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黎明のイチロ 〜空から落ちた支配者〜  作者: 作読双筆
第八章 魔神戦役と伝説の始まり 〜赤の真実、黒の根源、世界の謎〜
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第七十六話 過去と再会、そして•••

二ヶ月振りに更新!


壱路の過去が明かされます。



タッタッタッ。


走る、走る、走るーーー。


その手を伸ばして、走り続ける。彼女を助ける為に、彼女を守る為に、彼女を救う為に。


「やめろ、やめろぉ!」

「•••••」


後ろに佇む黒い影、それが彼女の命を奪おうと刃を振り下ろそうとする。


止めなくちゃ、止めなくちゃ止めなくちゃ止めなくちゃとめなくちゃトメナクチャーーーー。


「•••ーーー、ーーーーー、ーーーー」

「え?」


彼女は何か言った。


けど聞こえない、そして無慈悲に刃が振り下ろされる。


「あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


彼女アサナが死んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ーーーーッ!」


悪夢を見た。見ると顔からは汗が吹き出、喉もカラカラに乾いていた。


そこは赤い塔の内部、その中心部に座する玉座にダンテは、かつての過去の悲劇を夢で見ていた。


「夢か•••またあの夢だ•••」


彼の過去にして原点ーーーーーー名を捨てて、悪となった男の始まり。


胸に手を当てて、深呼吸して心を落ち着かせて、ダンテは懐から何かを取り出す。


それは写真、この世界ではないはずの物、そこには一人の少女の姿があった。


そしてダンテは普段の姿からは想像できない程穏やかな表情でこう溢す。


「これから俺がすることは自分勝手な破壊だ。この世界を滅ぼす事だ。なぁ、お前は怒るか?悲しむか?喜んでくれない事は確かだがな」


その問いに答えは帰ってこない。写真の中の少女はただ笑顔を浮かべるだけ、もう見る事のできない笑顔をーーーー。


「なぁ、お前は俺を許してくれるのか?

ーーーーーー朝菜アサナ


返事は帰ってこない。それはもう聞くことのない声だから。


その少女の名を背負い、男はそっと玉座から立ち上がる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、その頃いきなり飛び出した壱路といえば、突然できた赤い塔の眼の前まで来ていた。しかしその目には落ち着きがなく、始終ウロウロしている。


「マスター、どうしたんですか?」

「•••気のせいか?いや確かにあれは•••!」


あたりを必死に見渡す壱路。


その時だった。


「よう、元気にしてたようだな」

「•••••っ!」


声がした方向に刀を抜き突きつける。


空中そこに立っていたのは黒いよれよれのスーツを緩く着こなし、チリチリ髪と無精髭を生やした中年の男だった。


男は刀を突きつけられながらも不敵な表情で笑って軽口を叩く。


「いきなりご挨拶だな」

「•••••な、なんであんたが、あんたがここに居るんだ!•••••父さん(・・・)

「あぁ、そうだな、本当ならここにいないもんな、俺は」


それは壱路の血を分けた実の父、本来ならばここにいるはずの無い人物だった。


鎖神波留人さがみ はると•••それが彼の、壱路の父親の名前だった。


波留は突きつけられた『オウリュウ』をじっと見つめると、眼を鋭くさせて壱路に問いた。


「一つ聞いておく、その刀、抜くのに随分慣れてたが••••何人、それで斬った?」

「•••••人は三人、魔物は結構狩った」


壱路はその質問の意図が理解できなかったが取り敢えず答えることにした。


「殺す事に違和感は?」

「感じまくりだ。やる前は何も感じなくても終わった後で戸惑うよ、でも••••腹括ったから」


そう、人前には出さないが壱路は最初、誰かと戦う事にかなり抵抗を抱いていた。良くも悪くも死が身近にない日本で暮らしていた壱路にとって、魔物を倒す事は出来ても人を斬る事には躊躇いがあった。


しかし、だからこそ大切なものが出来た時、それらを背負う覚悟を持って刀を振るう事を壱路は誓っていた。もう、誰も目も前からいなくならないように。


それは壱路の過去に関係していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

壱路には尊敬する人がいた。


優しく、怒るときには怒るが決める所はちゃんと決める、そんな破天荒な人だった。


実は壱路が困ってる人をなんやかんやで放っておけないのもその人の性格を受け継いでいるからである。


その名は鎖神壱夜さがみ いよ、壱路の母親である。


父と母は壱路を時に厳しく、優しく接し、愛情を注いだ。


壱路は母が、両親が大好きだった。


しかし、幸せな日々は突如として終わる。


壱路が小さい頃、母は病を患い、床に伏せたのだ。


その病室で母の命が消えようとしていた、そして最後こう言い残して息をひきとった。


「壱路••••••、ごめんね、ーーーー•••」


それが母の最期の言葉だった。


身近に起きた死、幼い壱路の心にその事実はあまりにも大きすぎた。


絶望、無力感、そして何も出来ない自分への怒り、そして悲しみが壱路の心を閉ざした。


その後、ある出来事がきっかけで壱路は一応立ち直るものの、その心が開かれるのは異世界ーーーーーー【アナムネシス】に来てからの事である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

過去の事を思い出しながらも壱路は思う。


(•••••まだ、分かんないよ。僕が歩いている道が正しいかどうかなんて、)


