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黎明のイチロ 〜空から落ちた支配者〜  作者: 作読双筆
第四章 魔大陸道中記 〜新たな仲間と人刀一体〜
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第三十六話 本当のスタートと新たな出会い

魔大陸で【ハーログ】の元第一王位継承者、フォルとその執事サナと出会った壱路。その出会いから3日が過ぎて、壱路達は・・・濃い霧が漂う外にいた。



「さて・・・用意はできたな」



壱路はいつもの黒いコートではなく、今までとは違う黒のコートを纏っていた。実は着ていたコートは大分くたびれていたのを見てサナが調整と補強をしてくれたのだが・・・その際学ランも使いたいと言われ渡した所、コートは全く別物へと姿を変えていた。二枚重ねの様式になっており、下は袖なしの今までと同じロングコートタイプ、上に羽織るのは学ランを元にした同じく黒のフード付きジャケットだ。

しかも元々兼ね備えていた体力と身体能力強化はもちろんの事、暑い時は涼しく、寒い時は暖かくなる冷暖房魔法も搭載されより快適になったのは言うまでもない。ちなみに魔法袋をウエストポーチもどきの形にしてもらい、ベルトの後ろに付けている。そして腰にはいつも通り、『鱗蟲刀・オウリュウ』が差されていた。



「これは動きやすいな、ありがとう、サナさん」

「いえいえ、少し裁縫と魔導具の技術を齧っていただけなので・・・」

「うんうん!かっこいいですよ〜、マスター!」

「キューイキューイ!」

「・・・サンキュー」



褒められて悪い気がしない壱路、そこに慌ててこちらへ来るフォルの姿があった。



「お〜〜〜い。イチロくーん!」

「あ、御主人・・・様?」

「フォル・・・その格好は・・・なんだ?」



フォルの格好を見て疑問に思った壱路。それは上品な印象を漂わせる碧色のマント、そして腰には全体が血のように赤い剣が差されていた。まるで旅に出るかのような衣装だ。



「いかにも旅の衣装だよ?ここにたどり着くまでは着ていたんだー!似合う?似合う?」

「あの〜、もしかして、フォルさん・・・」

「うん、ぼく、イチロ君と一緒に行く事にしたよ!」

「「はぁ?!」」

「キュイ?!」

「ご、御主人様!?」



その言葉に驚きの声をあげる一同、普段は冷静なサナもこの時は驚愕の表情を浮かべた。そしてフォルの首根っこを掴み、壱路達と距離を離すと、何やら小声で話し始めた。



「どういうつもりなんですか!彼らについて行くという事は魔王国に帰るということですよ!?」

「えー?ダメなのー?」



不服そうに言うフォル、それを先程より顔を険しく迫るサナ。



「ダメも何も・・・御主人様、貴方は国から追われてる身なんですよ!もし貴方の身に何かがあったら・・・」

「・・・大丈夫だよ、サナ、ぼくだって生半可な気持ちで行くわけじゃない、・・・もう逃げるのはやめたんだ」

「・・・!フォル様・・・」

「それにイチロ君も一緒だしね、大丈夫だよ」

「・・・フォル様はなぜ、あの人族ヒューマの事をそこまで信用なさるのですか?」

「それはね・・・彼がぼくと似てるからさ」

「・・・・・あ」



フォルの言うとおりだった。確かに壱路とフォルは似ていた。性格は違うが根本的な所が似ていた。



本が好きで、こうと決めたら一直線で、傷つく人がいれば種族など関係なく、関わり、助ける。そんな所がそっくりだった。



「その点はぼくら兄妹(・・)とそっくりなんだってウォーランも手紙で書いていたんだ、・・・それにね彼は満更でもないみたいだよ?」

「・・・・・分かりました、それなら止めはしません」

「本当?」

「しかし、私も付いていきます!い・い・で・す・ね?」

「・・・・はい」



その後、壱路達も、

「まっ、いっか、別について来ていいぞ」

「大歓迎です〜!」

「キュイキュイ!」

と、フォルとサナが付いて行くことに賛成したのだった。



そして数分後・・・。



「お待たせしました」

「おっ、準備出来たのか?」

「あ、あまり服装が変わってないような〜・・・」

「私にとって執事服こそ正装で戦闘服ですので、問題ありません」

「そっか、そういえば屋敷は放置しておくのか?」

「もちろん、持っていきますよ?」



一瞬、サナの発言の意味が分からなかった。



「え?」

「この屋敷は木材で出来てません、全て闇魔法で形作られているのです」



そう言うと次の瞬間、屋敷は一瞬にして黒一色になり、上から少しづつ崩れていき、最終的に姿を消した。



