど、今いい?」

「今はこの子に会う時間で取られると思うので、夜なら。私が伝えておきましょうか?」

「たのむ」


 ぴっと片手を上げて俊足はウインクをする。ルナは爽やかな俊足へのトキメキでぱあっと笑顔になった、ブレない少女である。俊足はすれ違いざまにウルワをそっと見てから廊下を下って行った。

 ルナはまた歩き出す。絨毯は突起もなく躓かないのでウルワを自分の速度に合わせて引っ張る。やがて城の上階にあるオウサマの部屋に辿り着いた。

 コンコン――。ノックの後にルナが言う。


「オウサマ〜」


 いつでも快活なルナはウルワの手を引っ張りオウサマの部屋に入った。まず目に入ったのはナイフとハサミを持ったナギとオウサマだった。


「何をしていたのです?」

「殺し合い」


 ナギは血の付いた調理ナイフを払った。


「ここから突き落とせば死ぬのかなって」


 開け放たれた窓から風が入り込みカーテンが流れる。窓は額縁となって美しい青空を映す、風の音が抜けるその先は人間では舞う事の出来ぬ無限の空。


「ルナぁ、この子が私を殺そうとするんですよ。ちょっと奪われるだけの国に血と涙をと冗談を言ったら」

「お前の命令一つで異能を持った軍隊が動くんだろ。人は何人死ぬ? お前が一人死ねば他は助かる」

「冗談なんですよ、冗談」

「……」


 ナギは黙った。これ以上踏み込むものではない、その時ではない。


 「ところでルナは何の用ですか? 恐らくそちらの娘が私に何かあるのでしょうが」


 ウルワはルナの手を離し前に出る。


「あの、うちに……帰らせてください……。何か出来る事があればします、から……」


 精一杯声を出したつもりが、オウサマという知らない人間に願いを聞き入れて貰えるか解らず徐々に小声になる。オウサマの気配がウルワに近づくとウルワは身構えた。


「君も華矜院?」

「えと、私は……華矜院ではないです」

「この子も遺伝のあれ?」


 オウサマはナギに会話を振る。ナギは知らねぇよと言いつつ理由があるんだろとあのしつこい穿鑿がウルワに向かないように操作した。


「白い髪がこんなにも傍で見られるなんて、私はついてるねぇ。しかも二人も」

「そういうあんたも銀髪だろうが」

「そうでしたね」


 白い髪も銀の髪も、何か曰くがあるように。ただそれ以上は誰も語らない。語るべき時が来るとしたら、全ての色が揃う時。


「朗報だよ。もう直ぐ君たちはあのお兄さんの元に帰れるかもね」

「本当ですか?」

「渡りをつけたから、安心しろウルワ」

「ナギが? ありがとうっ」


 ウルワは手を付き出して誰かを探す。誰もが分かりきっているように、ナギが進み出てウルワの手を取り胸に抱いた。

 ウルワは見えない分体で存在を確かめたがる。男性には簡単に近づかないが、ナギやミズガレには体を寄せる。


「兄妹みたいですね、違うんですか?」

「違うよ、俺達は家族」

「あれれ? 家族なら兄妹なのでは?」

「家族なんだよ」


 白い髪をした二人は家族という言葉に同じ一人の男を思い出した。男の事を考えると気持ちがとても落ち着くのを感じた。


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