第七十話 燈狐と精霊石と謎の男
壱路の目の前に突然現れた喋る狐、その狐は壱路を見てこう告げた。
「ようやく見つけたぞ、俺の宿縁!さぁ、この最強の精霊!•••になる予定の俺様と契約に値するか見てやろう!」
「せ、精霊?!君が?」
どうやらこの狐、壱路が探していた精霊族のようだ。確かにその身から溢れ漂う魔力から只者でないことがわかる。
「それに契約?僕と?」
「へっ、それを決めんのはお前が強いかどうかだ!くらいな!」
有無も言わさずにその狐は九本の尾を鞭のように振るってきた。壱路は咄嗟に《コウトクオウ》になりその九本の鞭による衝撃から身を守る。
「ーーーー《コウトクオウ》!」
「おぉ!?かっけぇな!」
狐は目をキラキラさせてコウトクオウを見つめてるその隙に壱路はアマツチにこう告げた。
「アマツチ、お前はザンとリュアちゃん連れて避難だ!ここは僕が抑える!」
「わ、分かったんだな!」
「•••さて、待たせたな」
そして壱路は再度謎の狐に向かい構えた。
「一応言っとくが人が集まる心配はいらんぜ、結界張ってるからな、邪魔者はいない」
「そうか、••••じゃあ、やるか!」
そして一時の静寂が過ぎた次の瞬間、彼らは互いに攻撃を繰り出した。
「《流鏑雨》」
「《九尾ノ弾》」
《雨竜之錆》を散弾状にして飛ばす《流鏑雨》を撃ち込む壱路、が狐も尻尾から魔力のような弾丸を出し、それを相殺する。
しかし狐は気づいてなかった、既に壱路が自分の目前に迫っていた事を。
「《村雨》」
《流鏑雨》はブラフ。本命は手に成形した《村雨》による攻撃。
壱路は手に成形された刃を振りかざす•••。
「効かねぇ!」
だが、刃は狐には通らなかった、そして横から強い衝撃を感じ吹き飛ばされる。尻尾の一つに払われ、周囲を囲む塀に激突したのだ。
「ぐっ•••••!(くそ、落下のダメージがまだ••••)」
「どうした?もう終わりか?」
「•••やるしかないか」
壱路は追い詰められていた、だがその眼から闘志は消えていない。
彼はそっと腰をかがめ、右腕を引き、力を込めた。
以前、『コウトクオウ』にはその身は能力は全部で五つある、という事を話しただろうか?
一つは身体の限界を取っ払い強制的に上昇させること。
一つは竜の鱗による灼熱の大地から極寒の環境の適応や敵の攻撃を吸収、対応可能にする高い防御力、
そして状態変化が自由自在の超高度万能鉄《雨竜之錆》。
そして残り二つの能力については話してなかったが、壱路はその内の一つを今使おうとしているのだ。
さて、この能力を話すにはまず、『オウリュウ』の起源についてを話さなければならない。
『オウリュウ』は元々、ある魔物の骨の化石を材料に作られた刀だった。
それはかつて始祖の獣と呼ばれた九匹の獣、アナムネシスの神話に登場する唯一神にして創造神が創造した九匹の獣ーーーー。
白狼
黒虎
灰鯨
赫梟
藍馬
応竜
霊亀
麒麟
鳳凰
この内の五匹、白狼、黒虎、灰鯨、赫梟、藍馬は人と交わり獣人族の祖先、五大獣人と呼ばれ、残りの四匹、応竜、霊亀、麒麟、鳳凰は自ら深き眠りについたのだ。
そして偶然、その化石をザンが手に入れた事で彼らは『四霊器』として蘇ることになったのだ。
その始祖の獣の一匹、応竜を素材に使われた『オウリュウ』は今、かつて天を駆け雨を降らせたその古の獣の力を解放せんとしていた。
竜の体の一部を武具のように再現し、放つ必殺の力ーーーー。
「僕は個人的に《竜化》って呼んでる、はっきり言って手加減できないからな?覚悟しとけ」
「へぇ、面白え!乗るか反るか、やってみるのもまた一興だ!」
「••••(分かってるな、オウリュウ、これは一回使うとコウトクオウは強制解除される、だから絶対外せない)」
「(分かってるよ、イチロ。全力で決める!)」
この《竜化》は一回の変身に付き一回しか発動できない。全ての力を込めて放つ代わり全ての力を吸い取る奥の手、まさしく諸刃の剣と表現するに等しいものであった。
そして状況は動き出す。
「行くぜ!《天麩螺》!」
「••••••《竜化・尾之槍》!」
狐の尻尾が一つにまとまり、鋭く螺旋を描く槍、いやドリルとなり突っ込んできた。
一方壱路も右腕に鱗が螺旋を描き纏わりつき、巨大な突撃槍となりそれを構えながら放つ。
惜しくも双方、槍と言う同じ武器を選択したのだ。
「いっけぇぇぇ!」
「うおおぉぉぉ!」
双方の槍がその雌雄を決しようとしたその時、声が響き渡った。
ーーーーやめなさい!
ピタッ!
