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黎明のイチロ 〜空から落ちた支配者〜  作者: 作読双筆
第六章 三国大戦 〜英雄、表舞台に現る〜
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第五十六話 魔王と獣王の邂逅、そして決闘へ

壱路は提案した戦争をせずに勝つ方法を話した。それを聞いた一同の心には驚愕と衝撃に満ちていた。それらの動揺を抑えながら、ピアは問いかけた。



「た、確かにこの策なら無駄な犠牲を払わないで済む。それどころか•••」

「でも、これは最終的には力技だからな。まぁ、後は相手が乗るかどうかだな•••」

「いや、充分だ。我らはこの策に全てを賭けよう!」

「••••一応僕らも協力するよ」

「よし、みんな、私達はこの策に全てを賭ける!みな、命を賭してかかろう!」



そして魔王の鶴の一声ですんなり決まった。これがどう転ぶか、それはまだ誰も分からない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日ーーー。



【アフェンアの橋】ーーーかつて古の時代、魔族と獣人族のハーフであったアフェンアと呼ばれる人物が建てたと呼ばれる大陸と大陸を繋ぐ巨大な橋だ。



その橋の前に立ち、渡ろうとしている集団、いや大軍が一つあった。



獣共和国の軍勢だ。



「遂に着いたぞ•••」



その中央に陣取っている巌のような人物は獣共和国の王、ナガザ・レオズ。その左右に立っているのは息子である王子ティガンと側近であるバサトだ。



「皆の者、聞けぇ!この橋を渡ればそこはもう魔王国の領土だ!ここからは長い戦となる、だが恐れることはない!」

「「「「「オォー!」」」」」

「我らに敗北の二文字はない!魔族を全て殲滅し、攫われた姫を奪還するのだぁー!」

「「「「「ぬぉおぉぉぉ!」」」」」

「では出陣!」



王の激励の言葉で彼等は進もうとした、その時。



カッ•••カッ•••カッ•••



足音が聞こえてきた。その方向を見ると見ると橋の反対側からこちらに近づいてくる人の影があった。



「えっと•••••あの中央にいるのが王様?なんか僕の中の獣王のイメージどんぴしゃりなんだけど」

「まぁ父様は猪突猛進を本気でやってのける人だから•••」

「わ、私も時々お見かけしましたがなんかすごかったですよ」

「だ、だいじょうぶなのかしら?正面から堂々と踏み込んだりして•••」

「その方が相手の度肝を抜くには効果的だ。姫様も分かるだろう?」

「チャンドラ、姫はもうやめてよ•••私は魔王よ?子ども扱いしないで」

「心得た、魔王様。さて、相手が痺れを切らさないうちに交渉をはじめよう」

「「「おーー!」」」



遠足のような雰囲気を醸し出している彼等はご存知我らがイチロとリュア、ミンア、そしてピアとチャンドラだった。



そしてミンアを目にした瞬間、王であったナガザの目は威圧感が失せ、王ではなく父親の目になっていた。



「•••••ミ、ミンア」

「父様〜!」

「ミンアーーーー!!」

「ちょっと待った」



近づいてくるナガザを静止させたのはフードを被った壱路だ。これは後々深いのか深くないのか分からないが意味を持つのである。



「き、貴様は•••まさかミンアを攫った誘拐犯か?!」

「えっと元々誘拐する気なんて無かったけどね、色々事情と手違いがあったんだが•••••まぁ、それは後に置いといて、まず彼女の話から、どうぞ」



壱路は一歩下がると同時にピアは一歩前に進み、獣王の真正面に立ち、対峙した。



「こんにちは、獣王よ。お初にお目にかかる、私は魔王国を治める魔王、ピア・リアスピナ・エクリプスと申します」

「ふん、貴公が魔王か。•••••ガハハハ!まだまだ青いが敵陣に数人で来るとはいい度胸をしとるな!」

「•••まだ若輩者ですが私は一国の王として国を背負う覚悟はできております。なので今日は貴公に戦いではなく話による交渉をしに来たのです」

「••••••聞こう」



お互いに隙を見せず、相手の心の内を探ろうとしている。一種の心理戦が展開されていた。その様子を見て周囲は自然と黙り、息を潜める。



「では、まずこちらにいる貴方の娘•••ミンア殿とリュア殿をお返しします。そして兵を引いていただきたい」

「•••むん、別に良いのだが•••」



なんともあっさりと話が解決しようとしていた。しかし。



「王よ!なりません!」

「しかしなバサト、儂はミンアが戻ればそれでいいのだよ。確かに魔王国とは戦ってみたいが•••」

「それでは民に示しがつきません!兵を率いた意味がないでしょう!」

「そうですよ、父上!仮にも王なんですからその自覚を持ってください!」



ナガザの傍にいたバサトとティガンがそれを止める。



「むーん、すまんが魔王よ、それでは民に示しがつかんのでな」

「そうですか•••••分かりました。ならばこちらにも考えがございます。と言っても私は自国の民を犠牲にしたくなどありません、それに貴方も無用な犠牲は避けたいでしょう?」

「確かに!」

「ならここは私達、関係者の内で解決するのが理想です」

「••••何が言いたいのだ」



途端にあたりの空気が重くなるのを感じた。いや、ただ重くなったのではない。まるでこちらの命を仕留めようとする気配と死の予感、殺気だ。ナガザが殺気を放っている。王としての威圧感が半端ない、しかしピアはそれに負けずに訴える。



