第七十八話 覚醒の黎明
久しぶりに更新します。
「《暗きもの》」
無貌之黒王が唱えると周囲が暗転し景色が漆黒に染まる。
気づくとそこは浅黒い空間が広がっていた。
それを驚愕した表情で見つめるダンテ。
「こんな、こんな変化が••••」
ダンテは目の前の怪物と化した者に敵意を向ける。
そんなダンテを顧みる事なく無貌之黒王はさらなる変貌を遂げる。
「アラワレロ、
《Burning Trinocular》
《Bloated Woman》
《Howler in the Dark》
《Dweller in Darkness》
《Crawling Chaos》!」
その言葉と唱えると無貌之黒王の影から五つの黒き異形が飛び出した。
それは燃える三つ目を持つ蝙蝠ーーー、
それは醜く膨れた魔性の女性ーーー、
それは鋭い牙を持つ夜の獣ーーー、
それは闇に潜みし異形の住人達ーーー、
それは延々と姿を変える混沌そのものーーー。
「イケ•••••!」
異形達は一斉にダンテに襲い掛かる。
「くそっ、捌き切れん•••!」
「オソイヨ」
無貌之黒王はその一瞬を逃さず、距離を詰めた。
「《The Faceless God》」
そう呟くと、無貌之黒王の腕から黒い刃が現れる。
そして一閃、刃は掠れるがダンテの《暴嵐征服》がそれを受け止める。
獅子頭の悪魔と無貌の魔神の殺し合いが始まる。
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一方その頃、フォウンは壱路と逸れたのち人型になって壱路の元へ急いだ。
「な、なんじゃこりゃー!」
そして沈黙する巨大な球体を目の前に驚きの声を上げる。
不審に思いながらフォウンは恐る恐るその球体に触れる。
すると手は球体に触れることなく沈んでいく、それはまるで黒色の水に入るような感覚だったという。
「あ、これいけるんじゃ••••よし、善は急げです!やってやろうじゃないですか!」
フォウンは漆黒の球体に軽く助走をつけて飛び込んだ。
自らの半身、大切な主人を救う為に。
そして静寂ののち、フォウンは眼を開けるとそこは見知らぬ場所であった。
黒いのようで白く、明るいようで暗く、広いようで狭い、そんな場所。
読者はご存知であるが、壱路の精神の間である。
だがいつもと違うところがある。
その場にある三つの扉だ。
白い扉はボロボロに傷ついて、幾重にも鎖が巻き付き、南京錠がかかってる。
頑丈そうな黒い扉は新品のような輝きを放ち、が、
そして鍵が掛かった古い灰色の扉がーーーーーー。
ガチャっ!
鍵の開いた音が聞こえた。その音を聞き警戒するフォウン。
そこから扉を開き出てきたのは•••。
「••••あんた誰ですか?!」
フォウンは出てきたそれに敵意を向ける。その人物は灰髪の男だ、奇妙な紋様が刻まれた変わったYシャツとズボンを纏った男。フォウンは一瞬首を傾げ、男はどこか可笑しそうに苦笑する。
「こんにちは。フォウン、そう警戒しないでよ。少なくとも僕は敵じゃない」
「そ、そんな事言って•••マスターに何したんですか!あんな変な球造ってマスターを操ろうと•••••」
「違うよ?あれは壱路君が魔神の力に手を出した結果だ」
「っ?!」
男はそう言いながら歩を進め、白い扉の前に立ち、軽くノックする。
「壱路君はここにいるよ?」
フォウンはそれを聞くと謎の男の存在も忘れ扉に駆け寄る。
「おーい、聞こえますか〜?無視しないで!ねぇ、マスター!開けてください!」
返事はしない、その後扉を開けようとするも、いくら押しても引いても叩いても扉が開く気配がない。
「マスター…どうして…」
まるで壱路から拒絶されてる気がして次第に涙を目に浮かべてしまうフォウン、その様子を見ていた男はーーー。
「………仕方ない」
そう言って男は鎖の中心ーーー南京錠の部分に触れる、するとどうだろう、炸裂音と同時に南京錠と鎖は消えてしまった。
そして扉が開くとそこには壱路が眠たそうな顔をして立っていた。
「••••?」
「ようやく起きましたか•••」
「まずだ〜〜!」
「••••フォウン」
フォウンに気づくも何処か心ここに在らずな表情をし、辺りを見渡す。
「だれ?」
「ん〜、話すと色々面倒ですからな〜、そこは置いといて、今の自分の状況は分かってる?」