「・・・・こんな事が出来るのか(すげぇな、あれ使えるかも)」

「はい、」

「さて、全ての準備は整った!行こう!魔王国【ハーログ】へ!」

「こっから【ハーログ】ってどれくらいかかるんですか〜?」

「正規ルートで・・・八、九ヶ月くらいかな?」

「「遠っ!」」

「まぁ、別にすぐに行く用事はないんだし、のんびり行こう!」

「(・・・・・はぁ、とんでもない奴らを仲間にしちゃったかな、めんどくさい・・・)」

「(けど、マスター、気付いてないようですけど・・・今のマスターは一人で旅してた時より楽しそうな顔をしていますよ?)」

「(へ?・・・そうかな)」

「(最初の頃より性格が変わったし、なんか表情に余裕ができてますよ!)」

「(・・・そうなのかな)」



考えてみたらこの世界に来てから、心に作っていた壁がどんどん剥がれていく感覚はしていたのだ。少しづつだが・・・成長している実感はあったのだ。



「よし・・・・行くか!」



魔大陸での本当のスタートを切った壱路達だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一週間後、順調に旅をしていた壱路一行。今目の前には魔族の村が目前に迫っていたのだ。



「・・・そういえば、ここ一週間大きな街には出くわさないな」

「ん?イチロ君、魔王国の街は首都の【オルトーロ】だけだよ?」

「はぁ?!まじかよ!」



初めて知った事実だった。



「そもそも、【オルトーロ】はそれぞれが城を覆う形で七つの区域に分かれていてそのそれぞれを魔王騎士団スクリームと魔王が治めるシステムなんだ」

「ふーん」

「ほうほう、実際に目に届くところに置いておく事で裏切りを防止するんですね〜!」

「いや、一区域一区域、それぞれその治める奴が違うから個性が出まくっててね・・・実質小さな国が乱立してる状態かな?」

「その通りです、中には花街まがいのものや闘技場のようなものまで・・・」

「・・・いやー、楽しみだな、でも行くならウォーランが治めてる区域に行きたいな、魔王が治める区域とかは面倒そうだし」

「・・・あぁ、なるべくそうしたいね」



一瞬、フォルの表情が固くなった気がしたが、壱路はそれに気がつかなかった。



そして話していると、あっという間に村へとたどり着いた壱路達。しかしその入り口で・・・。



「・・・誰だ」



赤に染まったマントに包んだフードを被った不審者が立っていて、声をかけられた。



「えっと・・・誰でしょう?なんか仁王立ちしてるんですけど〜?無視します?」

「だよね、フォウンちゃんに賛成!」

「ご主人様と同じ意見です」

「そうだな」



不審者を無視し、気にせずに通り過ぎようとする壱路一行。しかしその不審者は壱路達の前に回り込み、立ち塞がった。



「待てよ、お前ら!なぜ無視しやがる!」

「・・・不審者は無視して通り過ぎるのが常識です」

「誰が不審者だ、コラァ!喧嘩売ってんのか?!アァ⁉︎」



何やらヤンキーと江戸っ子を混ぜたようなしゃべりをする人物に壱路は溜息をつく。



「うっさい、喧嘩なんか売らないよ、だからどいて?こっちも不審者とおしゃべりするほど暇じゃないから」

「俺は不審者じゃねぇ!」



そう言うと、彼はフードを外し、素顔を見せた。



「「なっ!?」」

「(マスター!あれって!)」

「(・・・に、日本人!?)」



それは壱路と同じく、漆黒の髪と瞳を持っていた。しかも髪型は・・・今時珍しい長髪リーゼントだった。容姿も日本人らしい顔立ちでまさしくヤンキーそのものだった。



「「(ふ、不良だーー!そして日本人!)」」

「ねぇねぇ、その髪変わっているね。かっこいいよ」

「奇天烈な髪型ですね」

「・・・なんだと!」



内心ちょっと驚く壱路とフォウン、珍しがるフォルと冷静に感想を言うサナ。その反応にリーゼントの男はフォルの元に駆け寄り・・・。



「この髪型がかっこいいと・・・分かる奴じゃねぇか、あんた!」

「あぁ、すごい珍しいよ」

「悪いなぁ、なんかガンたれてよぉ、最近この村にたくさん魔物が押し寄せるから気ぃ立っちまっててよぉ」

「・・・であなたは誰ですか?日本人?」

「へ?日本人って・・・」



そっとフードを外して、素顔を見せる壱路。



「あ、あんた日本人なのか?!おぉ!あの2人以外にも日本人に会えるなんて夢みたいだぜ!」

「・・・2人?」

「ピューピュー」

「キューキュー」

「・・・ん?」



見るといつの間にか肩から降りていたヒルデが黒いもこもこした小動物とじゃれあっていた。その小動物は瓜坊(イノシシの子の事)に似ていたが背中に小さな翼がただの小動物でない事を示していた。



