第三十五話 作家主人と男装執事
今回は少し長いです。
壱路の前に現れた、屋敷の主人ーーーフォル・ツヴァイ・エクリプス、一部の魔族にしかないと言われる雪の如く白い肌、そして夕日のように輝く若干長い金髪、そして容姿はイケメンの部類に入り、立ち振る舞いも身のこなしも完璧の一言しか当てはまらないものだった。
「やぁ、お客人、見た所、貴方は『ヴォルフス』のようだが・・・宜しかったら名前を聞かせてもらえませんか?」
「・・・イチロ・サガミだ」
「フォ、フォウンです。こっちは龍のヒルデちゃん」
「キューイ!」
「ふふふ、いい名前ですね、イチロ君・・・か、イチロ君は何故この屋敷へ?」
「別に、屋敷が見えたから、誰かいないかなーと思って」
「でも鍵をかけてないなんて無用心ですよ〜!泥棒に入られたらどうするんですか〜?」
「ははは、盗られるものなどこの屋敷にはないですから」
「・・・・・笑って言うことではないですよ、御主人様」
不意に階段の所から声が聞こえた。そこにいたのは執事服に身を包んだ魔族の姿があった。黒に近い褐色の肌、そして後ろで一括りにされた臙脂色の長髪、何より特徴的なのは額に生えている鬼のような角だ。容姿は中性的で男なのか女なのかパッと見で説明がつかない。多分執事だから男かもしれないが・・・自信がない。
「あぁ、サナ!久しぶりの客人だよ!いやー、楽しみだったからぼくが対応しちゃったよー!」
「まったく、来客の場合は私が出ると言っているのに・・・(以下略)」
「・・・紹介する、こちらはサナ・カトラ・フルトゥス、ぼくの執事だ、ちょっと口うるさいけど、すごく優秀なんだよ」
「フォル様?」
「い、いや!なんでもないよ!」
「(尻に敷かれてそうだな)」
「(最初はかっこよかったけど、本当は残念イケメンなんですね)」
「(そうだな・・・)」
こっそり話す壱路とフォウン。そこへサナが近づいてきた。
「イチロ様、フォウン様、ヒルデ様、でしたね。改めまして、私、フォル様の執事、サナ・カトラ・フルトゥスと申します。どうぞよろしくお願いします」
「・・・どうも」
「はい、てか、すみません〜・・・鍵が開いていたとはいえ、勝手に入って・・・」
「いえ、良いのですよ、御主人様の方針は『来るもの拒まず』ですから」
「ふ〜ん」
「とりあえずさ、ねぇねぇ、イチロ君さ、イチロ君って旅人なの?どこ旅してきたの?」
「ちょっと黙ってください、御主人様」
ゴガッ!
興味深々に聞いてくるフォルのみぞおちに容赦無い右ストレートを打ち込んだサナ。これではどちらが主人かわからないなぁと壱路は思った。
「フゴァ!・・・」
「・・・んじゃあ、私たちはここらで〜・・・」
「待ってください、今日はちょうど『霧晴狂魔』の日なんです。外に出るのは危険です」
「・・・『霧晴狂魔』の日ってなんですか?」
サナが言うにこの森には深い霧が立ち込めているが魔物は何故か姿を見せない、週に一回その霧が晴れる日がある。しかしその日には強力な魔物が闊歩し、暴れまくるのだ。そしていつからかは、霧が晴れると現る狂気に駆られた魔物が徘徊する日、『霧晴狂魔』の日と呼ばれるようになったらしい。
「・・・この屋敷には魔物避けの結界が貼られてますが、外に出れば・・・一巻の終わりです、ですのでどうか、どうか今晩はここで・・・」
「(そっか、昨日いきなり羊頭が現れたのはそう言う理由だったのか)分かった、そこまで言うなら、お言葉に甘えよう」
というわけで好意に甘える事にした。いざとなったら《瞬間移動》で逃げれば良いのだ。そんなわけで現在壱路らは屋敷の一室でくつろいでいた。
「あ〜、何日かぶりのベッド・・・」
「・・・あの、マスター、ちょっとお話が・・・」
「んー、何?」
「キュ?」
ヒルデと共にフォウンの方を見据える壱路。
「この屋敷、・・・調べてみたら、あの二人以外誰もいないんですよ〜、それにあの二人のステータス・・・」
「あぁ、フォウンがステータス見えるって事は偽名じゃないのか、となると気になるのは・・・その内容か?」
「はい〜、見てください」
そう言うと壱路の目の前に半透明なディスプレー画面が宙に浮いた状態で二つ現れた。フォウンの機能のひとつだ。そして内容を見てみると・・・。
フォル・ツヴァイ・エクリプス
Lv147 age:99
HP S
MP SSS
ATX S
DEF S
AGL SS
EXP 19547863
NEXT 452137
【魔法属性】 闇・火・水・土・風
【魔法】 〈ダーク・エンド・グラトニー
クイン・スフィア
クイン・プリズン
クイン・フィールド
クイン・シャベリン
