第四十五話 忍び出会うは、隻腕の『デビルド』
その夜、魔城【ニブルヘイム】の下フロアにある廊下、そこを歩く一つの影があった・・・。
「いやー、それにしても広いな、ここ」
「マスター、マスターの行動にはいつも肝が冷えますよ」
「それ褒めてんの?」
「どうでしょうね?」
壱路だ(フォウンはスマホ型になってる)。彼は《不可視透明》、《静寂》を自らにかけて、城に直接潜入したのだ。
ちなみに目的は証拠集め・・・では無い。実はもうそれは終わっているのだが、その方法については後ほど明らかにするとして、今はフォルの救出を目指して行動している。
「フォウン、フォルがいそうな場所ってどこだと思う?」
「えっと、この城の地下に牢獄がありますけど・・・」
「地下牢獄、か・・・そこに隠し部屋とかないの?」
「ん〜、・・・・あ、ありますね、ここの奥の方です〜」
「よし、行ってみるか」
「はい!・・・それにしても、犯人はフォルさんを捕らえてどうするんですかね〜?」
「・・・もしかしたら・・・いや、まだ確証が・・・」
壱路が思考を巡らせていると、フォウンが声を掛ける。
「マスター、着きましたよ」
「え?あー、着いたのか・・・」
牢獄の奥の行き止まりの壁、ここに隠し部屋がある・・・とフォウンは言っていた。
「それにしても妙ですね、ここまでの牢に囚人とかが一人もいなかったなんて・・・」
「あぁ、それは気になるが、最悪の可能性はその囚人たちと一緒にフォルが連れさられたって奴だな」
「でもどうやって隠し部屋に潜入するんですか?」
「んなもん壊せばいいだろ?」
「え?」
「《倶利伽羅・般若真掌》」
そう壱路は呟くと壱路の右手が炎が纏わりつき、炎でできた鬼の剛腕となっていた。
ジュァァァァァ!
見ると壁は跡形もなく溶解し溶けていた。
《倶利伽羅・般若真掌》・・・それは炎の剛腕による一撃でその対象を溶解、滅却させる七つある《倶利伽羅》の中で二番目に高い威力を持つ。
「よし壊れた」
「って何してんですか〜!」
「え?ちゃんと《静寂》は効いているから、音は伝わらないよ?」
「いや、それでも壁を壊すなんて・・・マスターってなんでこんなにめちゃくちゃなんですか!」
「え〜それより入ろうよ、フォルがいるかもしれないし」
そして堂々と隠し部屋に入るとそこには拘束具とヘルメットをつけ、椅子に括り付けられた囚人が一人いた。ヘルメットから覗く髪は赤毛で身体の右腕部分が不自然な形で欠落している。
「ん・・・映画の重罪人みたいな感じだな」
「けど、フォルさんじゃないみたいですね」
「あぁ、髪は赤毛だし・・・ん?右腕がない?(ん?待てよ・・・確か殺された奴は・・・)」
しばし口を閉ざした壱路は突然ハッとなった。その考えが事実なら・・・全ての事実につながる。
「(僕の仮説が正しければこの人は・・・)連れて行くぞ」
「えぇ!」
「この人が僕らが捜していた決定的な証拠になる人だ!」
「こ、この人が?」
「一応《解除》、そして《分解》!そして《治療》!」
魔法を無効化する《解除》と構成しているものをバラす《分解》、そして一応回復効果のある《治療》を使い囚人を解放した。
その男は頭に羊のような角があり、多少無精髭があるが整った顔立ちをしていた。体はボロボロだが息はしている。
そして《瞬間移動》して魔城を後にした壱路であった。
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魔城より拠点であるウォーランの迎賓館に帰還した壱路、それに気づき、一同は壱路の連れてきた謎の隻腕赤毛男に驚きと疑問の声を上げる一同。
「おっ、壱路、おかえ・・・でぇ?!」
「師匠ー・・・ぬぁ!?」
「キューイ?」
「ピューイ?」
「い、壱路、そのヤローはどうしたんだ?!」
「いや、牢獄の隠し部屋に監禁されてたのを救出したんだよ、そういやウォーランとサナさんは?」
「ウォーランさんは城に行ってる、探りを入れるんだとよ。後、サナさんは」