「あ、ウリノシン!友達が出来たのか!」



どうやらヤンキー男(とりあえずそう呼ぶ)のペットのようだった。



「この瓜坊、お前の?」

「あぁ!かわいいだろ!ウリノシンってんだ。この白トカゲはお前のか?」

「(し、白トカゲ・・・竜なんだが)そうだよ、こいつはヒルデだ」

「あぁ、ヒルデっていうのか・・・そういえばまだ名乗ってなかったな」



そう言うと、ヤンキー男はこう言った。



「俺の名は宝来たからぎ天太郎てんたろう、じゃなかった、テンタロウ・タカラギだ!職業は元勇者!今は仕事でこの村の用心棒としてがんばっている!よろしくな!」



その言葉にその場の空気が凍りついた。



「「「「も、元勇者!?」」」」



四人揃って驚きの声をあげる。



「あー、半年とちょっと前にいきなり召還魔法?ってので呼ばれてさ、偉そうな奴が『魔族を全滅させてくれ』って言いやがるからよ、ムカついてぶん殴ったら、なんかうるさくなってふらふらしてたらここに来てたんだ。」

「・・・・・(半年とちょっと前・・・僕がこの世界に来た時と同じ・・・それに確かあと二人日本人がいるような事を言ってたけど、まさか・・・)」

「(多分、マスターがドラコネスト山脈でぶっ飛ばしたあの自称勇者達の事ですよ)」

「(あぁ、1人は手足一本ずつぶった切ったんだよな、・・・次会ったら全身の骨の半分折ってやりたいよ)」

「(・・・けど、あの自称勇者達と違って、いい人みたいですよ)」

「・・・魔族の村で用心棒してるって聞きましたけど」

「あぁ、なんか魔物ぶっ飛ばしたらすげえ信頼されてよ、ひと宿の恩に報いるためがんばってるんだ」

「そうなんだー、すごいね!」



どうやら、あの時の勇者達と違いすごく真っ直ぐな性格みたいだ。何故かそれが羨ましいと思う壱路だったが、突如あたりに大声が響きわたり、考えを打ち切らせた。



「た、大変だーーーー!魔物が来たぞーー!」

「なんだと、何処からやって来やがったんだ、あいつらめ!」



そんな中、逃げ惑う村人らしき魔族がやって来た。



「あぁ!タカラギさん!今西の山から魔物が!」

「そうか!西の山だな!今行くよ!」



それを聞くと天太郎は一目散に駆け出した。



「・・・マスター、私達はどうします〜?」

「行くぞ」

「えぇ!決断はやっ!」

「何か面白いものが見れる気がするから!」



大変不純な動機だったが、壱路は天太郎の向かった方向へ駆け出した。



「ここで逃げるのは得策じゃないね、ぼくらもイチロ君に続こう!」

「かしこまりました、ご主人様」



フォルとサナもそれに続く。そして天太郎に追いついた時、彼らが目にしたものは。



「・・・あれってなんだ?・・・黒い骨?」



それは奇妙な光景だった。黒に染まった人骨の大群。俗に言えばそれはアンデットと呼ばれる存在に近い、しかしそのどれもがまるで人形のように規則正しく動いている。よく見るとその骸骨達は皆、手という手に錆び付いた武器をもっていた。



「ハイボーン・レギオン・・・!なんでこんな所に!?」

「ハイボーン?」

「あぁ、あれは本当なら大陸の魔力の塊が充満している砂漠にしか生息しない筈・・・なんでここに?!」

「ってそういや、あんたらなんで来てんの?!あぶねぇよ!」

「こう見えても腕は立つ方だから、それにあんたには聞きたい事があるしな」

「・・・?分かった、ウリノシン!隠れてろ!」

「ヒルデ、ちょっとフォウンと一緒にいて。フォウン、ヒルデの事よろしくね」

「ピューイ!」

「キューイ!」

「わっかりました〜!」



そして壱路と天太郎は骸骨の軍勢の方に目を向け、構えた。

壱路は『鱗蟲刀・オウリュウ』を軽やかに抜いた。すると『オウリュウ』が話しかけてきた。



「(ねぇ、イチロ)」

「(・・・なんだ?オウリュウ?)」

「(あの変な頭の人・・・両腕からボクと同じ感じがするよ)」

「(同じ感じって・・・まさか四霊器!?)」



そして見てみると天太郎の腕には亀の紋様を模した籠手が身につけられていた。俗にガントレットと呼ばれるタイプのその籠手は深い翠色に染まっており、それは重く威圧感のある気を出していた。



「さぁ、行くぜ!ダチ公!遅れをとるなよ!」

「ダ、ダチ公?」



いきなりダチ公宣言され戸惑う壱路を尻目にハイボーン・レギオンに立ち向かう天太郎。



「(四霊器であの亀みたいな紋様・・・間違いない、あれが四霊器の一つ・・・『介蟲籠手かいちゅうこて・レイキ』!)」



レイキ・・・神話では、背中の甲羅の上に蓬莱山ほうらいざんと呼ばれる山を背負った巨大な亀の姿をしている吉兆を予知する亀。



四霊器の竜と亀が出会った瞬間だった。

次回!


偶然か必然か、巡り巡りに渡り出逢った、

『オウリュウ』と『レイキ』!

そして壱路と天太郎!

この出会いが壱路の魔大陸最初の試練の始まりだった。

竜と亀の乱舞を見よ!


乞うご期待!

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