クイン・ドライブ
クイン・ブレイド
(クインは火・水・土・風・闇の5種類ある)〉
〈称号〉
『ムマン』・超越者・闇極めし者・三流作家・好奇心の塊・黒炎・慈悲の仔・竜殺し・魔神に近しもの・罪の皇子・元第一王位継承者・極限の魔・電光石火・闇人・シスコン・王の器・魔殺し・残念イケメン
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
サナ・カトラ・フルトゥス
Lv 110 age:97
HP SS
MP A
ATX S
DEF C
AGL S
EXP 154987
NEXT 45013
【魔法属性】 闇
【魔法】〈臙花修羅・仙花一閃・荒守童子・貂手斯・千剣破故・狂恋結界〉
〈称号〉
『ラッセツ』・男装の麗人・超越者・忠実なる魔・ツンデレ・鬼の姉妹・厳しきもの・家事万能・執事・冷静沈着・臙脂羅刹・狂剣乱舞・魔殺し・毒舌・隠れ乙女
「・・・・・ツッコミ所あり過ぎだろ!」
「ですよね〜!総合的に見たらあっちの方が強いじゃないですか!」
「それに年齢も・・・人間だったらジジババだぞ・・・」
「キューイ!」
「それに〈称号〉をみると・・・予想外のが多いですね〜・・・」
「・・・ちょっと屋敷内を偵察しておくか」
「えぇ!」
「まぁ、万が一まずい事態になった場合の事を考えてさ」
「・・・そうですね〜」
「キューイキューイ!」
と言う訳で屋敷内を探索する事にした壱路。もちろん《不可視透明》を使って隠密はバッチリだ。
まず、近くにある部屋からシラミつぶしに当たってく。
「さて、まずこの部屋から・・・おぉ!」
「こ、これは・・・!」
「キューイ!」
扉を開けるとそこには、大量の書物が置かれていた。まるで図書館のようだった。
「すげぇ、本の山だ!これならしばらく退屈しない!」
「本当ですね〜!ん、マスター、あそこの机に何か置いてありますよ〜」
フォウンが指差す先に見える場所には、何やら紙の束に置かれていた。よく見るとそれは・・・。
「原稿?確かあの館主人、称号に三流作家とは記されていたが・・・」
「ど、どんな話なんですか〜?」
「キュキューイ!」
しばらくその原稿を流し読みをして読んでいた壱路達、そして読み終わって心に思ったことが一つ・・・。
((・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・く、クソつまんねぇ!))
まさしく人生の中で最もつまらなかった本だった。
「なんなんだ、これ?!三流とは言っていたがここまでだったとは・・・題名はどっかで聞いたことあるようなのを全部くっつけたのだし、ストーリー構成はめちゃくちゃ、キャラのコンセプトとセリフはブレブレ、アイデアもありがちなものばっかじゃねぇかーーーーーーーー!」
「おぉ、マスターが切れた!」
「せめて、ジャンルは一つに絞って、何を読者に伝えたいのかとか主人公達のコンセプトに沿ってセリフ考えるとか色々できる事あるだろうが!」
「ですね〜」
「キューイ〜」
「・・・・・だが文章の表現は悪くない」
「ん〜、私もそこは同感ですね!ねぇ、ヒルデちゃん!」
「キューイ!」
壱路はこう見えて本にはうるさい。しかしあまりにも、読む人を意識してない本の様式に憤慨してしまったのだ。そうして感想を述べているところに怪しい視線を感じた。急いで振り返るとそこには・・・フォルとサナが立っていた。そして今気づいたことだが《不可視透明》が解けていた。多分知らず知らずの内に解けていたのだろう。
「やぁやぁ、イチロ君、どうしてここへ?」
「あ!フォルさん、それにサナさんも!どうして?」
「何やら声がしたものですから、気になって来てみたところ、あなた方がここにいたのです」
「いや〜、ちょっと屋敷を見て回っていたらここに本があったもんで・・・」
「そうかそうか!・・・その手に持ってる原稿、読んだんですか?」
「あぁ、読んだぞ」
「ど、どうでしょうか?それ!自信作なんですよ!」
爛々と目を輝かせてフォルはそう言った。仕方なくフォルの質問に答える事にした壱路とフォウン。
「え〜と、非常に個性的だったと・・・」
「正直言って、つまらなかったです」
「ってマスター!そんな直球で言う事ないでしょうが!」
壱路の歯も着せぬ正直な感想をいい、焦るフォウン、そしてその場で固まるフォル。
「つ、つまらない・・・」
「うわ〜、めっちゃショック受けてますよ〜」
「いえ、良いのです。イチロ様、ありがとうございます」
「へ、けど、サナさん、あれは・・・」
「心配無用です、御主人様ならこの程度の挫折は平気で乗り越えられるので」
