第四十二話 魔奏歌祭《カーニバル》
魔王国に入った途端、周りが外と別次元のように賑やかになった。それを見て目を子供のように輝かせる壱路とツクヨ。
「おぉ、これだ。ツクヨ、これこそが祭りだ!」
「凄い・・・!こんなたくさん人がいるなんて・・・」
「キューイ」
「ピューイ」
「さぁ、迷子にならないようについて来いよ!先ずはあの屋台から行ってみよう!」
「はい!師匠!」
「って、入ったそばから勝手に行動しないでくださいよ〜!」
「フォウン様、集合場所はあそこの狼の像が建ってる家の前でしましょう」
「わっかりました〜!行くよ、ヒルデちゃん!」
「キュキューイ!」
フォウンはヒルデを抱き抱え、壱路とツクヨの後を追いはじめた。
「じゃあ、俺もそこらをぶらぶらしてるから、ウリ、おいで!」
「ピューイピューイ!」
「気をつけてねー!」
ウリと共に人混みの中に消えていった天太郎を見送るフォルとサナ。そしてフォルは真剣な表情でサナに向き合い、言った。
「サナ、早速だけど頼みたいことがある」
「なんでしょう、御主人様?」
「ぼくがいなかった間の国の状況、そしてあの子と奴についての情報が知りたい、頼まれてくれるね?」
「・・・かしこまりました、御主人様」
「頼んだよ、ぼくはやる事があるから」
フォルが立ち去ろうとしたその時、サナは嫌な予感を覚えた、このまま、二度と主人とは会えなくなる、そんな感覚が。
「御主・・・いえ、フォル、気をつけて・・・」
「・・・あぁ、そっちもね?サナ」
そっと振り向き見せたフォルの笑顔はサナの頭から離れなかった。
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その頃、壱路達は屋台を回り、祭りを満喫していた。そして壱路は魚の串焼きを食いながらこう呟いた。
「それにしても、賑やかだな・・・【レオス】の祭りにも勝るとも劣らないし、この魚の串焼きもうまいしな、何より骨がないのが嬉しい」
「はい、おいしいです!これ!」
「そうですね、このりんご飴みたいなのもおいしいですよ〜!」
「キューイキューイ」
「いや〜、これなら他の食いもんの期待出来るな、本も面白いの手に入ったし」
「・・・ねぇねぇ、師匠」
「ん・・・なんだ、ツクヨ?」
「なんか、あそこで女の人、いじめてる人達がいます」
「「え?」」
ツクヨが指差す先を見ると、建物の間の裏路地でなにやらフードを被った女性を三人のゴロツキが取り囲んでいた。どうやらよくある不良に嵌められ因縁つけられる展開が今起こっているようだ。
「おいおい、ねぇちゃん、ぶつかったのに謝罪もなしか?」
「いや、何度も言うがここらに出るのは久しぶりだったものだからな、こちらの不注意だ、済まない」
「あのな〜、言葉ではなんとでも言えんだよ、ようは形にしてくれないとね〜?」
「そうだ、そうだ!骨でも折れたらどうするつもりだ!」
三人組の魔族が手を懐に入れながら威圧をかけるが、女性は強気に一歩も引こうとはしない様子だ。
「・・・何をしてほしいと言うのだ」
「だからさ、ちょっと謝礼でも軽〜く、な?
