第四十七話 真相とQ.E.D.《証明終了》
「••••ふふふ、さぁさぁ皆さん、こんにちは!本日はお日柄もよく絶好のお祭り日和ですね!さて、決闘の邪魔をしてしまいましたが、今回、ここにいるみなさまにある真実をお伝えしたいと思います!」
人が変わったように壱路は喋り始めた。その姿はまるで、舞台で物語の始まりを告げる陽気な道化師のように見てた(もちろんこれは壱路の演技である。ただし本人は結構ノリノリだ)。その様子を見て仲間達はコソコソと会話をしていた。
「師匠ってこういう時、場の空気に乗っちゃって勢いで行動しちゃいますよね」
「だな、なんか状況をひっくり返すのが好きだし、方法も力尽くだし、メガネなのに考えがシンプルなんだよなぁ?」
「メガネは関係ないと思うのだが、いつもあのような感じなのか?」
「そうでもないのですが、場の空気を引っ掻き回すのが好きなんですよ」
「あいつ、ほとんどなんでもできるんだけど、やり過ぎる時あるしな、まぁ、強いし悪い奴じゃないんだぜ!」
「ふむ、流石はウォーランが認めた男だな」
「チャンドラさん、もう少しだったらお面外しますからね、気を引き締めていきましょう!(それにしてもフォルさん、さっきから黙りっぱなしだけど、大丈夫かな?)」
「そうだな、•••••••お手並み拝見といくか」
壱路と唖然とするフォル以外のメンバーがそんな会話を繰り広げていた頃、ウォーランを含む魔王騎士団序列一位から五位の彼らは予測外の侵入者と魔王の危機を感じ、場内へ急いでいた。
「あ、あの鎧野郎は一体どこから入ってきたんだ?!」
「分からん•••••しかし今はそんなこと考えてる場合ではない!今は陛下の身の安全が先決だ!」
「そうだな(イチロ、後は頼むぞ、己も隙をつき動き出すぞ)今は陛下の事を考えよう」
「•••••••えぇ」
「もうすぐ着くぞ、入ったら直ぐに侵入者達に一斉攻撃だ!」
「「「「了解!」」」」
魔王騎士団が急ぐ中、『コウトクオウ』の姿で観客達に語りかけた壱路は、ざわざわ•••ざわざわ•••、と騒めく観客達を見ながらフォウンに話しかけていた。
「(さて、掴みはOKだな、それにあいつら、魔法使用禁止の魔法陣が壊されている事に気付いてないな、そして僕が色々それを弄った事も。あぁ、我ながら恐ろしい魔法だな、この〈支配〉は)」
「(はい、確かにマスターの魔法は強力ですけど、ここの魔法陣は相当古いようですからね〜、調べようにも誰もが魔法は使えないと思っているから気付いてないんですよね〜)」
「(まぁ、それもあるよな)」
実は魔法使用禁止の魔法陣は前もって壱路が無効化しているのだが、巧妙な隠蔽工作で誤魔化しているのだ。
「さて、皆様はそこにいる魔王様そっくりの男、魔王と元魔王騎士団序列一位殺害の容疑がかかった『大罪人』フォル、許されざる罪を犯した彼がここで命を終えるべきと誰もが口を揃えて思うでしょう••••••しかし、その前提が間違っているとしたらどうですか?」
壱路は声の振動を操作して心に響く声を作りだし、周囲の観客達に呼びかけた。その言葉を聞き、観客達が一層ざわつき始める。
「えー、その前提を覆す証人が今!この場にいらっしゃっているのです!」
「•••••••••なっ!?」
「それは•••••この方です!」
その掛け声と共に翁面を被ったチャンドラが壱路の近くへと歩き出した。
「その仮面の男が、証人だと•••?」
「「「「「陛下!」」」」」
まさにチャンドラが翁面を外そうとした時だった。タイミングがいいのか悪いのか、いや間違いなく悪い時に、魔王騎士団が場内に乱入してきた。
「行くぞみんな、侵入者を排除するんだ!」
「オーケだよ!」
「ぬぉらぁぁぁぁ!」
「くらえ•••」
「•••••••ふん!」
それぞれが何処からか自らの得物を手に壱路とチャンドラに襲いかかってきた。
「人が話してる時に攻撃するな!
