第八話 抜刀!竜子刀
『』を《》に変えました。
ガイシを手に入れた後、壱路は疲労で眠ってしまった。幸いベットが置いてあったので、床に寝る事は防げたが。
「ん・・・僕寝てた・・・・?」
「マスター、大丈夫なんですよね?かれこれ丸一日は寝ていましたよ」
「問題ない。それどころか凄く気分がいい」
なんとか復活した壱路は魔法の袋から食料と水筒を取り出し腹ごしらえをした。食べ終えてようやく落ち着いた壱路は一振りの刀を見つめていた。
『竜子刀・ガイシ』、この鍛治場に収められていた妖刀で今は壱路の武器だ。
壱路は腰のベルトに刀を差し込み、出発の準備をしていた。ククリナイフは魔法の袋に入れておく。
「本当にその刀持って行くんですか?」
「あぁ、これはもう僕の物だ」
「けどまたあんな事に・・・・」
「大丈夫だよ。もう倒れたりしないから」
フォウンが心配してくれているので心の中で、ありがとうと答えた。
壱路は鍛治場の外に出て、石版で入り口を塞いだ。ここは誰にも知られない方がいいと思ったからだ。
そこから離れようとすると、辺りが暗くなっていた。
いや違う。これは影だ。何か巨大なものが近くにいる。
(僕の後ろに何かいる・・・・?)
そして振り返るとそこには熊のような岩が・・・いや岩の熊だ。岩でできた熊が立っている。
「こいつって・・・・・」
「ストーン・ベア!Sランクモンスターですよ!世界図鑑の魔物の項目にも載っている奴ですよ!」
「Sランクモンスターか。ちょうどいい、ガイシの初陣にはピッタリだ」
「ちょっ!これと戦うんですか?!マスターまだランクEじゃないですか!死んじゃいますよ〜!」
挙句には泣き出してしまうフォウンに若干申し訳ないと思ったが、壱路の心は目の前の相手に向かっていた。
ストーン・ベア、岩の様な肌を持つ魔物で、性格は凶暴、その硬い肌は並大抵の攻撃を弾きく盾であり、相手を押しつぶす矛でもある。ちなみにその肉は硬い肌にも関わらず、柔らかくて美味らしい。また、青い岩のストーン・ベアは並みのストーン・ベアの十倍くらいの強さである。
それが壱路が知っているストーン・ベアの情報だった。よく見たらストーン・ベアの岩の色は・・・・青かった。
「ちょっとヤバいかも」
「だから逃げましょうよ〜!マスターの命がいくつあっても足りませんよ〜!」
「あれから逃げれるわけないだろ。僕脚遅いし、だから・・・・・!」
「マ、マスター?!」
壱路は鞘から刀を抜く。紫色のオーラが刀身に纏わりつく。まるで赤子が産声を上げているような力強さを感じる。
「腹括るしかないだろ!」
壱路は刀を構える。こうなったらもうやるしかないのだ。
ストーン・ベアが動いた。巨大な体躯からは想像つかないスピードで腕を振り上げ壱路を潰そうとする。
しかし壱路はそこにはもういなかった。何故なら・・・・。
「こっちだよ」
壱路はすでに後ろにいた。
壱路は自分の周囲の空間を魔法で支配し、空気抵抗や重力といった物理的束縛をなくしたのだ。これによって壱路は高速で動く事が可能である。
最初の頃は重力だけ無効にしたら空気抵抗で体がボロボロになったりしたが、何回も試すうちにあることに気がついた。
壱路の魔法の制限である《一つの対象しか支配できない》という法則、それが壱路の認識によって左右される事に。
例えば重力と空気抵抗を同時に支配したい場合、普段なら一つしか支配できないが重力と空気抵抗は同一の空間に存在する。ならばその空間自体を支配すれば両方操作する事が可能なのだ。この原理を使えば建物も中の物を含めて一つの物とする事で《一つの対象しか支配できない》法則にとらわれず自在に支配できると思う。
この裏技に気がついた時から練習してたがなんとか実戦レベルまで持ち込めた。
「生憎こっちは死ぬわけには行かないからねっと!」
後ろからガイシを思いっきり振り切る。するとストーン・ベアの肌が、肉が、そして骨がバターのように切れていった。
そしてその瞬間ガイシから何かが流れ込んでくる。その流れ込んできた何かに壱路は驚愕した。
(この感覚・・・・魔力か!?)
そうそれは魔力だった。そして魔力と一緒にガイシの意思も入り込んでくる。
壱路はガイシが送り込んだ情報により竜子刀の特殊能力についてを知った。
ガイシの特殊能力、それは敵の血を啜る事で成長していく力だった。つまりガイシは相手を斬る度により強固に、より鋭くそれこそ無限に成長していく。そして啜った血に含まれる魔力をも吸い取りその幾分かを持ち主の活力にすることもできる。つまり魔法をも吸い取り無効にしてしまうのだ。
(おいおい、確かガイシは自分を試作品だと言っていたが、これが試作品なら本物は・・・・)
ガイシを拵えた鍛治職人の腕を想像して、若干寒気がした。
とんでもないがとても心強い武器に感謝した。
そして轟くような叫びが壱路を現実へと戻す。
ストーン・ベアがなんかよだれ垂らしながらこっちを見ていた。目は憤怒と狂気が宿っている。背後を取られたのがよっぽど頭に来てたらしい。
ストーン・ベアの岩とは思えない滑らかな、しかし野性的な攻撃が連続して降りかかる。壱路は高速の効果が切れていたので空気抵抗の壁を作りその攻撃を防ぐ。
当たらなくても結構な振動が響いて壱路を襲う。
(こりゃ結構くるな〜、流石はSランクモンスター、だけど・・・)
壱路は刀の先をストーン・ベアに向ける。
そして刀を突き出すと同時に魔力を流し込む!
