第五十三話 嵐の前の静けさや
今話から新章入ります。
壱路達がアルファスの野望を打ち破ってから約三週間が過ぎた•••。
魔城【ニブルヘイム】、その巨大な城の中腹に位置する部屋、そこで壱路は眠っていた。
アルファスの計画を阻止した壱路達は魔王国を救った英雄として持ち上げられ、しばらくこの国に逗留することになったのだ。
そして彼らは思い思いに逗留生活をエンジョイしている。テンタロウは魔王国近くの峡谷で修行を、フォルとサナは時にイチャイチャしながらもピアの業務を手伝い、壱路とフォウンはといえば、ツクヨとヒルデの相手をしたり、魔王国の貴重な書物を読んだり、などとほのぼの過ごしていた。
ある日の朝のこと。
「くー、くー••••••」
「師匠ー起きてくださいー!」
「マスター!朝ですよ〜!」
「キューイ!」
「••••••ん?あれ」
気持ちよさそうに眠る中、ツクヨとフォウン、ヒルデの声が聞こえた。どうやら起こしに来たようだ。
「ん〜〜〜あと少し〜〜〜•••」
「マスター!」
「キューイーー!」
ここから壱路が起きるのに一時間はかかったという。
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起床して、壱路は早速いつも格好に着替え、業務室へ訪れた。
「よぉフォル、サナさん、ピア」
「あぁイチロくん、相変わらずマイペースさだね」
「あらイチロ、随分遅い起床ね」
「イチロ様、おはようございます」
あの事件からピアと魔王騎士団の面々とは友好的な関係を築けつつあり、結構楽しく過ごしているので、挨拶はとても緩やかだ。
「それにしても忙しそうだな」
「最近頭を悩ます出来事が多すぎてねもう手が何本あっても足りないよぉ」
「ふ〜んそれって確か近々獣共和国がここに攻めてくるかもしれないって事ですか?」
「そうそれ!それに人帝国も妙な動きがあるみたいでさ、いやもういつ戦争になってもおかしくないから神経が削れて削れて•••••」
現在、この世界では人帝国、獣共和国、魔王国の三つの大国が互いに牽制しあってる、いわゆる冷戦状態だ。しかしこの一年近く獣共和国は他の二国に戦争を仕掛けようと戦の準備をしている上に人帝国も厄介な事を企んでいる気配があるらしい。いや、この一年は魔物に襲われる事はあったが、基本的に平和だった。それはそれで面倒だなと思う壱路だった。
「種族間の問題は人類の永遠のテーマですよね〜」
「まぁ大変だけど私はいつか国と国を繋ぎ平和にしたいと思っている。その為に和平の手紙を送り続けているんだけどね〜••••」
「••••••••理想論ですがそれは立派な事だと思いますよ。いつかはなんとかなるんじゃないんですか?」
「そうそう!ぼくらも応援するから!」
「はい、兄様、サナさん」
「ん、なら大丈夫だな。じゃあさ今日僕出掛けるところがあるからそろそろ行くよ」
そう言って壱路はコートを翻し、部屋か出て行こうとする。フォルは壱路を引き止めた。
「ど、どこに行くの?」
「獣共和国【レオス】」
「「「「•••••••え?」」」」
壱路の言った行き先に一同は固まった。
「じゃそういうことで《瞬間移動》」
「あ、待ちなさい!」
「ちょ、まったイチロ君!」
「イチロ様!そこは」
「マスター!•••••あ、行っちゃった」
時すでに遅く、壱路はその場から姿を消していた。彼らの胸にはある疑念が渦巻いていた。イチロは間違いなく、何かやらかすという疑念が。
そう、彼らの疑念は的中する。限りなく最悪な方向で。そしてそれが壱路の名を三国全土に轟かす出来事になるとはだれもまだ知らない。
次回!
ついに、久しぶりのリュア、登場!
壱路との再会、そして壱路がやらかしてしまった出来事が緊迫状態だった三国を揺るがす事態に!?
新章、急展開を見逃すな!
乞うご期待!




