第六十六話 伝説!落人族《アンダーマ》
壱路の暴挙によって恐怖の落下ツアーを体験した一同。地面とぶつかる寸前で壱路が全員の落下速度をゼロにして助かったのだが••••••。
「イ、イチロ!テメェ、計ったな!」
「ん、いやぁすまんすまん、でもこれはいいなぁ!すごくワクワクした!」
暴挙に激怒するアルシャークだが、壱路は反省の色を見せずむしろ生き生きとした表情をしていた。
そんな様子を見て他のメンバーは、
「お、お兄ちゃん、イチロさんの思いつきは相変わらずみたいだね•••」
「けど、流石にきついぜ••••まぁ、今更なぁ」
「はい、怖かったですー!でもいまさら、ですね」
もう諦めにも似た感情を抱いていた。いつもの事だからしょうがない、と。
だが、約1名だけ、違う事を考えてる人が一人いた。
「•••••ここに来るのは、何年ぶりだろうかな」
テンイートだ。なぜか一人黄昏ている。
「あれ〜?テンイートさん、ここに来たことがあるんですか?」
いつの間にか隣にいた(そして人型になった)フォウンは不思議そうに問いかける、それに驚くテンイート。
「え?うわ!なんすか?ここここは来るの初めてっすよ?」
「いや、嘘はつかなくていいからさ、そろそろ話してくれない?」
「な、なんのことっすか?」
「いや、それはね君のステータスを見てからずっと疑問に思ってたんだよ、フォウン、見せてやって」
「はい!」
すると突然透明なデータ画面が映り出す、まるでバーチャルモニターのようなそれに、テンイートのステータスが書かれていた。
テンイート
Lv 89 age:49
HP B
MP A
ATX B
DEF B
AGL A
EXP 73875
NEXT 26125
【魔法属性】 無
【魔法】変身
〈人体変化開放・能力模倣開放・魔法模倣開放・合成変化開放・超変身開放・想像変身開放〉
〈称号〉
落人族・隠されし第五の種族・変身者・万獣変化・魔王騎士団序列五位・家出人・影の守護者
そのステータスの〈称号〉には落人族という聞いたこともない種族名が書かれていた。
「落人族、だっけ?これを初対面の時そんな種族初めて見たから驚いたよ」
「•••••確かに、俺は魔族じゃないっす。落人族っす、でも俺は故郷を捨てて••••」
「•••••分かってるよ、だから話を聞かせてくれ。落人族とは何なんだ?」
「•••分かったっす、じゃあ、自分について来てもらえまっすか?話は歩きながらするっす」
「ありがとう」
壱路の説得?というか暴露により、テンイートは歩きながら神妙な顔をして語り始めた。穴底の近くにある洞窟を通りながら、話を進める。
洞窟の中は暗く灯された松明の明かりだけが辺りを照らす。
落人族はいつから生きてるのか分からない、歴史の表舞台に出てこない幻の第五の種族。大きな特徴は他種族と一線をなす身体能力と白い肌である。
「俺たちは生まれた時から地下に暮らしてました。でも、地下では俺らは魔法を使えなかったんです」
「魔法が使えない?(確かにこの洞窟に入ってから制限がかかったみたいな•••)」
なんでも落人族の土地には体外に出た魔力を吸収してしまうらしく唯一の例外が落ちてきた【奈落】の穴底だったらしい。
「俺は、あの穴底で初めて魔法が使える事に気付き、そこから鳥に変身して飛び立ちました。そして流浪の末、魔王騎士団に入ったんす」
どうやら初めての光にテンションが上がって行動したらしい。太陽に耐性ちゃんとあってよかった〜、とテンイートは不意に漏らしていた。
「なるほど、そういう事だったのか」
「その通りっす、••••あと、その」
「いや、話しづらい事は後でいいから」
「•••はい、そういえばイチロさんはどうやって落人族の事を?」
テンイートの疑問に壱路は一冊の本と取り出して答えた。
「この【精霊の書】に落人族の事が断片的に示されていた、彼らは精霊と共存し、共に力をあわせる、とね」
「はいっす、精霊族と俺らは共存関係にあるっす、俺にも長いこと会ってませんが精霊の友達が•••••あ、そろそろつきますよ」
どうやら話している間に目的地に着いたようだ。そしてテンイートは誇らしげに
「ここが俺たち落人族の里、永夜地下都【ウキヨバナ】っす!」
「おお•••」
「こいつは•••」
「きれい•••」
「ピカピカだぁ〜!」
「うわぁ••••」
目の前に広がるのはゆらゆらと灯る明かりの数々、そして賑やかな街並み、その光景に壱路は一瞬、衝撃を覚えた。
そう目の前に広がっているのは、日本の雰囲気が漂う街並み(映画やドラマでよく見る江戸時代の風景)が広がっていた。地下のせいで空は見えないが、それに変わる灯りという明かりがまるで鬼火のように揺れている。
「さて、みんな、俺から離れないでくださいね」
テンイートの案内で歩みを進める一行。
「•••••俺たち、浮いてないかな」
「そ、それは無いだろ、普通の服装の人たちも居るし、けどここの人達、なんな妙な色気があるな」
「やっぱり変ですね師匠、ここ、さっきからバーだかパブだかクラブとかいうお店ばかりですよ」
「そ、そうですよ、イチロさん、それにお店の女の人、綺麗なんですけど、なんだか悲しそうで•••」
「マスター、やっぱりここって•••••」
「••••やっぱりか」
仲間達の疑問にイチロは薄々感づいていた。街の作り、そしてそこに並ぶ店の種類、一部を除く人々の服装、そして何よりリュアの『女性は綺麗だが、なんか悲しそう』という言葉に確信をもち、テンイートに問いかけた。
「おい、テンイートさん。ここってまさか•••••花街か?」
そう、壱路はかつて栄えた日本の遊郭、吉原を思い浮かべながらそう述べた。
次回!
地下に隠された都は花街だった?!
テンイートが語る都の闇、そして迫る新たな敵の影!
魔法が使えない地下で壱路達は絶体絶命の危機に?!
乞うご期待!