その声に双方は攻撃を止める。
「え••••この声は?」
声がした方を見るとそこには金色の髪を持つ妙齢の女性が立っていた。顔はもちろんその物腰から艶やかな色気を醸し出すその女性は激怒の表情を顔に宿し、狐を叱りつける。
「セイ!もうやめなさい、いきなり飛び出したと思ったら」
「お、おふくろ•••」
狐はその女性を母と呼んだ。尻尾を震わせて女性を見る狐を見ているとだんだん可哀想になってきた。
「さぁ、尻尾を納めなさい、もうそこの人が貴方の主人に相応しいという事はわかった筈です!」
「••••分かった」
母親の剣幕に狐ーーーセイは渋々尻尾を縮めてショボンとした。やはり精霊でも母は強し、という事だろう。
「(な、なんとかなったみたいですね〜、自然と命の危機を感じて目が覚めましたよ•••)」
先程から黙っていたフォウン(気絶していたようで、機械が気絶するのかはこの際気にしないでほしい)からそんな感想を聞き、壱路は脱力しながら呟いた。
「全くだな•••ふぅ」
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その後、一先ず大まかなあらましをリュア達に説明し、家の中でお茶を飲みながら話を進める。
「改めまして、わたくし、そこにいる愚息の母で精霊族の長をしております、クズノハと申します」
「•••••俺はセイ、さっきはいきなり突っかかって悪かったな、宿縁」
「いや別に••••」
聞くと精霊はそれぞれ宿縁と呼ばれる魔力の波長がピッタリ一致する人間がおり、その人間を宿縁と呼んでいるらしい。宿縁と出逢う事は精霊にとってはとても名誉であり、奇跡であるらしい。
「そうだったのか、それにしても契約とかする時、みんなあんな感じで試すのか?」
「いえ、あれはセイが勝手にした事です」
「おふくろ〜!勘弁してくれよ、俺、あん時すごく嬉しくて舞い上がっちゃってさ〜〜!」
照れながら笑うセイにリュアは一つ質問をした。
「そ、それでイチロさんはどうだったんですか?」
「あぁ、その点はバッチリだぜ!イチロは契約に値する存在だ!」
契約とは精霊と人の間に依り代と呼ばれる物を媒介に擬似的な魔力のラインを繋ぐ事である。それにより互いの魔力を相乗効果で上昇したりする事が可能である。また精霊は本来魔力の濃度が薄い(地下は魔力の濃度が濃いのだ)地上で活動する事は砂漠にいる事に等しいくらい困難なのだが、契約すれば地上でも活動が可能となる。
しかし契約にはリスクがあり相性が悪ければ最悪双方死亡という可能性もあるのだ。その為相手との相性は重要事項であり、因みに魔力の波長がピッタリの宿縁との契約は必ず成功するというのでそれも宿縁が有り難られてる理由の一つだ。
ついでに契約すれば地下では使えない魔法も使えるようになるのだ。
「この地下では魔法は使えないでしょう?あれはこの地にある精霊石が魔法を吸収してしまう為なのです」
「精霊石?」
壱路が疑問の声をあげると、クズノハは懐から赤い結晶を取り出して見せた。
「こちらの赤い結晶が精霊石です、サイズは小さいですが•••」
その手の平で掴めるサイズの結晶は炎の様に紅く美しかった。
精霊石は本来精霊が魔力を補充する際に食らう食用鉱物で変質した魔力、つまり魔素や魔法を吸収する性質を持っている不思議な鉱物なのだ。
その結晶をまじまじと見ている時、壱路のコートの胸ポケットに入っていたフォウンが叫んだ。
「あ〜〜!マスター!思い出しましたよ!あれ、ブダノストの奴が使ってたあの魔力封じの!」
「ん?あぁ!」
それを聞き、壱路はようやく思い出した。かつて【デューポンの山】でブダノストと対峙した時、幹部のバックーソィが懐から取り出した紅い短剣、あれと煌めきが同じだった(まぁ、短剣の方が禍々しかったのだが)。
「なるほど、あの魔力封じの短剣はこれを素材にしていたのか!」
「外に精霊石が!?••••や、やはりあの件はそういう裏が•••」
「やはり、とは?」
クズノハの狼狽えぶりにザンは鋭い視線を見せた。
「最近、精霊石が取れる鉱山と保管庫に貯蔵された石が盗まれる事件が起き、その上精霊も大勢行方不明となる事件が重なって精霊の里を封鎖していたのです•••しかし、イチロさんが見た物が本当に精霊石であれば最近暗夜王が接触した人物が絡んでいると見ていいでしょう」
「最近暗夜王が接触した人物?」
クズノハによれば最近、暗夜王が地上から来たある男と怪しい取引を始めたのだという。そして暗夜王はその男とよからぬ計画を実行しようと動いているらしい。
その男は灰色のマフラーと赤いロングコートを身に付けた黒髪黒目の青年だというのだ。
その男の特徴を聞き壱路は少し、思い当たる事があった(出来れば会いたくない相手だ)。
「それは•••まさかなぁ」
「けどマスター、特徴が揃い過ぎてますよ」
「•••あの、その男の名前って分かりますか?」
壱路の問いにクズノハは静かに答えた。
「はい•••••その男はダンテという名前だそうです」
その名前を聞いた壱路はまるで苦虫を潰したような表情だったという。
次回!
繋がったリベルオ・アサナと暗夜王の関係!
不穏な計画を止める為セイと精霊契約に臨むイチロ!
そして事態は急展開を迎える!
精霊と共に暗き闇に立ち向かえ!
乞うご期待!




