第六十話 決着
壱路が発動した奥の手、《障害ヲ打チ破ル者》により獣王が吹っ飛ばされ、一気に勝負の行方が分からなくなった。
そしてその姿を見て獣共和国の面々は愕然とする。
「なんだあの力は?!今までは本気ではなかったと言う事か?!」
「•••むぅ」
「いやー、これは」
「父上••••」
「おと様••••」
「とう様•••」
「ナガザ様•••」
だが顔色が悪いバサト達とは裏腹にアサミケ達はかなり盛り上がっていた。
「うぉぉぉ!なんだなんだあれは!なんとなく私の研究者としての勘があれはすごいものだと教えてくれてる!」
「た、確かに!」
「イ、イチロ••••」
「イチロさん•••••かっこいい!」
そして魔王国の方も驚愕と動揺の空気に包まれていた。
「ふははははは!見ましたか!?これがマスターの力の一端です!」
「「「「「•••••••」」」」」
「す、すごい••••••」
「やべえぜ••••••」
「そうだね••••••」
「はい•••••」
「こ、こんなにも圧倒的だなんて•••」
ただ、皆心の中でこう思った。あの力は圧倒的すぎると。
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その頃壱路とナガザは•••••。
「ふぅ•••やっぱり力加減が難しいな」
そんな呑気な事を言いながら、頭を掻き毟る。そして獣王を吹き飛ばした方向を見るが、気がつくと獣王はもう立ち上がっていた。雄叫びをあげながら。
「このぉぉぉぉぉぉ!」
「げぇ、もう復活したの?」
「ぬはははははは!面白い!面白いぞ!やはりお前は最高に面白い奴だ!」
笑いながら斧を振り回し迫ってくるナガザ、壱路はその様子をゆったりと見ながら、さらなる力の一端を見せる。
「《化身・俊脚駱駝》」
壱路が唱えると脚に駱駝の蹄を模した具足が現れ、壱路の脚に装着される。そして地面にヒビを残し、その場から消える。
「ぬぉぉぉぉ!」
「•••••せぇい、やぁ!」
斧と具足がぶつかり合う。その一撃一撃が交わるたびに空気が震える。
「さっき結構力入れて殴ったのに、まだ動けんのかよ。脳筋もここまでくれば立派としか言えないな」
「ふははははは!言うではないか!」
せめぎ合いが始まり、暫し経つと一方にある変化が現れた。
壱路だ。みると壱路の顔色は段々悪くなっている。息切れもしており、倒れる一歩手前みたいに見える。
「はぁ、はぁ、はぁ••••(まずい、これじゃあすぐに限界がくるな)」
実はこの《障害ヲ打チ破ル者》、その一つ一つが『超必殺技』級の力を持つのだが、消耗が半端なく、さらに使用するのに(というかこのモードを創り出す為に)条件を三つ守らなければならなかった。
一つ、化身(全10種)はそれぞれ1日1回しか使えない。
二つ、《障害ヲ打チ破ル者》中は他の魔法を使うことはできない。
そして三つ目は、化身(全10種)を全て使った場合、約1日魔法を使えなくなる事だった。
つまりこれが獣王に効かなければ壱路にはもう後がない。まさしく本当の意味で奥の手なのだ。
「(使ったのは三つ•••『強風』と『雄牛』、『駱駝』だったな。こいつらが効かないとなると••••••仕方ないあれを使うか•••••)」
壱路はナガザから距離を取り、具足を解除した。
「うむ?諦めたのか?」
「いやそろそろケリをつけようかとね」
「ぬ•••••なっ!?」
壱路は右手を前に出し構える、すると周囲の地面から金色の刃が咲いてきた。それは古今東西を問わず、様々な形をした刀剣、金色に輝く剣たちが壱路の周囲に浮かぶ。
その内の一つを壱路は手に取り、刃を獣王に向けた。それに合わせるように周囲に浮かぶ剣たちも一斉に刃という刃を向ける。
「《化身・金色剣製》」
それは壱路のお気に入りであり、最初に考え付いた化身だった。
《化身・金色剣製》•••それはウルスラグナが持つ10の姿の一つ『黄金の刃のある剣を持つ人間』から考えついた力。
その実態はなんと『概念支配』と言う超最高峰の技を使った壱路の思うとおりに動く『絶対概念の剣』を創り出す化身だ。つまり『切断』の概念をつかい創造すれば『絶対切断の剣』、『貫通』の概念をつかい創造すれば『絶対貫通の剣』、と言うように、魔力と概念より創造、形成し扱う事が出来るのだ(詳しい説明はまた今度だ)。
しかし消費魔力は半端無いので1日1回しか使えないのだ。
「これでケリをつけてやるよ」
「ふふふ、面白い!さぁ何処からでも•••」
「良いんだな?」
「•••••なっ?!」
気付くと壱路はナガザの後ろに立っていた。そして手にした金色の剣を振り下ろす。
ガキィィィィン!