それか・・・」
男はその女性の体をジロジロと良からぬことを考えてニヤニヤしていた。
そして女性はというと・・・。
「・・・外道が、その薄汚れた目を向けないでくれないか?不愉快だ」
「あぁ、このアマ!下手に出てりゃつけ上がりやがって!」
「おうおう、ねぇちゃんよぉ!あんまり強情だと痛い目みんぞ!」
「薄汚い目をしているお主らに外道と呼ぶ以外なんの言葉がある!恥を知れ!」
「このヤロー!ちょっと痛い目みせてやれ、お前ら!」
「「あいよ!」」
リーダー格の男が取り巻き二人にそう命じると、二人は懐からナイフを取り出し、女性に刃を向け振りかざそうとする。女性は突然の強行に戸惑い避けようとするが後ろは壁、避けようにも避けられない。
男の狂刃が女性の身に降りかかろうとしたその時、一つの小さな影が現れた。
「えい!」
「ふごわぁ!」
その影は取り巻きの一人の頭に両足でドロップキックをかまし、クルクルっと華麗に着地した。
その小さな影は、膝まである黒いロングコートを羽織り、中は動きやすいシャツとショートパンツというアンバランスな格好をしたツクヨだった。髪は後ろで一括りされたポニーテール、可憐さと活発さを宿した容姿をしているので大分雰囲気は違うだろう。そしてツクヨはビシッと指を差しこう言った。
「やい、悪党め!寄って集って女性に乱暴を働くなんて恥ずかしくないんですか!」
「・・・こんのガキ!」
「やっちまえ!魔法を使ったっていい、余計な首を突っ込んだことを後悔させてやれ!」
「な?!や、やめろ!」
「喰らえーーー!《ブラック・ボール》!」
「え?ぬわぁ!?」
闇属性を秘めた球が少女に迫ろうとしたその時、菫色の刀を持った黒い影が現れ、球を断ち切った。
壱路だ。壱路は女性の危機に飛び出したツクヨを追い、間一髪のタイミングで『オウリュウ』で《ブラック・ボール》を切り裂いたのだ。
「あ〜、全くもう、ツクヨ。お前さぁ、もう少し考えて行動しろといつも言ってるだろ?」
「師匠!・・・その、ごめんなさい」
「ただ、あのドロップキックは良かったぞ、ちゃんと決まっていたし、見てるこっちもスッキリした」
「は、はい!」
そんな呑気な師弟の会話に先ほどから思惑を色々邪魔されたゴロツキのリーダー格はブチ切れたようにこう言った。
「おい、お前!いきなり現れやがって・・・なんのつもりだ!」
「うるさいな、そっちこそ、うちの弟子によくもあんな魔法ぶっ放してくれたな、当たったらどうするんだよ、大怪我してたかもしれないだろ!」
「このヤロ・・・」
「アニキ!ここは逃げた方が・・・」
「黙れ!あの野郎は所詮一人・・・一気に終わらせてやる!」
「いや、もう終わりだよ」
「な!?」
その声は後ろから聞こえてきた。壱路は彼らの後ろに一瞬で移動していたのだ。
「い、いつの間に・・・」
「とりあえずここから消えろ・・・《瞬間移動》」
ゴロツキ三人組は・・・消えた。ちなみに飛ばした場所は魔王国近辺の上空1,000メートルの位置である。運良ければ助かるだろうが運悪ければ半身不随などの大怪我はする筈だ。
そして襲われていた気が強い女性に話しかける壱路。
「ふぅ、あんた、大丈夫か?」
「え?あ、あぁ、大丈夫だ、かたじけない。見ず知らずの私の為に・・・」
「いや、礼ならあそこのチビ弟子に言ってくれ、僕は大した事はしてないから」
「師匠!あたしはチビじゃないですよー!」
「あぁ、そうだな、・・・ありがとう。本当に助かったよ」
そう言って女性はツクヨに笑いかけた。その顔とフードから出てる金色の髪に誰かに似ているな、とツクヨは思ったが誰に似てるのか思いだせなかった。
「じゃ、そういう事で。行くぞ、フォウンがカンカンになる前に戻るぞー!」
「御免!また会う機会に!」
魔法も少し他人に見せてしまったし、この場にいるのは得策でないと思ったからだ。そして壱路とツクヨは女性の前から姿を消した。
「あ・・・、行ってしまったのか、名前、聞けなかったな・・・」
そう言いながら彼女は壱路とツクヨを実に面白い師弟だと思っていた。どちらもまっすぐな目をしていて、まるで親子のようだった
。
「また会ってみたいものだな・・・あの師弟には」
彼女はそっとフードを外す、それはなんと、壱路の仲間であるフォル・ツヴァイ・エクリプスの顔と瓜二つであった。
「さぁ、そろそろ戻るとするか・・・」
彼女こそ、魔王国【ハーログ】の現魔王であり、フォルの双子の妹、ピア・リアスピナ・エクリプスであり、のち壱路とは意外な再会を果たす事をどちらもまだ知らない。
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一方、その頃、フォルはというと・・・。
「・・・・・変わらないな、ここは」
彼はある裏路地の通路にいた。そこは子供の頃、とても印象に残る思い出の場所でもあるが、彼はそれを懐かしむ為にここにいるのではない。
「ねぇ、そろそろ出てきてもいいんじゃない?」
「・・・!」
「さっきからバレバレな尾行だったね、なんでこんな事してるのか説明してくれないかい?」
「・・・ふふふ」
フォルは先ほどから自分の後をつけていた追跡者にそう問いかけた。するとそこに現れたのは見事な紅色の髪を持つ美青年だった。
「・・・ふっ、久しぶりですね。猊下?」
「!お、お前は・・・・・アルファス!」
そこにいたのは魔王騎士団第一位、アルファス・ライザ・レイモンド、その人だった
次回!
フォルとアルファスの関係は!?
そしてフォルが大罪人として逮捕された?!
そして壱路達は真相を探る為、ある人物の元に急ぐ!
明かされる真実を見逃すな!
乞うご期待!




