第四十話 重ねる面影、つなぐ手と手
隣に座り、静かに少女に話しかける壱路。そして少女はそっと横を向き、心の中で話した(ちなみに《通信》の力はまだ続いている)。
「(・・・さっきのお兄ちゃん)」
「(・・・残念だったな、お母さんのこと)」
「(・・・うん、だけど仇は、取れたから・・・ありがとう)」
「(本当にそう思っているのか?)」
「(え?)」
疑問の声をあげる少女、そして・・・。
「何を話しているんだろう」
「フォル様、ここは私達が口出す事ではありません、イチロ様に任せましょう」
「そうだな、サナさんの言う通りだ」
「マスター・・・」
その様子をそっと見守る一同。
「(確かに君のお母さんを殺した魔物は僕が散り屑にしたけど、その魔物を造った奴は逃しちまった、つまり仇討ちは終わってないって事だ)」
「(・・・・あ)」
「(今回は手を貸したが本当はこれはお前がやる事だ)」
「(でも、・・・・わたし、弱いし、お兄ちゃんみたいに強くないし・・・)」
「(・・・・・で、提案なんだけどさ)」
「(・・・?)」
「(僕らと一緒に来ない?てか、僕に弟子入りしない?)」
「(・・・え?)」
それは半年前の壱路なら絶対に言わない言葉、その言葉に少女は目を開かせる。
「(・・・いいの?)」
「(それを決めるのはお前だ)」
「(・・・なんで?なんで会ったばかりのわたしにここまでしてくれるの?)」
それは当然の疑問、今日会ったばかりの赤の他人が、いや、そもそも他人に興味のない壱路がそこまで関わるのは異常だった。
そして壱路はその答えを口にする。
「(・・・僕もね、同じなんだよ)」
「(・・・同じ?)」
「(あぁ、大切な人が目の前でいなくなって、それを止められない、止める事ができない。そんな、いまお前が抱いてるであろう悔しさや後悔がよく分かる・・・だからほっとけなくなった、それだけだよ)」
これは壱路の理由の半分、もう半分の理由は・・・。
(それに、なんとなく似てるんだよなぁ、あの人に)
それはかつて失ってしまった大切な人の面影を少女に重ねていたのもある。
「(で答えはどうだ?)」
「(・・・・・・お願いします!強くなれば、もう誰もいなくなったりしないでしょ?わたし、強くなりたいんです!)」
「(・・・あぁ、そうだな。よし、今日からお前は仲間で弟子だ!)」
「(はい!)」
「(あ、それなら名前が無いとな・・・名前無いと不便だし)」
「(名前?わたしの・・・名前?)」
壱路はしばしの間考えて・・・しっくりくる名前を思いついた。
「・・・・・ツクヨ」
ツクヨ・・・それが少女に名付けた名前。日本語で書くと『月夜』、理由は夜の月のように美しく、優しさと強さを併せ持つ女性になるように・・・という大変ざっくりしたものだが、他にいい名前は思いつかなかったので、この名前にした。
「(ツ・・・クヨ?)」
「(あぁ、・・・どうかな?)」
「(ツクヨ・・・あたしはツクヨ・・・!ふふふっ!)」
「(気に入ったようだな)」
「(・・・はい!師匠!)」
「(し、師匠?・・・悪くないな)」
「(よろしくお願いします!)」
「(じゃあ、みんなのとこに行くか。ほれ)」
そして壱路は立ち上がり、ツクヨの手を握った。
「(・・・・・ふぇ?)」
「(ん、どうした?)」
「(いえ、なんか懐かしい気がして・・・)」
「(・・・そっか)」
実は壱路もツクヨと手を取った時、妙な懐かしさを抱いたがさほど気にしなかった。
「・・・マスター!はなしは終わりましたか〜?」
「あぁ、こいつの名前はツクヨ、たった今つけて、僕の弟子にしたから、みんなよろしく頼むな」
「「「「・・・えぇぇぇーーー!?」」」」
その後、ツクヨは全員に受け入れられ、めきめきと成長していくのだが、それはまた別のはなし。
そして壱路達は八カ月後、魔王国へと辿り着く。
そこで壱路はフォルと魔王の因縁、そして水面下にある陰謀に巻き込まれるのは言うまでもない。
次回!
新章、突入!
ついに魔王国にたどり着いた壱路達、そこでは国の伝統の祭、魔奏歌祭が開催されていた。そしてその明るい雰囲気の中でうごめく企みも・・・。
因縁と陰謀が混じり合うこの地で壱路はついにある決意を固める!
ここから壱路は英雄の道を歩み始める!
乞うご期待!




