第五十二話 響き渡るは癒しの祝歌、流れ出たのは歓喜の涙
今回で第五章は完結します。
魔王を殺害しようと色々卑劣な策略の限りを尽くしたアルファスを内に秘められた謎の人格、ヒューリーの力で散り一つ残さずに滅した壱路。それによりフォルを蝕んでいた《暴走の刺青》は消滅し、フォルは無事に目を覚ましたのだった•••••。
「ーーー•••••ん、あれ?ぼくは••••••」
「あ、兄様!」
「フォル様!大丈夫ですか?!」
「あれ•••••サナ、•••それにピア?!あ、あれ?ぼくはどうなってたの?」
「フォル様、目覚めて早々、ちょっと御無礼をお許しください」
「え••••」
目覚めて状況が把握できないフォルにサナは突然•••••。
バッシーーーン!
思いっきり強いビンタをフォルにぶちかました。
「は、はぶぁ!い、いたい!イチロ君に殴られた時も痛かったけど、こっちも痛い!」
「ふん、これはイチロ様の方とは別の用件での一発です」
「な、なにかぼくにご不満が••••••?」
「ありますよ!何故私を置いて一人で解決しようとしたんですか!皆さんが来なかったら、あなたは死んでいたかもしれなかったのですよ!」
「いや、だってあれは、•••サナを危険な目にあわせたくなかったからでして•••••」
フォルは言葉を紡ぐが、サナの表情を見て•••••、流れる涙を見て、言葉を失った。彼女の涙を見たのは初めてで、何故そんな顔をするのか、なんで泣いているのか、分からなくなって••••一気に思考が考える事をやめさせようとする。
「•••••だから、もっと私を頼ってください、もう、置いていかれるのは、嫌なんですよ••••••」
「•••••••うん、ご•••••••めーーーーーーーーーっ!?」
謝罪を口にするフォルだが、それは突如暖かい何かに口を塞がれ妨害された。その正体は••••。
「え?え?え?」
そう、塞ぐのに使われたのはサナの唇だった。それは俗に言う、キスとか接吻とかいうべきもので。
「良かった•••本当に無事で、良かっ••••••う、う〜〜〜〜〜〜ぅっ」
「サ、サナ•••••」
顔を離し、我慢が限界に達したのか泣きじゃくり涙を流すサナを無意識に抱き寄せ、泣く子をあやすようにフォルは頭をさする。
そんなフォルとサナを見て、壱路達は、それを暖かい目で見守っていた。
「ふーん、やっぱり、サナさん、フォルの事を異性として見てたんだ、そして多分フォルも無自覚に•••••」
「••••壱路、お前まさか、元々分かってたのか?」
「確かに時々二人はお互いの事を何やら懸想の思いを抱いて見ていましたけど〜〜?」
「••••••け、懸想?師匠、けそー、とは一体なんですか?」
ツクヨの無邪気な問いに答えたのは意外な人物だった。
「嬢ちゃん、それはな、お互いが好き合っているという事だよ」
「まぁ、確かにあの二人は前からお似合いのカップルでしたからっすね〜、ここでついにあれですか」
「ふむ、って、いたたたたた•••••」
「ウォーラン、むりしちゃダメ。まだ、傷が治ってないのよ、絶対、安静」
「おい、私の腕を無理やりつけた癖に、何故ウォーランには優しいのだ?•••••全く、シューナの考える事は相変わらず分からん」
そこに立っていたのはチャンドラとウォーランを含めた魔王騎士団の面々。壱路は雰囲気にそぐわぬ実に軽い、軽い口調で話しかけた。
「あ、ウォーラン、チャンドラ、大丈夫だった?」
「あぁ、なんとかな」
「まぁな、無事とは言わんが、右腕は取り戻したぞ、お前達のお陰だ」
そう言ってチャンドラは再びくっついた右腕を見せた。傷口は痛々しいが神経は無事に繋がっているようで、手を握ったり、広げたりしてみせる。
「話はウォーランから聞いた、貴方が前にウォーランが言っていた面白い人族ね?」
「そうですけど」
