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黎明のイチロ 〜空から落ちた支配者〜  作者: 作読双筆
第五章 魔王国御家騒動 〜因縁と陰謀と決意と魔の歌姫の涙〜
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第五十話 響き渡るは怨みの呪歌、開き疼くは心の傷

アルファスがボタンを押した途端、魔道携帯から音が、歌声が響いた。



それはまるでこの世の全てを否定するような歌だった。聞くもの全てに不安を、絶望を、哀しみをもたらす、そんな歌。それを聞いたもの全員がその場で崩れ、まるで楔で地面に縫い付けられたように動けなくなった。



「な、なんて不協和音なん•••••••だ!う、動けないっ!?」

「くっ、これは•••••え?•••歌?」

「ま、まさかあれは•••••先代魔王の魔法!?、なぜあれがここに?」

「そんなまさか••••!」

「なんなんだよ、これはっ?」

「ぐっ••••••あ、あぁぁぁぁぁぁ!」



錯乱状態のフォルを含めた周囲への無差別攻撃を前に全員が淀めく中、アルファスは高笑いをして宣言した。



「はははははは!どうだ、これが私の切り札、《魔王の呪歌》だ!ははは!」



アルファスが勝ち誇るように笑う中ただ一人だけ動く者がいた。壱路だ。壱路は刀を構え振りかざす。



「喰らえ《雷切》!」



《雷切》・・・それは昔、立花道雪が所持していた刀、雷または雷神を斬ったと伝えられる日本刀。その名の通り刀の表面に雷を魔法でコーティングした必殺剣である。



「ふっ、効かんよ」



アルファスは魔道携帯を壱路にかざした。すると身に包んでいた『コウトクオウ』が瞬時に解け、元の刀へと戻ってしまった。



「え?『コウトクオウ』が解けた?!そんな馬鹿な!」

「この歌にはこの世のもの全てが不快に思う音波を奏でる、そしてあらゆる魔法という魔法、ありとあらゆる生物や魔道具の効果を無効にする、私を除いてね!」

「ぐ、あ、アルファス••••何故この魔法を貴様が•••!」

「そして本当に恐ろしいのはそれだけじゃない」

「な、なんだと?!」



ーーーーー壱路••••••



声が聞こえた、一番聴きたくて、一番聴きたくない声•••••。



「そ、そんな、嘘だろ、なんで今•••••あの声が•••••」

「この歌は聞く者の一番忘れたい記憶や過去、つまり心的外傷(トラウマ)を強制的に引きずり出す。」

「やめろ•••••やめろやめろやめろやめろやめろ!」

「ふん、動きが鈍いぞ」



壱路は大きく取り乱し、感情に任せるままに、アルファスに斬りかかった。しかしその刃は届かず、空振り、気づけば血色の短剣が三本、瞬時に腹部、右腕、左足に突き刺さっていた。



「かはっ!」

「(マ、マスター!)」



壱路はなす術もなく倒れた。そしてアルファスはゆっくりと足をピアの元へと運ぶ。



「さて、邪魔な奴は消えた。これで後は•••陛下、貴女が死ねば、フォル様も自動的に自害する、私はその後第二区域を破壊して全ての証拠を消しますよ、万が一の場合を考えて、ここから誰も出れないようにしたんですよ」

「あ•••••あ、あ」

「や、やめろ•••••」

「(ま、魔王さん〜!)」

「•••••死ね!」



無慈悲にも、赤き兇刃がピアの目の前に降ろされようとした。



ザシュッ!



「•••••••え?」

「ゔあぁ、ゔゔゔあ•••」

「•••••兄様?」



その兇刃はピアに触れず、代わりにフォルがピアを庇うように被さっていた。その背には酷い斬り傷があり、血がドクドクと溢れ出ている。



そんな中正気を失っているはずなのにフォルはそっと呟く。自分に残った微かな力を振り絞って、目の前の妹に言葉をかけた。



フォルは呪いを破ったのだ。ただ一人の肉親である妹を、自分を救うために来てくれた壱路を、助けたいという思いがそうさせたのだ。



「ーーーよかっ•••••た•••」

「兄様、私を庇って••••」



そしてフォルは眠るように眼を閉じ、そのまま膝をついた。眼を閉じて思い浮かべたのは、妹の事、仲間の事、そして自分を支えてくれた、最愛の人ーーー、サナへの想いだった。



(ごめん、サナ、ぼく、もうーーーダメみたいだ、ずっと言えなかったけど、••••ーーー、ありがとう••••)



そう考えながらフォルは微笑みながらピアに寄りかかりながら倒れた。



「兄様、兄様、しっかりして、お願い!兄様ーーー!」

「フォルーーー!」

「(フォルさーん!!)」

「フォル様•••••アルファス、貴様、貴様ぁ!」

「ふん、最後まで邪魔して、貴方は本当に厄介な人だな、このまま兄妹もろとも死ぬがいい」

「や、やめろーーー」

「(マスター!起きてください!マスター!このままじゃフォルさんと魔王さんが!)」

「ぐっ、•••••くそ、がぁ!?(くそ、体が思うように動かない、魔法もうまくイメージできない、このままじゃ•••••フォルも、フォルの妹さんも、殺される•••)」



