第五十一話 赫眼白髪のヒューリー
自らの事を激昂(感情が高ぶること、興奮して激しく怒ること)の意味を持つヒューリーと名乗った壱路。その答えにフォウンは焦りを抑えながら質問をした。
「(ヒュー•••リー?それが貴方の名前?じゃあ、マスターは、マスターはどこにいるんですか!)」
「(壱路はちゃんといるし、無事だぜ?そういう約束だしな)」
「(や••••••約束って)」
「(身体借りる代わりにあのくそ野郎をぶっ飛ばすって約束したんだ、まぁ、もしあいつが生きる事を放棄したり絶望したり自分を見失ったら••••その時はこの身体を貰うしな)」
「(身体を••••貰う?!)」
「(けど、それは当分先になりそうだし、だから今は手を貸すよ)」
「(うう〜、い、今は追求をやめますけど、マスターの身体を奪おうなんて、私は絶対認めませんからね!私が目が黒い内はそんな事させません!)」
「(•••••ふーん、まぁそれは置いといて、今はあれを片付けよう)」
そんな会話をしながら、壱路(精神はヒューリーで、身体が壱路でややこしいが元は壱路なのでそう表記する)は虫の息のフォルの元へと歩みを進める。
「•••••••どけ」
「え、な、何を••••するの?」
「黙れ」
仮にも相手は魔王なのだがそれを押しのけ、引きちぎったアルファスの(元はチャンドラの)腕をチャンドラの方へ放り投げ、しゃがんでこう言った。
「今、応急措置をしてやる、だから黙って見てろ、泣き虫魔王」
「え?兄様は、た、助かるの?って、さっきも言ってたけど泣き虫って私の事?!」
「まぁな、《幻影痛》」
そう唱えると、フォルの背中にある酷い傷はまるで幻のように消えた。フォルのの顔色も安らかな顔になり呑気に寝息をたてる。
「く、すー•••すー•••」
「••••フォル、すぐに終わらせるよ、だから今は眠っていろ」
そして壱路は立ち上がり、右腕を失い転がり回っているアルファスの元へと静かにだが確実に歩みを進めていった。その姿を見てアルファスは叫ぶ。そう、彼から見て壱路は人ではなく、••••••恐怖を振りまく悪魔の化身のように見えたのだから。
「な、何故だ何故だ何故だ!ありえんありえんありえんありえん!来るな!来るな来るな来るな来るな!」
「•••••悪いが俺は相手を嬲り殺す主義はない、けど、楽に死ねると思うなよ?」
「あ、あああぁぁ••••••••」
「《憎悪義手》」
突如、半透明で巨大な手が現れた。それはまるで鉄で出来た悪魔の腕。
この《憎悪義手》、実はある有名な漫画家の両手を奪われた男の復讐劇を描いた作品のリメイクから思いついたものだ。
そして壱路は《憎悪義手》を振り上げて、アルファスの顔面にストレートをぶち込んだ。
「おらぁ!」
「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その一撃を真正面から食らい、吹き飛ばされたアルファス。その哀れともいうべき姿をみて壱路はすごく輝かしい笑顔を浮かべて、こう言った
。
「ふぅ〜、すっきりした。少しは自分のしでかした事を後悔した?命が惜しくなった?」
「ふ、ふざけるな。こんな事で•••••私は王になる男だぞ、」
「黙れよ、貴様みたいな人から大事なもの奪う奴が、俺は一番嫌いなんだ。だからせいぜい後悔してろ」
壱路は右手でアルファスの頭を掴み取り、
「ぎ、ぎさまぁあああ!」
「••••••これで終わりだ、《倶利伽羅・迦楼羅之焔》」
その時、壱路の右手から目がくらむほどの金色の輝きを放った。それは炎、闇を照らす金色の炎。
《倶利伽羅・迦楼羅之焔》・・・それは七つある倶利伽羅の最後の一つであり奥義、迦楼羅天と呼ばれたインド神話に登場する炎の様に光り輝き熱を発する神鳥、ガルダの焔の如く、敵を骨の髄、魂の髄まで燃え散らす金色の炎。
その金色の炎が右手からどんどん広がっていき、アルファスを焼き尽くす。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アルファスは断末魔の悲鳴をあげながら、灰となった。
「ふーい、終わったー」
壱路は一仕事を終えたような爽やかな笑顔をして、体を伸ばしながら言った。そしてふと近くを見ると観客の避難に回していた仲間たち、テンタロウ、ツクヨが大急ぎで駆けつけた。
「壱路ー!今避難終わ•••ってあれ?」
「し、師匠?•••テ、テンタロウさん、あれは師匠ですか?」
「あ、ああ、そうだよな、黒いコート着てるし、壱路だよな••••だけど髪が••••?!」
彼らは壱路の変貌に驚き困惑し、その困惑の原因である壱路はその様子を見て苦笑しながら•••••。
「•••••今回はここまでだな、じゃあな•••くっ」
白かった髪は黒に戻り、伸びに伸びていた髪が元の髪型に戻っていく。すっかり普段の姿に戻った壱路はふらふらと少しして、ゆっくりと•••••倒れた。
ドサッ!
「あー、身体があちこち痛い•••」
「マ、マズダ〜〜!ぶ、無事だっだんでずね〜!」
「あ、フォウン、今帰ってきたよ•••••ぐふっ!」
突然フォウンは人型となって、壱路に突っ込んで抱きついた。疲労困憊の壱路にとってはそれは結構な衝撃で、一時的に意識を手放すほどであった。見るとフォウンの顔は涙と鼻水で濡れ、泣いていた。
「ひっぐ、ひぐひぐ、じ、心配じだんでずよ〜!いぎなり人格変わっで、怖ぐで怖ぐで〜、うわ〜〜〜ん!」
「あ、ぁああー、•••••すまん、ごめんな」
どんな理由があろうかとフォウンに心配をかけてしまって、その顔をみてなんというか、心が••••••ズキッときた。やはり、この世界に来てから心境に変化が出てきたのか•••分からない。だが、どこかで少し、ホッとしたのだ。自分は生きているのだと。
「いいんでずよ〜!マスターが無事でいてくれるなら」
「••••••あぁ、そうか」
「壱路〜!」
「師匠〜!」
「(そ、それにあいつ!ヒューリーとか言ってましたけど、なんかマスターの身体を奪おうとしてますし、危ない奴ですよ〜!)」
「(そうだな、確かにそう言ってたな、僕にもそう言ってたし、ヤバイかもね)」
「(え〜!?)」
「(だから、そうならないように頑張るよ、もっと、もっと強く、そう簡単に死なないくらい強くなるよ。そんで目の前の人を守れるくらいね)」
「(••••••マスター)」
壱路は改めて決意した。もっと強くなろうと、もう誰もいなくならない様に•••••。そんな事を考えていると、テンタロウは何やら小言で言っていた。
「壱路!おい!まさか、フォウンとなんか話してるのか?」
「ああ、ちょっとな、ってあれ?サナさんは?」
「サ、サナさんは••••••あっちにいるよ」
「あぁ、フォルの所か」
壱路は痛む身体をそっと動かし、フォルの方へ意識を伸ばした。
次回!
第5章、完結!アルファスを倒した壱路、そしてフォルと妹のピアとの和解!
乞うご期待!




