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黎明のイチロ 〜空から落ちた支配者〜  作者: 作読双筆
第五章 魔王国御家騒動 〜因縁と陰謀と決意と魔の歌姫の涙〜
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第四十六話 兄妹再会と壱路(達)参上!

翌日。第二区域のコロシアム。その地下独房の一つに手を枷で繋がれたフォルの姿があった。



「•••••••いよいよか」



上から響き渡る歓声がここがどこなのか、そして自分がどうなるのか、フォルに教えてくた。



思えばいきなり現れたアルファスに動揺した一瞬の隙を突かれ、捕らえられた事がどんなに悔やんでも悔やみきれない次第である。



しかしこれはチャンスだ。例え自分を犠牲にしたとしても、やらなければならない事を実行する為の。



けれど少し、ほんの少し、未練を思い出した。



八カ月前の自分なら、自分の命には大した執着など持っていなかっただろう。あの、あの場にいながら悲劇を止められなかった事、そしてもう一つの出来事が彼の心を閉ざしたのだから。



そこから彼はただ偽りの笑顔を浮かべていた。その事を思い出して彼はそっと微笑んだ。



「…だけど楽しかったな、あの旅は」



思い出したのはこの八カ月間の旅の記憶。壱路やツクヨ、天太郎、そしてずっと自分のそばに居てくれたサナ。それは自分の人生の中で一番色鮮やかな時間だった。



そんな風に心の底から笑えるようになった。忘れていた本当の笑顔を思い出したのだ、だからこそ、未練は少し、少し残るのだ。



「いやー、参ったな、今からやる事知られたらみんなに怒られるかもなぁ、けど、これは僕のやるべき事なんだ。だから、僕はやるよ……」



だからこそ彼は決意する。例えその結果自分がどうなったとしても。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

場面は変わり、第二区域のコロシアム、雲一つない晴れ時、【罪人武闘アンフィテアトロン】は始まっていた。



この【罪人武闘アンフィテアトロン】、元々何代か前の魔王が始めた囚人達の減罪をかけた御前試合が元になっているとかいないとか。



「さぁ、【罪人武闘アンフィテアトロン】いよいよ本日の大目玉!注目の特別スペシャル対戦カードです!」

「「「「「ワァァァ!!(大勢の歓声の一部)」」」」」



テンションの高い司会者、それに合わせて歓声をあげる観客達。司会者は右を向き語る。



「東コーナー!我らが麗しの魔王!ピア・リアスピナ・エクリプスー!」

「「「「「ワァァァ!(大勢の歓声の一部)」」」」」



東側の門より現れたのは、鮮やかながら繊細な絹のような金髪を揺らしながら歩く女性。




「そして西コーナー!帰ってきた『大罪人』!フォル・ツヴァイ・エクリプスー!」

「「「「「ブー!ブー!(大勢のブーイングの一部)」」」」」



そして西の門より現れたのは少しやつれた格好をしたフォルだった。



「…随分と民に嫌われているようだな」

「そうだねー、それにしても久しぶりだね、妹よ」

「あなたに妹と言われる筋合いはない!」

「いやー、寂しいこと言うなー、でもこれ実質ぼくの公開処刑みたいなもんでしょ?だからこれが最後になるかもしれないしさー」

「ふん、その減らず口もここまでだ!」



ピアは両腰にかけている剣のうち真紅に染まった剣をフォルの方へ投げて渡した。



「わざわざ剣を返してくれるの?」

「ふん、どうせここでお前の命は終わるのだ。それに元々魔王が囚人の中で強き者と闘うのは

罪人武闘アンフィテアトロン】の定番だからな!それにお前など、恐るるに足らん!」

「…ちょっとそれは心外だな」

「どうとでも言え、さぁ、構えろ!『大罪人』フォル!」



その言葉を皮切りに双方剣を構えた。



ちなみにこのコロシアム、建物に魔法使用禁止の魔法陣が組み込まれており、その上囚人は逃走防止の手枷をしているため逃げ出す事など不可能である。



少し火種を入れれば爆発するような一触即発の様子を上の関係者以外立ち入り禁止の特等席から魔王騎士団第一〜五位の傑物が静かに見守っていた。



「魔王様、大丈夫っすかね?」

「さぁな、しかし例えかつての王位継承者で兄が相手だとしても魔王様は負けわせんだろ」

「……むぅ」

「ウォーラン?どうしたの?」

「ぬ?なんだ?シューナよ」

「おまえ、なんか隠してる?」

「いやいや、そんな事ないぞ?」

「ふ〜ん?」

「静かにしろ、そろそろ始まるぞ」

「分かった(…イチロ、うまくやれよ)」



そんなウォーランの心の声は誰にも聞こえる事なく、司会者は闘いの始まりを告げた。



「それでは試合、開始〜!」



それが合図であるかのようにピアは剣を構え駆け出した。



「行くぞ!」

「ちぇっ、ここまできたらやるしかないか…うおぉぉぉ!」



フォルは剣を振り上げてピアに向かっていった。



ガイィィィン!



剣戟が響き渡る。鮮やかでどこか荒々しい音、それはまるで一つの音楽のような響きだった。



彼らはお互いを兄妹と見てなかった。ただ命を取り合う敵としてお互いを見ていた。その命の取り合いにいつしか観客は息を止めたようにそれを見守った。そんな剣戟が数十分続いた頃、変化が起きた。



ーーーフォル様……。



一瞬、フォルの耳に声が聞こえた。



(え?サナ?!)