動けない。刀を握りたいのに手が、立ち上がりたいのに足が、まるで感覚がなくなったかのように動かない。



「(くそ、くそ、くそ••••••なんで、なんで僕はいつもいつも•••••間に合わないんだよ、ヒルデの時も、ツクヨの時も•••••そして今も)」



この世界に来て、力を手に入れた。誰にもない力、全てを支配する力、なのに目の前の理不尽一つ変えることさえ出来ないのか、壱路は悔しさに唇を噛み締めた。



「(••••••誓ったんじゃないのか?!あの時、目の前の人だけでも救いたいって、もう、二度と•••もう二度と、僕の前から誰かがいなくならないように、だから力が欲しかったんだ••••••今なんだ、今こんな理不尽を壊す為の力がいるんだ!)」



そう思い無意識に手を伸ばした次の瞬間、閉じていた目を開くと壱路はいつか一度だけ来た謎の空間に居た。以前来た時と同じ、暗いようで明るく、広いようで狭い、そんな不思議な空間。



だが一つだけ違う所があった。その空間には三つの扉があった。一つは自分の後ろにある白い扉、二つ目はその白い扉の向かいある頑丈そうな黒い扉、そして最後に鍵が掛かった古い灰色の扉がそこに存在していた。



「フン、サッソクシニカケテヤガルナ、イチロ」



その片言声には聞き覚えがあった。聞き取りにくいのに何故か理解が出来る声••••。見ると黒い扉の前に誰かがいた。相変わらず顔が見えない。



「お前は••••••••あの時の黒い影!」

「ハッ、オマエジャタヨリナイカラナ、ダカラテヲカシニキタ」

「手を?」

「チカラガ、ホシイカ?ナラ、オレニヤラセロ、オレニカワレ、オレナライマノジョウキョウヲクツガエセル」



言ってる意味が分からない、力を貸す?黒い影はさらに言葉を重ねる。



「アノアカゲガキニイランカラ、ジキジキニブットバシタインダヨ。ドウスル?オレノアンヲノムカ?」

「•••お前が出れば 、あいつを倒せるのか?」

「アァ」

「みんなを守れるのか?」

「アァ、マモレルゼ」



その言葉が壱路を決断させた。今を逃せば、もう救えない、もう二度と自分の指の隙間から命がこぼれ落ちないように、後悔しないために壱路は決めた答えを口にする。



「••••••••分かったよ、この際お前が悪魔だろうが蛇だろうが鬼だろうが関係ない、今妙な意地張ってる場合じゃないし、手を借りなきゃ•••僕はきっと一生後悔する」

「フン、トリヒキセイリツダナ」

「あぁ、そうだな」



黒い影はこちらに向かって歩き出し、そして手を差し出した。



「マァ、コンカイハテヲカステイドニシトイテヤルガ、モシ、オマエガコンゴイチドデモアキラメタリシタラ•••••••オマエノカラダ、マジデオレノモノニスルゼ?」

「••••••それは嫌だな、こっちも強くなるよ、もう、誰も僕の前から消えないように」

「ハッ、セイゼイガンバンナ」

「••••そう言えばお前は本当に何者なんだ?名前くらい教えろよ」

「ナマエ?ナマエハアルサ、イイカ、イチドシカイワネエゾ、ヨクキケヨ、オレノナハーーー」



壱路は差し出されたの手を握りながら、その名を聞いた•••••。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

そして場面は変わり、アルファスはフォルをピアもろともトドメを刺そうとしていた。



「これで•••••終わりだ!」

「兄様、兄様だけは•••」

「•••••ぐ」



ガッ!



しかし剣は寸前の所で何かに阻まれた。見るとそれは•••手だ。誰かの手がアルファスの刃を止めていた。手から血がポタポタと流れ出ている。



「なっ!?お前は•••!」

「貴方は•••確か」

「イチロ!」

「(マ、マスターが、立った〜!)」

「•••••••••(イ•••••チ••••ロ?)」



そこには致命傷を負い動けない筈の壱路が立っていた。どこか倒れそうで危なっかしい雰囲気をただ寄せながらも、絶対的な存在感をだして、そこに立っていた。見ると傷口に刺さっていた短剣は自然と抜けていき、血は固まりとなって止まっていた。



「まさか、そんな馬鹿な、なぜお前が•••••っーーー!?」



アルファスは絶句した。それもそのはずだ、壱路の鴉のような漆黒の髪が段々と雪のように、白く白く染まっていく。それだけに留まらず髪は徐々に伸びていく。



「な、なんなんだその髪は•••••」

「ーーー••••ろ」

「な、何!?」

「ーーー目障りだ、の前から今すぐ•••••消えろ」



そう言って壱路はアルファスの右腕に手を添えて。



ーーーぶしゃぁぁぁぁ!



力任せに引きちぎった。アルファスの肩口から血が噴水のように噴き出し、そしてその痛みにアルファスは耐えられず地面に膝をつく。



「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「イチロ•••••?」



アルファスが悲鳴を上げて叫ぶ中、チャンドラは疑問の声を上げ、フォウンは不安に思い、問いかけた。



「(マスター•••貴方は、マスターなんですか?)」



壱路は、いや、壱路の姿をした誰か(・・・・・・・・・)はその問いにこう答えた。



「•••••俺の名は••••••••激昂(ヒューリー)



そういった壱路(・・)の瞳は爛々と妖しくも美しい赫に染まっていた。

次回!


壱路の身体を乗っ取り現れた謎に満ちた人格、

ヒューリー!

その超絶的な力がアルファスに鉄槌を下す!

いよいよクライマックス!


乞うご期待!

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