その眼には未だ迷いながらも歩みを続ける覚悟を持った瞳だった。


「•••どうやら曲がらずに済んでるようだな、命を奪う事に慣れてしまったら、そいつはもう人間じゃねぇ。だがその重みを忘れない限り、お前は人の路を行ける。大丈夫だ」


波留人は満足そうに笑う、そして壱路も刀を鞘に収めながら皮肉を零す。


「で、それで父さんはなんでここにいるの?ここは異世界だ。電車でもバスでも飛行機でもロケットでも来れないと思うんだけど」


顔は笑顔を浮かべながらも声は全く笑った感じを出さずに言い放つ。


「いや、これにはな、話すととんでもなく深く、そして複雑な事情がな」


その口調は普段壱路が話の流れを断つ際によく使うセリフだった。それを聞き壱路はひとまず追求をやめた。


「•••••••もういいよまた後で聞くから」

「ほんとお前はいい息子だよ」

「誰の子だと思ってるんだ?」

「俺と母さんの子だ」


そしてふざけた態度を改め真剣な表情で波留人は側に立つ砂の塔を見つめた。


「しかし、これを作ったやつは魔神の核自体を使ってるみたいだな、けど本来ならこれは間違った使い方だ」

「間違った使い方?!」


突如気になる言葉を口にした波留人に壱路は詰め寄る。


「うん、この塔は球を暴走状態にして作ったもんだが、本当の使い方じゃない」

「えぇ?!どういう事だよ!」

「あれ自体は膨大な魔力の塊だ。本来はそれをパソコンの増設メモリや充電器みたいな感じで魔力を接続してその生物のキャパを増やすのが本来の用途だが、あるバカがそれに呪いを染み込ませちまって、侵され染まって意思を持ったのが魔神だ。魔神も生物の器を借りなきゃ力を出せないからな」

「そうか•••••じゃあ、仮に誰かがそれを取り込んでいたら••••?」

「そいつは魔神の力を持ったバケモンになるな、意思が強ければ問題ないがな」


その説明に壱路は呆然としながらも理解しようとするも新たな疑問が浮かんできた。


「•••••なんでそんなこと知ってるんだ、って聞いても答えてくれないか」

「まぁ、あれだ。全てはこの一件が片付いてか•••••らぁぁ!?」


波留人は言葉の途中で素っ頓狂な声を上げた。その視線は下を向いている。


「え、なに、どうかし•••」


壱路は波留人の視線の方向を見て、その理由に気づいた。


そう、下にはなんと多くの魔物や機械、魑魅魍魎が軍を率いて行進をしていた。


「なんだこれ•••ざっと見積もって•••ひゃ、百万の兵だと!」

「(なんで百万だよ!フォウン、なんで教えてくれなかったの!?)」

「(いやいや、流石にこんなにいたら気付きますよ!なんかたった今湧いてきたみたいですよ)」


真下に進む大軍に圧倒される壱路達、だがその時間は長く続かなかった。


「おい」


後ろからの突然の声、ふたりは恐る恐る振り向くとーーーーーー。


「「え?」」


そこには剣を振りかざしたダンテの姿があった。そしてすぐさま刃が襲いかかる。


「危ない、父さん!」

「え?なにうおぉぉぉぁぁぁぁ!」


壱路は攻撃を避けると同時に波留人の首を掴むとすぐさま魔法による強化で魔城の方向へ思いっきり投げ飛ばした。


飛ばされた波留人は最後に壱路の力を見てこう呟いた。


「なんだ••••あの力は、似ているがあいつ(・・・)の力とは大分違う、それにあの相手•••••かなりマズイ」


そして彼は意味深な事を口にながら星となり•••消えた。


「(よし、城の方に飛ばしたから多分大丈夫のはず)」

「(って、普通投げ飛ばしますか?!)」


フォウンのツッコミを無視し壱路はダンテと向き合う。


「ふん、随分と早い再戦になったな」

「いや、すぐに帰らせていただきます」

「いやいや、帰って地震か津波でも起こされて軍隊全滅されたら困るからさ、•••••そろそろケリをつけようか」


そして二人の死闘が幕を開けようとしていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃、塔に行ってしまった壱路を思いながらリュアは狐のセイと共に城の廊下を歩いていた。


「どうしたんだろう、イチロさん•••••」

「相当慌ててたぜ、イチロの奴」

「うん•••魔王様にイチロさんが見つかったか、また聞きに行こう、セイちゃん」


(なんだろう•••すごく嫌な感じがする。もしかしてイチロさんに何かあった?うぅ〜〜〜!だ、だめだ、考えたら不安になってきた)


消えない不安を心に押し込みながら、リュアの歩きのリズムが早くなる。


「おいおいリュアちゃん、少しは落ち着けよ。イチロなら無事だって」

「あっ•••、ごめん。そうだよね」


そして再び歩みを進めようとしたその時、


ドゴッガッァァァン!


前方で城の壁が崩落し、何かが突っ込んできた。見るとその残骸の上に一人の男の姿があった。


「うっ、•••いてててて」


声を唸らせながら男は立ち上がる。


「え?ええ?だ、大丈夫ですか?!」

「ん•••!?、なんでお前が•••」


男性ーーーーーー波留人はリュアを見てまるで幽霊を見たかの様な表情を見せたがすぐにかぶりを振り否定した。


「•••いや、悪い。人違いだ、すまんな•••••って、そうだ!イチロの奴は•••」

「イチロさん?!あなたは•••イチロさんを知ってるんですか?!」

「へ?イチロの知り合いか?それなら話が早い。早急に手を打たないと、今のままじゃ壱路は•••死ぬ」


波留人は胸に渦巻く不安を押し込みながら壱路のいる砂の塔を見つめた。

次回!


壱路、敗北?!


ダンテの真の実力が炸裂!


そしてさらなる悲劇の幕が上がる時、

壱路に異変が!


哀しみと鮮血の中で悪夢は微笑むーーーー。


乞うご期待!

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