《倶利伽羅・無識門》!」
「•••••咲け、《血紅薔薇》」
壱路とチャンドラがそれぞれの魔法でその攻撃を防いだ。
《倶利伽羅・無識門》・・・それは七つある《倶利伽羅》の一つ、超高温の無色の炎を盾にする防御系の炎、それは鉄をも溶かす無識の門。
対するチャンドラの《血紅薔薇》は彼自身の唯一魔法より造られた巨大な薔薇の花弁だが詳しい説明は次の機会にする。
「あっち!あっち!火がないのに熱い!」
「血の薔薇•••••この魔法は?!」
「な、何故魔法が使えるんだ、あいつらは!?」
「••••••••どうして?!」
魔王騎士団達が混乱し、一旦後ろに引く中、ただ1人、冷静に剣をある人物の首筋に構えた。
「動くでない、アルファス」
「なっ!?ウォーラン•••••貴様!?」
「出来ればこんな真似はしたくないのだが、こちらも色々あるのでな••••大人しくしていて貰おう」
「やっぱり、お前が【罪人武闘】の開催を承認した時点で疑問に思うべきだった、お前は【罪人武闘】をあまりよく思ってなかったから」
「【罪人武闘】は悪趣味だからな、あまり好きになれんのだよ」
ウォーランがアルファスの動きを封じ、周囲の注意を引きつける中、チャンドラがそっとアルファスに近づいてきた。
「相変わらず妙な所に隙があるな、アル」
「•••その呼び名、やはり、貴方は•••」
「そうだ、私は戻って来た•••真実を告げる為にな!」
チャンドラは勢いよく仮面を外し放り投げた。そこにはアルファスと全く同じ容姿、同じ体格、否、右腕は欠落しているが•••それ以外は全てそっくりな血のように赤い髪が似合う男が立っていた。その姿をみて周囲の人々は、ピアは困惑した。
「チャンドラ?!お前はチャンドラなのか?」
「はい、姫様、いえ、陛下、御立派になられましたね」
「なんで、なんで•••貴方が生きてるの?」
「そこは僕が説明しよう」
混乱するピアに壱路は無理やり話に割り込んだ。
「彼は地下に監禁されててね、僕が助け出したんだ。そんで話を聞いてみたらチャンドラはフォルと言い争っていたと言われた証言は間違いだった事が分かった、本当はフォルはチャンドラに忠告をしていたらしい、それはある人物ーーーつまり真犯人が何か企んでいたから。そして証言を偽装したんだよ、何より証言をした侍女は事件後行方不明になっているしね••••••••。
その後、自分の企みを感づかれた真犯人はチャンドラの右腕を引きちぎり、殺さずに何故か幽閉、そして表向きに死亡扱いした、けれど真犯人の悩みはまだあった•••••それがフォルだったんだ!
自分の企みに気づいたフォルを真犯人はチャンドラ殺しの容疑を、そしてこれから自分の犯す魔王殺しの容疑を被せようとした•••。
そしてフォルをはめた真犯人は大胆にも目の前で魔王を殺害、そしてフォルに罪を着せてまんまと目的を果たす筈だった•••••。
けど、ここで疑問が残るよね?犯人は魔王を殺してどうしようとしていたのか?目的がどうしても分からなかった••••••でもウォーランからある話を聞いて確信が持てたよ」
反論を挟む間もなく、推理を語る壱路。自らの声を魅了やら誘惑やら詰め込んだ反則級の声に、人の心に響く声にして話を続ける。
「魔王が死んでその魔王に血縁者がいない場合は、代々魔王騎士団の第一位が魔王となるんだよな?
ウォーラン?」
「その通りだ」
「つまりだ•••••この二つの殺人とさっきまでの兄妹のドロドロの決闘も、全て犯人の仕組んだ事だって分かった。•••••そして本当の『大罪人』は••••••••お前だ!
アルファス・ライザ・レイモンド!」
壱路はアルファスを指差し、高々と宣言した。アルファスは序列第一位、魔王の地位の為にこの計画を整えたに違いない。恐らく今日ここでフォルとピアを謀殺するつもりだったのだろうが、壱路達というイレギュラーによって企みは全ておじゃんになった筈だ。
「そ、そんな••••でたらめを」
「嘘ではありません、陛下、私の右手は•••アルファスによって失いましたから」
「嘘•••••」
「そんな馬鹿な•••」
「気付けなかったなんて、••••不覚」
「くそくそがぁぁ!」
魔王騎士団も観客達も、ざわざわ、ざわざわと動揺している。
「アルファス、お前の企みは終わりだ」
「地位も名誉も無くしたしね、降参しろ(Q.E.D.《証明終了》、これでフォルの無罪を証明できた)」
「(さっすがマスターで••••え?え?!)」
突然フォウンが動揺と驚きの声を上げた。
「(どうした)」
「(マ、マスター!なんか後ろでどす黒い魔力が溢れています!)」
「がっ、••••あ、あああぁぁぁぁぁ!」
叫び声がした方向を見るとフォルに異変が起きていた。フォルの身体から赤い赤い凶々しいオーラが纏わりつき、そして肌には闇より深いインクで刻まれたタトゥーがまるで生き物のようにもぞもぞと動いている。
「フォル•••?」
「くふふふ、ふふふ、あっははははは!」
その時、アルファスはまるで狂ってしまったかのように笑っていた。
次回!
フォル、突然の暴走!?
アルファスが語る計画と陰謀!
そして壱路はある決意を固める!
乞うご期待!