フォルはほんの少し目をそらした、サナの声が聞こえた気がしたから。その瞬間ピアはフォルの手から剣を弾き飛ばす。



ギィィィン!



剣を弾き飛ばされ、フォルの首筋にはピアの剣が突き立てられた。



「終わりよ」

「あぁ(これでいいんだ、これで僕が死ねば奴は•••でも参ったな。サナだけには見られたくなかったのに。いるのかな?いないのかな?わかんないや、でも良かったな。最後に幻でもサナの声が聞けて…)



そんな事を思いながらフォルはそっと目を閉じ、命の終わりを待った。


ガキキィィィン!


そこに淡い菫色の光を放つ刃がピアの剣を受け止めていた。



刃を構えていたのは、鮮やかな菫色に染まった竜を模した鎧人。壱路と『オウリュウ』が一つとなった存在ーーー、『コウトクオウ』だった。



その存在にピアは危険な気配を感じ、後ろに素早く跳んだ。一方、『コウトクオウ』はフォルの方を見て会話を切り出した。



「ふぅ、間一髪セーフだな」

「へ?イ、イチロ君!?」

「ちょうど良かった、••••••一言さ、言っておく事があるんだよ」

「え?え?」

「歯ぁ食い縛れ!このヤロー!」



ゴスッ!



『コウトクオウ』の右ストレートがフォルの顔に直撃した。そのままフォルはうずくまり涙目になって『コウトクオウ』となった壱路をみる。



「い、痛い…」

「今のはみんなの分だ、黙って居なくなって、何一人で死のうとしてんだ!」

「って待って待ってよ、ぼくはみんなを…」

「言い訳無用だ!サナさん、僕らに泣いて頼んだんだぞ。自分はフォルに軽蔑されるかもしれない、だけどお前には死んでほしくない、だから助けてくれって!僕らだって頑張って探したんだぞ!」

「……えっ?」



その言葉を聞き、フォルは混乱する。



「そんな…なんで」

「それほどフォルの事が大事だったんだろ、それに••••••フォル、僕はお前の小説まだ読んでないしな、死ぬなら書き上げて書籍化してからにしろ!みんなにあとで謝罪しろよ!」



言っていることはめちゃくちゃだが、ただ嬉しかった、ふいに涙が出てくるくらいに、自分の事を信じてくれた、探してくれた、助けに来てくれた仲間達の事が。ただただ嬉しかった。



「•••••••••うん、うん•••!」

「さて色々話は後にして、今は弁護に入りますか••••••」

「べ、弁護?!何言ってんの?」



その言葉の意味をフォルはただ疑問が頭に広がる。

そんな中、ピアが側から見れば不審な鎧男である壱路を指差し、叫んだ。



「•••••貴様、何者だ!」

「んー、名乗るほどの者じゃないよ。ただの通りすがりの•••ヒーロー?みたいな?」

「はぐらかすな!捕らえろ!」



そうピアが言うと周りを兵士達が囲み、武器の刃先を壱路とフォルに向ける。



「あ••••••ヤバいかも」

「ってイチロ君、大丈夫なの?!」

「まぁ、大丈夫だよ。みんないるし」

「え?」

「かかれぇぇ!」

「「「「「おおおおおお!」」」」」



兵士達が襲いかかろうとしたその時だった。



「みんな、いいよ。さぁ、出頭おでましだ!」



その掛け声と共に観客席から仮面と黒マントを身に包んだ四つの影が現れ、兵士達を吹き飛ばした。



「よし、掴みは•••••」

「オーケーですね!」

「••••••••••••••••••••!」

「わざわざこんな派手な登場をすべきだったのでしょうか?」



四つの影はそれぞれ日本の伝統的な能面、般若、女面(小面こおもてという種類)、ひょっとこ面、おきなの仮面をそれぞれ被っていた、実はこの四人、観客席で待機していた天太郎(ひょっとこ面)、ツクヨ(女面)、チャンドラ(翁)、サナ(般若)である。ちなみに能面は壱路が旅の中で暇つぶしに作った隠蔽効果を持つ魔道具もどきだったりする。



「よっしゃぁ!」

「やりましたよ!師匠!」

「へへへ、この曲を鳴らして少ししたら出てこいってこういう事だったのか。けど選曲あれでよかったのか?」

「気分の問題だからいいんだよ」

「やりましたね、マスター!」

「お前は何もしてないけどな」

「ひ、ひどいですよ、マスター!私の出番はこれからですよ!」

「そうだな••••••期待してるよ、あ、そうだ、ねぇ、フォウン••••••••••」



壱路はフォウン(スマホモード)にコソコソと言葉をかけ、一同が周囲を気にせず和気藹々(わきあいあい)と会話する姿にピアは唖然としていた。



「お前らは一体••••••」

「それは言っただろう?ただの通りすがりのヒーローみたいなもんだって」

「そうだ!俺たちはヒーロー••••だよな?」

「えーと、そうですよ!•••••••多分」

「•••••さぁて、そろそろ作戦・・も第二段階に移りますか、ふふっ」



顔は見えないが、壱路が悪戯を始めようとする子どものようにニヤリと笑っていたのは、誰も気がつかなかった。

次回!


壱路が語る事件の背景と真実•••••真の『大罪人』は?!

そして真実が明らかになる時、魔王国を揺るがす最悪の事態が発生!?


乞うご期待!


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