「へ〜、信頼しているんですね」
「・・・執事ですから」
「どどどどどどどどどどこがよぐながったんですがぁ!おじえでぐだざい!」
「は?教えろって・・・」
半泣きされて迫られたので、仕方なく壱路はフォルの原稿の致命的な原因を次々と指摘していった。
「文章の表現はうまいんだ。だから後はジャンルとストーリー構成とキャラ作りをちゃんとすれば良い作品が書けると思うよ」
「ふーむ、ジャンルねぇ・・・なにが良いんだろう?」
「例えば〜恋愛話とかどうですか?有名な物だと1000年くらい読まれてるのもありますよ?」
「せ、千年?!すごい、それ、ちょっと教えてくれないか?」
そして数十分間、壱路は自分が知る限りのラブストーリーを異世界でも通じるよう多少いや大幅に改変しながら話していった。
「・・・すごいすごいよ!こんな話知らなかったよ!ありがとう!」
「気にするな、大した事してないし」
「いやー、初めて見たときから君らの事、興味持ってたよ?なんせ『ヴォルフス』じゃないのに『ヴォルフス』の振りしているんだもん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
一瞬、フォルの言葉の意味がよくわからなかった。
「な、なにを言っているんですか〜、マスターはどう見ても・・・」
「いや〜、だってメガネ掛けてる『ヴォルフス』なんて聞いたことないよ。『ヴォルフス』はみんな数キロ先の景色を見通すくらい目がいいし、本には興味を示さないよ?体動かすのが好きな種族だし」
「(や、ヤバイですよ!マスター!このままじゃあ全滅です〜!)」
「(・・・・・くそ、仕方ない・・・こっちも)」
状況ははっきり言ってヤバイ。『ヴォルフス』についてもっとよく調べておくべきだったが、後悔しても仕方がない。壱路は《変化》を解き、いつもの漆黒の髪と瞳を持つ人間の姿に戻った。その様子を見て内心驚愕するフォルとサナ。そして壱路が口を開き、言った。
「確かに僕は魔族じゃない、人族だ。それは認めるよ・・・けど何か隠しているのはあんたらも同じじゃないのか?」
「・・・何を言っているんだい?」
「【元第一王位継承者】、そして【臙脂羅刹】」
「「?!」」
「確かに僕は魔族についてはあまり知らないけど・・・あんたらの事は分かるよ」
「それは・・・私たちの称号・・・」
「・・・・ふふふふふふふふふふ」
そんな緊迫状態の中、突然フォルは肩を震わせた。そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜか笑っていた。
「くーくっくっくっ、あーっはっはははははははははははっは!すごいよ!よくわかったね!ぼくらのステータスを見る事ができるのかい?すごい、こんなに愉快なのは久しぶりだ!」
「・・・御主人様、しかし・・・」
「構わないよ、彼なら信頼できる」
「・・・何を根拠に言ってるんだ?」
「そ、そうですよ〜私たち、正体を隠してたんですよ?」
「キューイ」
壱路達はフォルの根拠なき確信に疑問の声を上げる。するとフォルはまるでいたずらが成功して喜ぶ子供のように笑って言った。
「イチロ君の左手の指輪を見たときに君が魔族じゃないって事がわかったんだ」
「指輪って・・・これか?」
壱路は左手にはめている狼の頭を模した指輪を見た。これは随分前、異世界での最初の騒動に巻き込まれた時、出会った『ヴォルフス』のウォーランからもらった指輪だった。
「ウォーランから聞いていたんだ。面白い人間に会った、そして自分の指輪を渡した、もしかしたらそっちに来て会えるかもしれないってね、まさか君だったとはね」
どうやらフォルはウォーランと繋がりがあるようだ。そしてウォーランが太鼓判を押した壱路は信用に足る存在だと確信したのだ。
「・・・あんたは一体・・・何者なんだ?」
「改めて紹介しよう、作家は仮の姿でね・・・ぼくは魔王国【ハーログ】の元第一王位継承者、『ムマン』のフォル・ツヴァイ・エクリプスだ、よろしくね」
「そして、その護衛であり執事のサナ・カトラ・フルトゥスです、騙すような真似をしてすみません、どうかよろしくお願いします」
「・・・・・よろしく」
「こ、こちらこそよろしくですぅ〜」
「キューイ!」
これが壱路の魔大陸での最初の仲間であるフォルとサナとの本当の出会いだった。
次回!
魔大陸で出会った新たな仲間、フォルとサナと共に新たなスタートを切った壱路!
そして一行が立ち寄ったとある村で出会った人物は・・・元勇者?!
新たな出会いを見逃すな!
乞うご期待!




