第三十三話 魔大陸を歩く
「ん〜〜右に行くべきか、左に行くべきか・・・」
「マスター!私は右がいいと思います〜!」
「キュイキューイ」
「ヒルデも右がいいって言ってますよ」
「・・・さっきもこんなやり取りして道迷ったよな、お前ら」
「ギ、ギクッ!そ、そんな事ないですよ!マップは何故か開けないですけど」
「ここじゃあ、な・・・左に行くよ」
「そ、そんな〜!」
壱路達は今、魔王国【ハーログ】が支配する大陸、魔大陸にいた。この三ヶ月で壱路は様々な経験をした。魔物と戦い死にかけたり、道に迷ったり、色々災難もあったがそれを差し引いてもいい経験もした。そして今、魔大陸の森の中にいるのだが・・・。霧が濃く、ほとんど何も見えずマップも何故か機能しないのだ。完全に迷子だ。
「・・・飽きた、もういいや、こうなったら《天翔》で空飛んで・・・」
「ん〜、それがベストかも知れませんけど・・・霧が濃くてなにも・・・」
「んなもん払えばいい、《きりばらい》!」
そう言うと霧はみるみると晴れて姿を消した。
「さて、これでよし・・・後は」
「マ、ママママスター!う、後ろ!後ろ!」
「キュイキューイキュイキュイキューイ!」
「え、後ろ・・・」
後ろを見た壱路が見たもの、それは。
「ブルメェェェェェェェェェェェェェェ!」
「・・・羊?」
巨大な半人半羊の化け物だった。一瞬、半人半牛のミノタウルスかと思ったが鳴き声とどう見ても羊のツノと顏があったのでその考えはすぐに消えた。
しかも一頭ではなく、三頭だ。手には目の前の羊は巨大な剣を、そして後の二匹には棍棒が手に収まっていた。
「・・・なにを食えばあんなに大きくなるんだ?」
「って呑気に言ってる場合ですか!ヤバイですよ〜!」
「キューイ!」
「慌てんなよ、って危なっ!」
間一髪、剣を持つ羊頭(そう呼ぶ事にした)の攻撃を避ける。地面に亀裂が入る一撃だった。
「へぇ、強そうだな・・・それに、うまそうだ」
「って食うんですか?!あれを?!」
「決まっているだろ。ラム肉だぞ、ラム肉!羊ってたまに食いたくなるんだよなー」
「あ〜、確かにマスターは強くなりましたけど・・・最近ステータスろくに見てないじゃないですか!」
「だっていちいち見るの面倒だし、月に一回は確認してるから」
「はぁ・・・全くマスターったら、マスターらしいと言えばマスターらしいですけど」
羊頭のある程度連携された攻撃を避けながらそんな話をする壱路とフォウン。
「さて、避けるのも飽きたし、そろそろ行くか・・・」
そう言って壱路は腰の刀に手を添えた。
この壱路の刀、よく見ると以前と違う部分がある。全体が黒一色で統一しているのはいつもの事だが、装飾は見るとすっかり変わっていた。竜の上顎を型どられた鍔、柄頭には途切れた鎖がついており、柄にはヤマイヌの絵に代わり蝙蝠の翼を持った竜の絵が描かれていた。まるで一匹の竜を一本の刀に無理矢理収めたような刀だった。
「行くぜ・・・魔大陸初めての初陣だ。せいぜい楽しませてくれよ・・・」
勢いよく鞘から刀を抜き出す壱路。・・・その刃は鋭く、極限まで透き通った菫色、蒼にも寄らず、緋にも寄らぬ、混ざり色、そして全てを切り裂き喰らい尽くす、そんな嵐のような気を迸っていた。
その刀の銘は・・・・・。
「四霊器が一つ・・・『鱗蟲刀・オウリュウ』、推して参る」
『ガイシ』が生まれ変わった、新たな姿だった。
次回!
ガイシの新たな姿、その名はオウリュウ!
その力が炸裂する!
そして旅する壱路が辿り着いたのは?!
乞うご期待!
 