「伸びろっ《物干し竿》!」
壱路が叫ぶと同時に刀が一気に伸びていく。そしてストーン・ベアの脳天に刀が突き刺さる・・・!
だがそれでもストーン・ベアを仕留める事が出来ない。ストーン・ベアが刀が刺さったままこっちにきている。だが壱路はいたって冷静だ。もうストーン・ベアの豪腕が目の前まできているのにだ。
なぜなら・・・・・・・・・。
「咲け・・・《土荊》」
突如ストーン・ベアの足元から荊のような針が無数にはえて、ストーン・ベアを串刺しにしていく。
壱路はストーン・ベアが自らの間合いに入るときを狙って地面に手をついた。
ストーン・ベアが苦しそうに声を上げる。
先程の《物干し竿》と《土荊》は壱路が支配する時のイメージを強く引き出すために考えたキーワードだ。
この世界では、魔法を発動する時によく特定の言葉、キーワードを決めておく事がある、と世界辞典に載っていたので試しに作ってみたのだ。
刀を伸ばす《物干し竿》は江戸時代の剣豪、佐々木小次郎の刀の銘からとり、地面から針を出す《土荊》は針=荊のイメージからだ。
いちいち集中してイメージする必要が無いし魔力も一定量で使えるので結構重宝している。
まぁ細かい作業をしたい場合は一からイメージしなけねばならないが。
壱路は刀を元の長さに戻し、ストーン・ベアを見つめる。
「強かったよお前は、だけどさ僕はまだ死ぬわけにはいかないから」
話している間にストーン・ベアが針をボキボキと折っている。これでも命を奪うことができないのか。
だが壱路は慌てる間も無く刀を構え、魔力を纏う・・・・・!
「本当にこれで終わりだ。」
刀にどんどん風が纏わり付いていく、その様子はまるで風が踊っているようだった。
「喰らえ・・・《鎌鼬》!」
壱路が刀をストーン・ベアに向かって振り落とす。すると同時に刀に纏わり付いていた風が斬撃の形を持って衝撃波となり、ストーン・ベアを切り裂く!
《鎌鼬》・・・壱路が考えたそのキーワードの効果は風を支配し一つにまとめ斬撃とし相手を切り裂くというコンセプトで考えた物だ。何かと重宝しているキーワードの一つでもある。
そしてストーン・ベアが最後の力を振り絞り壱路に攻撃を与える。避けきれず左手から流血が飛んだ。そしてストーン・ベアはそのまま倒れた。
ピロピロリン♪
そんな中突然RPGに出てくるレベルアップ音が聞こえた。
その前に左手に受けた傷を魔法で塞いだ。一応傷の治療もできるのだ。魔法の連続使用による気だるさも消えた。
この音はレベルが10になった時にも鳴った音だったのでとりあえずステータスを確認する。
イチロ・サガミ
Lv 27 age:18
HP A
MP EX
ATX A
DEF C
AGL S
EXP 12828
NEXT 2172
【魔法属性】 無
【魔法】 支配〈直接開放・間接開放〉
〈称号〉
異世界人・支配者・想定外の来訪者・覚醒者・竜子刀の主
イチロ・サガミ
Lv27 age 18 rank D
出身地 不明
クエスト
装備
黒の学生服 メガネ ブラックコート
竜子刀・ガイシ 魔法の袋
シギル 14500
レベルが一気に27に上がっていた。そしてランクもDになっていた。それほどストーン・ベアはレベルが高かったのだろう。戦った甲斐があるというものだ。だがステータスは異常に上がり過ぎている。
そして称号が増えている。竜子刀の主は分かるが、覚醒者は分からない。なので解説を見てみる。
覚醒者
異世界人補正。レベル20になると全てのステータスに大幅な補正を与える。
これぞチートだな、と壱路は思った。これで異常なステータス上昇の謎が解けた。
そして何より【支配】に新たに加わった〈間接開放〉の欄が気になった。
なので解説を見てみる。
〈間接開放〉
新たに魔力を撃ち出す事が可能になった。対象物に触れる事で発動する。しかし矢のように真っ直ぐにしか飛ばせない。
「これは・・・」
「わ〜新しい魔法ですね〜」
いつの間にか戦闘中黙っていたフォウンが復活していた。
「マスター・・・、もう無茶はしないでください。心配したんですから!」
「悪いな、だが圧勝だっただろう?」
「そうですけど、《鎌鼬》を使う必要あったんですか?あれ最初にやった時魔力調節間違えて魔力全部使っちゃったんじゃないですか?!」
「キーワードで魔力調節しておいたから大丈夫だよ」
「・・・マスターが決めたのならワタシは何も言いませんよ、けどワタシはマスターにあまり無理して欲しくないんです!最後のあれだって違うところにくらっていたら・・・」
フォウンが悲しそうに言った。確かに最後の攻撃はヤバかった。当たり所が悪ければ死んでいたかもしれない。
「分かった。無理はしないよ、それに絶対死なない」
「・・・約束ですよ」
フォウンをあまり悲しませないようにしようと壱路は決意した。
「さて、ストーン・ベアをそろそろ剥ぎ取ろうか」
「ふふっ、頑張ってくださいね!」
とか話しているとガイシが一瞬光った。そしてガイシから意思が流れてきた。
(ボクがちゃんと守ってあげるよ)
ガイシの言葉も嬉しい。
(これからもよろしくな、フォウン、ガイシ)
この戦いでいろいろと得た物が多かった壱路だった。
次回!
川に流れてきたサメ?そして壱路に待ち受けるある出来事!
乞うご期待!