「ふむ、人間は本来好かんが、お主らは魔王様を、我ら魔族を救ってくれた、そこは感謝しよう」
「うん、俺は人族は面白い奴らもいるって知ってるっすから、悪感情は抱きませんっすよ」
どうやら魔王騎士団の幹部は皆が皆、頭が硬いわけではないようだ。それを知り、世の中捨てたもんじゃないな、と思う壱路だった。
「はぁ、まぁ、たまにはこういうのも悪くないな」
「ふっ、イチロ、この礼は必ず返すぞ。まぁ、しばらくは我らの国に入れば良い、食客として歓迎しよう」
「元々そのつもりだよ、出来ればしばらくはここにいる予定だしな」
「あぁ、それより、ピア様とフォル様の所へ行かなくてもいいのか?」
「ん、でも今は•••••••あれはあれで愉快だからな、もうちょい様子を見よう、楽しいから」
「「「「「「「「•••••賛成ー!」」」」」」」」
その場の全員の意見の一致し、フォルとサナ、ピアの様子を暖かく見守る事にしたのだ。
一方、ピアとフォル、サナはと言うと•••••••。
「あ、あのぉ!に、兄様!」
「あ、ピア••••••そのえっとごめ」
「••••••も、申し訳ございません!」
「••••••え?」
突然謝罪され、混乱するフォル。ピアは額を地面につけ、土下座の体制を取っている。
「いや、なんで謝るの?謝るのはこっちの方だよ?!」
「し、しかし私は無実であった兄様を殺そうとしました。何も疑わずアルファスを信じ、彼の裏切りに気がつかなかった、私はもう、自分が情けなくって•••••」
「それでも上げて!君は魔王なんだよ!それじゃあ国民に示しがつかないよ、ほら、顔を上げて!」
「うぅっ〜〜〜、けど、けどぉ〜!」
「けどもでももへちまもないよ。もう、分かってるから。顔を上げてくれ、ピア」
「•••••••はい」
フォルの重ね重ねの説得でようやく顔を上げたピア。しかし表情を見るとまだ納得してないようだ。フォルはその子供のようなふくれっ面を呆れ半分苦笑して言葉をかける。
「はぁ、魔王になっても中身はあんまり変わってないみたいだね、少し安心したよ。なんかめちゃくちゃ魔王していたみたいだし」
「そ、それは私なりに魔王らしくしようと思って、本とかで魔王の喋り方を•••••って、話をすり替えないでよ!」
「(む、話のすり替えが失敗したか)ん〜、でもなぁ••••••あ、じゃあさ、あれ歌ってよ?」
「あ、あれ?」
「ほら、かあ様がまだ生きていた時、いつも歌っていたあの歌!」
「••••••あっ!はい!」
何かを思い出したピアは立ち上がり、服についた土を払い、目を閉じ、•••••••歌ったーーー。
《癒華の祝歌》•••それがその歌の名前、それは美しく、優しい、心が、身体が癒やされる様な、そんな曲。
代々女性の魔王のみが発現した唯一魔法、《歌》の力により、実際に聴いた者の傷を癒す効果を発揮する歌、それが《祝歌》である。
その歌を聴きながら、壱路とフォウンは遠目でピアの歌う姿を眺めた。
その顔には涙が流れていた。しかし宿していたのは悲しみではなく、歓喜、嬉しさと優しさがその涙には込められていた。
「•••••いい曲だな」
「はい〜、心が洗われるようです〜」
「見た限り、あいつら仲直りができたみたいだな」
「はい〜、身体張った甲斐がありましたね〜。本当に良かったですよ〜!」
「あぁ、良かったよ(本当に•••••••守れて、良かった)」
これが後の世に伝わる【アルファスの乱】と呼ばれる事件の結末である。
そしてこの事件が『闇鴉』、『黒刀』、『支配者』、『トリックスター』、『平和の担い手』などなど様々な名で呼ばれる英雄、イチロ・サガミの名が初めて世にでた出来事でもあった。
次回!
新章突入!
懐かしの仲間との再会、しかし、それが三国を巻き込んだ一大事に発展!?
そして壱路はとある大博打にうってかかる!
新たな展開を見逃すな!
乞うご期待!




