第三十一話 機士の告白、姫の目覚め
壱路は機械騎士オズの話を聞く事にした。(ちなみにフォウンとヒルデも姿を現している。フォウンは人型になっている)
「アレハ、マダ、ミアムサマトフタゴノイモウト、ミンアサマガウマレタコロデシタ・・・ワタシハイカヅチニウタレ、サイキドウシタノデス・・・」
「(片言ですごく聞き取りにくい・・・)ちょっといいか?」
「ハイ、ドウゾ」
「《改造》」
「ぬぉ!あ、あれ?こ、これは!」
「ちょっと聞き取りにくいから声なめらかにしといたぞ。さぁ、続き、話して」
「は、はい!」
片言だと説明しにくいので声をなめらかにして話してもらった。オズの話は簡単に言うとこうだ。
オズは元々壊れており、ある時稲妻に撃たれ、偶然再起動したらしい。そして偶々この国の王が近くにいて、混乱して襲いかかったところ、三日三晩の決闘に発展して、負けて正気を取り戻して、そこから気に入られて双子の姫を守る護衛に取り立てられたようだ。
双子はすっかりオズを気に入り、幸せな日々が続いていた・・・・・はずだった。
ある日、国を裏切った一人の獣人が樹城に単身攻めてきたのだ。その裏切り者、相当な強さで、兵士を次から次へと薙ぎ倒し、双子姫に手を掛けようとした、そして姫を守ろうとしたオズはそこで動力炉とメインブレインを破壊され、暴走してしまったのだ。
そして、暴走が終わった直後、彼は見てしまった。双子の姫の片割れ、ミアムが妹のミンアを凶刃から庇い、倒れる姿を・・・。
そしてミアムは一命を取りとめたが、そこから9年間眠ったまま、ミンアはその時のトラウマからひきこもってしまった・・・(その時、体は動かなかったが意識はかすかにあったらしい)、そしてオズも完全に機能を停止してしまった・・・。
「という訳だったのです」
「なるほど、・・・で、なんで今になって起きたの?」
「・・・それは・・・私にも分かりません」
実は壱路のカンスト魔力は壱路から常に漏れ出しており、それがオズに流れ込んだ事が原因だが、そんな事、壱路もオズもフォウンも知る由も無い。
「まぁ、いいや、それより・・・問題はあの眠り姫だな、9年前から眠っているみたいだけど・・・当時何歳だったの?」
「確か4歳だったと」
「なるほど・・・」
「キューイ・・・」
「マスター・・・どうしますか?」
「・・・起こしてみるか」
「ほ、本当ですか?!」
「ただし、これは貸しだ。こちらも慈善者じゃないからな、いつかは返してもらう」
「はい、その時は何なりと!・・・あの」
「何?」
「貴方の名前をまだ聞いてませんでした」
「ん、別に名乗る必要は・・・」
「マスターの名前はイチロ・サガミです〜!こう見えて超優しいんですよ〜!」
「キューイキューイ!」
「おい・・・勝手に人の名前をバラすな!」
その後、フォウンがゲンコツを一発食らったのは言うまでも無い。
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一方、その頃、リュアはと言うと・・・。
「ひっく、ひっくひっく・・・ごめんなさい・・・」
「い、いいよ、もう済んだことだし、なんでここにこもっちゃったのかも分かったし、こっちこそごめんね」
「んーん、リュアねぇは悪くない、悪いのはあたし、逃げたり物投げたりしてごめんなさい・・・」
泣きだしてしまった少女を慰めていたら、いつの間にか懐かれてしまったリュア。それに『リュアねぇ』と呼ばれて少し戸惑う。
しかしそのおかげで彼女がひきこもる理由(機械騎士のオズの話とほぼ同じ)が分かったのは言うまでも無い。
「ミアムおねえちゃん、あれから目が覚めなくて、あたし、外が怖くなって・・・」
「ん〜、確かに外は怖い事もあるよ?けど、楽しい事もあるよ?」
「た、楽しい?」
「うん、だからさ・・・」
リュアはそっと手を差し伸べた。
「一緒に行ってあげるから!いこ!」
「・・・・うん!」
そしてリュアとミンアは共に部屋の外に出た。そこにはアサミケとヨルシマ、そしてアルシャークが待っていた。
「お、ミンア嬢、久しぶりだね」
「やぁ、ミンア様」
「アサミケ・・・ヨルシマ・・・おと様とおか様は・・・?」
「あぁ・・・今はちょっと仕事してるな、けど君が出てきたって知ったら全てほっぽりだして泣いて喜ぶと思うよ」
「・・・・・おねえちゃんは?」
「・・・ミアム様なら部屋で寝ているよ、・・・今もね。オズもそこにいる」
「・・・!オズも・・・ねぇ、アサミケ、おねえちゃんの所に連れてって!お願い!」
「わ、私からもお願いします!ミンアちゃんをお姉さんと会わせてやってください!」
「・・・・・ふっ、分かったよミンア嬢、あ、あとリュア!」
「え、今名前で・・・」
「良くやった、合格だよ」
「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!やったぁぁぁぁぁ!」
「わ、わわわわ・・・あれ?イチロさんは?」
「あぁ、あいつは城見学してくるって行って・・・」
「・・・あの時、彼は確信していた顔をしていたよ」
「へ?」
「多分、君が絶対出来るって信じた顔をしていたよ」
「・・・・・はい!」
「さぁ、行くよ!あんた達!」
アサミケの声で全員が動き出す。
「ねぇ、リュアねぇ、イチロさんって誰?」
「え?えっとイチロさんは私達と旅をしてた人で、それで・・・(以下略)」
「・・・リュアねえ、その人の事、好きなの?」
「へ?」
「だって、その人の事話す時のリュアねえ、お顔赤くなってるよ?」
「・・・あぁわわ〜、しょ、しょんな事・・・(す、好き!?私がイチロさんの事を・・・?だって最初に会った時、気になったのは、イチロさんの強さに憧れたからで・・・、でも旅をしていく中でクールだけど本当は優しいイチロさんが気になって・・・そうだ、私、ほっとけなかったんだ。イチロさんは周りを見ずにどんどん前に進んでいくから、隣に立って支えたいって思って・・・これが好きって事なのかな?・・・分かんないや)」
人生経験がまだ少ないリュアはその感情が恋であることに気づかないでいた。
(なんだ?なぜか今、イチロの奴を無茶苦茶殴りたい・・・!)