その一撃は斧で防がれる。しかし、剣が触れた部分から徐々にヒビがはいっていき•••••最終的に粉々に砕け散った。
「なっ、そんな馬鹿な?!」
「だってこれは『絶対破壊の剣』だからな、まぁこれ大抵一回使うと消えちゃうんだけど、でもこれで終わりだ•••」
壱路は周囲に浮いている剣の一振りを手に取り、とどめの一撃を、当てようとする。
「舐めるなぁ!《獅子粉塵》!」
しかしその一撃が当たることはなかった。ナガザが隠していた奥の手、《獅子粉塵》により全身が炎に包まれた獅子となったナガザには物理攻撃は通じず、その一撃は空振りとなった。
獣王はこのとき勝利を確信していた。その炎を纏った顎門で壱路にとどめの一撃を当てようとする。
「•••••勝った!」
そう呟くと同時に彼は見た。壱路は••••笑っていた。
「あぁ、そうだな•••お前の負けだ」
そう言うと壱路は脚に力を入れて駆ける。その先にあったのは•••武器である『オウリュウ』だった。
そして両手に金色の剣を形成、そのまま『オウリュウ』にぶつける。そして彼は呟いた。
「喰え、『オウリュウ』」
その言葉が引きがねとなり、ふた振りの剣は『オウリュウ』に吸収された。それと同時に『オウリュウ』の刃が金色に輝くーーー。
その輝きをみてナガザは気づいた。自分は誘導されていたのだと、この展開の為に•••。
「そ、それがお前の狙いか!」
「あぁ、••••喰らえ!」
壱路は『オウリュウ』を手に、そのまま一閃する。ただ振り下ろすだけの一閃、だがそれは壱路が吸収させた『絶対切断』の概念をもつ一撃だった。
その一撃が今、獣王を討たんとする。
ザシュッ!ギュワァァァァン!
今、目に映る全てを切断する終わりの一閃が炸裂した。
壱路は最初から《化身・金色剣製》を発動した時点でこの展開になるように仕込んでいた。
まず、周囲に浮かぶ剣達と右手の『絶対破壊の剣』に注目させ、小さくし左手に持っていた『絶対転移の剣』でナガザの後ろに転移。
そして直ぐに『絶対破壊の剣』で攻撃し、武器を破壊。とどめの一撃••••と見せ掛けて『絶対加速の剣』で『オウリュウ』の元に駆ける。そして形成したふた振りの剣、『絶対切断の剣』と『絶対不殺の剣』を『オウリュウ』に吸収させ、その一撃を叩き込むーーー。
策と言えば余りにお粗末だが、その賭けに壱路は勝った。
その一撃により獣王は倒れ、赤いオーラも体を包んでいた炎も消え、気絶している(壱路は殺すつもりがなかったのと『絶対不殺の剣』の効果でもある)。
勝利を掴んだのはーーーー異世界の支配者、イチロ・サガミだった。
(終わった••••これで僕の計画はほぼ成功だ。後はよろしくねーーー泣き虫魔王様?じゃ、ちょっと寝るかぁ〜•••••)
後の事は仲間に託し、壱路は束の間の眠りについた。
次回!
死闘を制した壱路!
勝利した魔王国が獣共和国に出した条件とは•••。
そしてその裏で沈黙を保っていた人帝国がついに動き出す!
事態は急展開を迎える!
乞うご期待!