近くにいた謎の男に対して無関心な顔で問い掛ける壱路、対して男は質問を返す。
「僕は魔神の力に手をつけた」
「はい、正解!そして君の精神はこの扉に閉じ込められたんだ、俗に言う封印だね」
「そ、それじゃあ何処かに魔神が•••••」
「マジンハオレガクッタヨ」
その声の主は黒の扉から現れた、影が人の形をしたものーーーヒューリーだ。
「••••••ヒューリーか」
「オォ、イチロ、ソレニアンタハ•••••マッ、イイカ」
「なんだ、体を奪いに来たの?なら••••」
「チガウナ、オレハモウカラダハイラナイ、サイキンニナッテ、オレニモココロノヨユウッテヤツガデテキテナ•••ヤッパリ、ソノカラダハオマエガツカウモンダ」
しかし壱路はそんな事に気に留めず、呟く。
「•••••どうでもいいよ。もう、何もかもどうでもいいんだ。だって僕はーーーーーーリュアを死なせたんだから」
「••••マスター」
「•••••イチロ」
失意と絶望に沈む壱路を見て何も言えないフォウンとヒューリー。
「••••壱路君、どうやら君は忘れてしまったようですね」
「••••え?」
「壱路君、あの時ーーーお母さんを亡くした時、君はどうやって立ち上がったんですか?」
「ア••••」
「?」
その言葉に壱路の目が微かに揺れた。
「それは••••」
「あの時、君は確かに絶望しました」
男は淡々と言葉を口にする。
「だけど、再び立ち上がることが出来たのは•••」
「そうだ••••母さんの最後の言葉」
「アレニハ、ゴメンネノアトニ、ツヅキガアッタンダ」
「そ、そうなんですか!?」
「え?フォウン知ってんの?」
「随分前に記憶を覗き見た際にちょっと•••」
フォウンの不法進入罪の告白はスルーして壱路は回想する。
「さぁ、改めて思い出すんだ」
「母さんは、あの時•••思い出した、そうだ」
それは母が息を引き取る前、最後に口にした言葉。
ーーーーーー貴方は、生きなさい。
その顔は笑顔が映っていた。母は死ぬ事より壱路の幸せを願っていたのだ。だからこそ壱路は希望を持てた、母の願いが、想いが彼を生かしたのだ。
「笑ってたよ、母さん」
「そうだ、君の胸の中には悲しみだけじゃなく希望も置いていったんだ」
「また、忘れてたんだ。僕は••••なら、ここで惚けてる場合じゃないな」
そして壱路は立ち上がる、その瞳にもう絶望はなかった、母の、リュアの願いを胸に宿し立ち上がったのだ。
「さぁ、リュアちゃんの仇を取りに行きましょう。まだ君に立ち上がる勇気があるならね?」
「はは、いろいろ聞きたい事はあるけど、それはまた後でいいや。勝てるかどうかは神のみぞ知るって、ところかな?」
「いますよ、女神ならね?」
「•••••なら、その女神に賭けてみるか」
男と壱路は互いにシニカルな笑みを浮かべあう。
「オレモテツダッテヤルヨ、アイツニイッパツキメテヤル」
「ありがとな、ヒューリー」
「•••••フン」
そして少しずつ、だが確実にその場が色あせ霞んでいく。現実へ向かう前兆だ。
「そういえばさ、あんた名前は?」
最後に壱路は男に尋ねる。
「•••チェインです。チェイン・ドミネイト」
その男ーーーチェインは笑顔で答えた。
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そして現実、不意に立ち止まった無貌之黒王を警戒するダンテ、そして目の前を見てこう告げる。
「元に戻ったか。でも、今のお前じゃ俺に勝つことはできないぜ」
そこに立っていたのは黒い髪、黒い服装、そしてメガネを掛けた壱路、みると欠落した筈の左手は何事もなかったかのごとく生えている。
左手を見た後、壱路はダンテを見据え、宣言する。
「••••それはどうかな?」
そして壱路は叫ぶ、新たな力の名を。
「来いーーーー《創破支配》!」
そこに現れたのは堕天使、黒ずんだ蝙蝠の羽と純白の翼を持つ異形の天使だった。
「さて、マスター、行きましょう」
「あぁ、そうだな•••••」
壱路は一旦目を閉じると、覚悟を決め、こう言った。
「これで終わりにしよう」
これより、戦いは終わりを迎える。
次回!
最終回!
壱路が迎える結末は••••?!
乞うご期待!