アルシャークの苛立ちに関してはさておき、一同は知らない、向かっているミアムの部屋に壱路がいることを。
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一方その頃、壱路は眠っているミアムを目覚めさせる為のキーワードを考えていた。
「《再起動》・・・は違うな、ただ目覚めさせるだけじゃ。目覚めた時、体に違和感がない様にしないと・・・(刺されたって聞いたしな、傷も残らない様にしないと・・・)」
「・・・・まだですか?」
「ま〜ま〜、待ちましょうよ〜、マスターは絶対約束は守りますよ!」
「キュキューイ」
「よし、これでいくか・・・」
少女の額にそっと手をかざす壱路。
「・・・《復活》」
一瞬手が淡く輝いた。
《復活》・・・壱路がたった今創り上げたキーワード。触れたもののみという条件をつけることであらゆるものを完全修復し、生物の場合はその意思も目覚めさせ、取り戻す。誰かを救うための魔法だった(完全に死んでるものはダメ)。
「う、う〜ん・・・」
うっすらと目を開け、姫は目を覚ました。
まだ眠たそうだが、その目には翠の光が輝いていた。そしてオズは颯爽と側に駆け寄る。
「ミ、ミアム様!」
「あれ・・・オズ・・・?なんか声違うけど・・・オズだ!」
「はい!オズです!あなたの騎士の、オズです!・・・よかった!」
「?・・・あれ、あなたはだあれ?」
「そうだな、基本、名乗らないのが主義だが・・・どうせすぐバラされるから、名乗るよ、イチロ・サガミだ」
「イ・・・・・チロ・・・?」
「ふふふ、そして私はフォウン・サガミ!こっちが龍のヒルデちゃんで〜す!」
「キューキューイ!」
「ミアム様、大丈夫ですか?長い時間お目覚めにならなかったのです、お体に異変は無いですか?」
「・・・・え?体はなんとも無いけど、私、眠ってたの?」
「ああ、9年振りに目覚めた感想は、如何かな?眠り姫さん?」
「・・・9年・・・?それって・・・」
その言葉を聞いて彼女の表情は何かを思い出したかの様にハッとなる。
「あれ?そうだ・・・私は・・・!ねぇオズ、ミンアは?ミンアは無事なの!?」
「ミンア様ですか?あなたが倒れた後、王様がすぐに来て、救出しましたから、無事です・・・」
「・・・そっか、ねぇ、ちょっと歩いていい?」
「御意のままに、姫」
「あぁ、一応歩く事が出来るくらいに回復はしてるから、大丈夫だ」
「・・・ありがとうございます」
そう言うとミアムは少しフラフラとした足取りで、オズとフォウンに支えられ歩き出した。
「ミンアの所に連れてって・・・お願い!」
「御意のままに、姫」
「わっかりまし・・・あら?」
「どうした?フォウン?」
「こっちに・・・5人近づいてきてますよ、あっ、もう扉の前に!」
「それは・・・・まさか!」
扉が開く、壱路が振り向くとそこにはリュア、アルシャーク、ヨルシマ、アサミケ、そしてミアムに似た少女の姿があった。
「あれ、来たのか」
「あー!イチロ!お前なんでこんな所に!」
「あ、あれは・・・オズ!?そんな、僕にも直せなかったのに・・・」
「それにミアム嬢!まさか目が覚めていたとはねぇ・・・」
それぞれが驚愕する中、リュアがイチロに近づきいていった。
「イ、イチロさん、わ、私・・・私・・!」
「見た所、合格したみたいだな」
「は・・・・・はい!」
「よく・・・頑張ったな」
リュアの頭に手を乗せ、そっと撫でる壱路。何故か、目の前にいるこの少女が、愛おしく見えたのだ。
「は、はわわ〜・・・」
リュアは顔を真っ赤にして俯いていたが、その表情は嬉しそうであった。
そしてふと見るとその近くに、鏡で映しとったかのような、二人の少女がいた。
「・・・・ミンア」
「おねえちゃん・・・」
金眼と翠眼の瞳を持つ、双子獣姫が再会した瞬間だった。
次回!
双子の感動の再会!
そして壱路、仲間たちとの別れ?!
旅立つ壱路がリュアと交わした約束とは?!
乞うご期待!