「私達と貴方たち、それぞれの国から代表者を出し戦わせるのです。言うならば国と国との決闘ですね、一対一でルール無用、たとえ殺されても文句は言わない」

「ふむ、決闘、か•••そうだな」



ナガザは思案する。その様子を見て壱路は頬を緩ませる。



そう、それが壱路の策だった。



最初からイチロはこの状況を狙っていたのだ。この決闘ならば両国の兵をいたずらに消耗する事なく一対一でぶつかるくらいで済む。更にこの策には別の目的があるのだが•••••それは後で説明しよう。



「確かにそうすればいたずらに兵を死なせずに済むな、しかし•••••」

「ならば場所の指定、時間はそちらに委ねますよ。それでもダメというのならそうですね•••私達が負けた場合、魔王国は獣共和国に従属する事を約束しましょう。未来永劫に、ね?」

「なっ?!」

「ば、馬鹿な?!」



ピアの一言にナガザ達は衝撃を受けた。当たり前だ、それは実質国を売り渡すという王らしからぬ言葉だった。



しかしピアの目を見てナガザは思う、これは愚かな足掻きではない、明らかに何か企んでいる、先にあるものを手に入れようとしている、と。



「その代わり、私達が勝利した暁には•••こちらの条件を飲んでもらいますから、そのつもりで」



そう、相手が引けぬ条件を提示すれば当然相手にも同等の条件を提示できる。しかし問題は獣王がこの誘いに乗ってくるかどうかだ。



「••••むん」

「王よ、この様な提案など•••」

「••••••••••乗ったーーー!」



その一言で後日、魔王国と獣共和国との国の意地と誇りをかけた決闘が決められたのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数時間後、魔王国に無事帰還した壱路とピア、チャンドラ(ミンアとリュアは一旦獣共和国に帰した)はというと•••••。



「き、緊張した〜〜〜!」

「いや、凄い魔王っぷりだったぞ」

「そうなの?見たかったな〜、ピアの魔王の勇姿を」

「兄様!からかわないでください!」

「姫様、立派でしたよ。あの獣王に一歩も下がらずにたっていたのですから」

「チャンドラも•••やめてよ。もう•••」



さっきまでの威勢は何処へやら、そこには兄と側近にいじられる魔王の姿があった。



「でも、これで獣王はこっちの策にのってくれたけど••••あの王様、自分がでるっ!とか言ってたな、ここからはゴリ押しで攻めるしかないぞ?勝てる見込みあるのか?」

「どうっすかね〜?今代の獣王は歴代最強と呼ばれてますが••••まぁ、ウォーランさんくらいの強さじゃないんですか?」

「我は新米の頃、一度手合わせする機会があったが、強すぎて逃げるしかなかったぞ、今でも勝てるかどうか•••」

「なっ?!ウォーランさんが、逃げるしかなかった。だと?!」

「•••••強敵ね」



新たな懸念が湧いてきた。一対一とはいえ獣王に勝てるのか、という懸念が。



「ならこちらも魔王様が出るというのはどうだ?魔王様ならあるいは」

「ダメね、時間がかかるけど大技を使っても勝てるかどうか•••」

「••••どうする?」

「勝つには、この世の理不尽を体現したかの様な強さが必要ですね」

「この世の理不尽を体現したかの様な強さって、言われて•••••も?!」



フォルは気がついた。今ここにそのこの世の理不尽を体現したかの様な強さを持った人物がいた事に、自らの心のままに生き、決まっていた運命シナリオをことごとくぶち壊す、その人物に目を向ける。周りにいた者達もそれに同調し目を向けた。その人物とはーーー!



「え?皆どうして僕の方見てるの?」



みなさんご存知、我らが主人公、イチロ・サガミだった。



「••••マスター、この場で獣王に勝つ可能性が一番高いのは、マスター以外いませんよ?」

「な、なんだ、と?!じゃ、じゃあチャンドラは?!実質最強じゃん!」

「俺はまだ右腕にリハビリが必要なのだ、それに全盛期に比べると力はやはり劣る」

「そ、そんなーーーーー!」

「頼む、イチロ!あなただけがこの状況でただ一つの希望なの!」

「えぇ〜〜〜〜〜〜!」

「もし引き受けてくれるなら、これをやろう!」


ピアが差し出したのは本だ。丁寧に装飾されているがかなり年季が入っている文庫本くらいの本。表紙には狐の絵が描かれている。尾が9本あるが。



「これは初代魔王ソング・リアスピナ・エクリプスが書いた、【精霊の書】だ。兄様からイチロは精霊族について調べていると聞いて•••」

精霊族スピマの本?!くれるの?」



精霊族という言葉を聞いて壱路は目を輝かせた。そう、忘れていたと思うが壱路が魔大陸にきた目的は精霊族を探し出す事も理由の一つだったのだ。そんな壱路の眼差しにピアはたじろぐ。



「あ、あぁ、引き受けてくれるなら•••」

「やる!」



一つ返事で即オーケーを出した壱路。この場にいる全員が古本一つで買収される壱路に呆気にとられたのだった。


次回!


舞台は獣共和国へ!獣王と対峙するのは我らが主人公、イチロ!そして待ち受けるのは懐かしい者達との再会!

そして決闘がついに火蓋を切らす!

果たしてイチロに勝ち目はあるのか?!


乞うご期待!

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