「それにしても、大丈夫なんですか?この人・・・・」
「・・・・・く、ここは・・?」
どうやら男は目を覚ましたようだ。壱路はそっと彼を応接間のソファに寝かせ、語りかけた。
「お、気づいたか、ここは第三区域の迎賓館だよ」
「おい、兄ちゃん、大丈夫かい?」
「だ、大丈夫ですか?」
「・・・お前たちは・・・人族?!ぐっ!?」
慌てて動こうとした男だが動こうにも体は自由に動かなかった。
「おいおい、無理はするなよ、まぁ、何年か知らんがあんな椅子に括り付けられてたら、そりゃ体は動かないもんだよな」
「・・・」
男は無言で壱路の言葉に答えた。その様子に一同は困惑する。
「これは警戒されてるな」
「あぁ、せめてウォーランさんがいればなんとか・・・」
「今戻ったぞ・・・と、みな、そんなにしかめ面をしてどうしたのだ?」
どうするか悩んでいるとウォーランが帰ってきた。
「ウォーラン!ナイスタイミング!」
「ん?なんだ・・・、この男は・・・・・な?!」
赤毛の男を見るや否や、ウォーランは驚愕の表情を宿した。
「あ、貴方様は・・・」
「ウォーラン・・・か?」
「チャ、チャンドラ様!」
「「「チャ、チャンドラ?!」」」
その名前には聞き覚えがあった。フォルが魔王国を出ていくきっかけとなった殺人事件の被害者・・・つまり彼は死んだはずの元魔王騎士団第一位、チャンドラ・ライザ・レイモンドその人だった。
「な、何故あなた様が生きて?!」
「・・・・・どういうことだ?」
お互いに情報が足らないのでひとまず話をまとめる事にした。ウォーランはフォルが魔王殺しの大罪人になってる事、その罪を晴らすために仲間である壱路達と協力している事、そしてその過程でチャンドラを見つけ、保護した事を・・・。
「そうか、それは全て奴の仕業だ。くそ!フォル様が魔王殺しだと?あいつめ・・・」
「で、では・・・フォル様は無罪なのですね?チャンドラ様」
「・・・そうか、じゃあやっぱり・・・」
「え?壱路・・・やっぱりって」
「師匠?」
「マスター?」
「分かったよ、犯人」
「「「えぇ!?」」」
「多分これでフォルを・・・」
壱路が言葉を続けようとしたその時、ドアを勢いよく開ける音が聞こえた。サナが息を切らし、肩を震わせながらそこに立っていた。
「み、皆さん!大変です!」
「「「「サナさん!」」」」
「サナ、どうしたのだ?」
「・・・サ、ナ?エレンの、妹か?」
サナは興奮していてチャンドラに気が付いてない、そのまま話を始めようとする。
「今、外で情報収集をしてたらこんなものが・・・」
「「「「「・・・・・な?!」」」」」
そしてサナは手に持った号外新聞を見てみるとそこにはこう書かれていた。
『明日第二区域のコロシアムにて、【罪人武闘】を開催!そこであの『大罪人』と魔王が?!』と。
「【罪人武闘】?」
「まさか・・・」
「な、なんなんだよ、この【罪人武闘】って」
ウォーランが言うに【罪人武闘】とは囚人同士が減罪をかけて戦う、魔奏歌祭限定の祭典、ようは剣闘士みたいなものである(時々死人が出たりするが人気で逃亡者もいないのだ)。
「・・・だから囚人が一人もいなかったんですね。じゃ、じゃあ、明日フォルさんが殺されるかもしれないって事ですか〜!やばいじゃないですか〜!」
「くそ、こっちはようやく無実の証拠が手に入るかもしれないのに・・・」
「そうなんですか?!」
「あぁ、どうしたらいいんでしょうか〜」
「こうなったら仕方ない・・・みんな聞け!」
みんながこの加速する事態をなんとかしようとする中、壱路は考え付いたのは、限りなく単純でシンプルなものだった。
「明日、僕らは【罪人武闘】に乗り込む。真犯人をそこに引きずり出すぞ」
次回!
囚われたフォル、そこに迫る魔王の、妹の一撃!
その時、流れてきたのはあの有名な国民的時代劇の音楽?!
そしてそこに現れたのは?!
万を期して壱路と仲間たち、表舞台に立つ!
乞うご期待!
 




