第三十話 お転婆姫と暴走機士
壱路が機械騎士と対峙している頃、リュアは逃げ回るひきこもり娘を追っていた。
「ま、待って〜〜、ちょっと話を・・・」
「うっさい!だったらついてくるな!」
「そ、それはちょっと・・・無理だけど・・・いいから待ってよ~!」
(確かにこのままじゃあ追いつけない!な、何か方法は・・・)
そんな中、リュアは過去にしたアルシャークとの話を思い出していた。
『ねぇ、お兄ちゃん、獣化ってなーに〜?』
『あぁ、獣化か?あれはな、人間が使う、魔法みたいなもんだ。人間はMPで魔法を発動するが、獣人はHPを使い力を引き出す・・・』
『〜〜ん?』
『獣化は獣人によって一人ひとり違うが大まかに分けると二つに分類される。一つは武器や物に力を流し引き出す《外法》、これは俺が使っている奴だな。そしてもう一つは・・・自ら獣となり、身体を強化する《内法》だ。ちなみにこれを使えるのはごく僅かだ』
『どうすれば使えるの?』
『それはな・・・そうだな自分の野性を引き出して、それを体や物に同化させる感じかな』
『ふー〜ん・・・・』
(あの時はよくわからなかった、だけどあの子の速さが獣化で引き出しているものなら・・・こっちも獣化で対抗するしか・・・でもどうやればいいの?)
リュアは悩んでいた。そんな中部屋の中を走り回るのに飽きたのかひきこもり娘が足元に散らばるオモチャをリュアに投げつけてきた。
「これでも喰らえ!」
「き、きゃあ!」
すぐさま伏せてそれらを避けようとするが、オモチャはひっきりなしに投げられてくる。
「くたばれくたばれくたばれくたばれ!」
「そ、そんな口悪いこと言っちゃ駄目だよ!」
「うっさい!」
(ど、どうしよう!どうしよう!なんとかしないと・・・)
『いいか、焦るんじゃないぞ、焦ったらどんな簡単な事も失敗する』
「え?」
『けど、下手に頭を使おうとするな、いざとなったらなりふり構わずいけ』
今リュアの頭の中に響き、彼女を奮い立たせた言葉、それは壱路の言葉だった。
『僕は君ならできると信じている、だから頑張れ』
「そうだ・・・私、決めたんだ・・・イチロさんの隣に立って・・・支えられるようになりたいって・・・!」
その時、リュアの目には今までにない強い光が宿っていた。
(避けてたら、何もできない!ここは・・・あの子に全力でぶつかるんだ!)
「えぇぇぇぇぇい!」
リュアはひきこもり娘に向かって全速力で走った。
「ふん、向かってきた所で・・・え?」
ひきこもり娘は逃げようとするが、その時すでに遅く、リュアは彼女の目前に立っていた。自らの意識と体を獣と化す獣化の一つ、《内法》を発現させたのだ。
「捕まえました!」
「え、ちょっと・・・き、きゃ!」
勢い余って突っ込み二人とも倒れてしまったが。
「こ、これが、獣化・・・これを自由に使えるようになれば・・・」
「・・・う〜〜ん」
「ってわ〜〜!ごめんね!大丈夫?」
鬼ごっこを制したのはリュアだった。
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一方、その頃壱路は・・・少し追い込まれいた。
「つ、ててててて・・・」
この暴走機械騎士ーーー(長いのでここは暴走機士ということにする)もとい暴走機士、動きに無駄がなく、動きも素早く、繰り出される攻撃をさばくのに苦戦した。そして今、繰り出された上段から振り下ろされる一撃をなんとか避けたが、さすがに一筋縄でいく相手ではない。そして爛々と光る暴走機士の赤い瞳は危険な香りが漂う。
「ハイジョハイジョハイジョ!」
「意識は混濁しているけど、戦い方はプロレベルって所か・・・・・」
「マスターー!まずいですよ、このままじゃあ!」
「これは甘いこと言ってられないな、面倒だが・・・・・一気に行く、一旦壊すよ」
壱路は『ガイシ』を構え、そして紡ぐ。新たに作られた、暴走機士を倒すためのキーワードを。
「《韋駄天》、《倶利伽羅・煉獄》」
速さを妨げる全ての要素を支配し排除、そして反射神経と身体的スピードを極限まで上げる《韋駄天》、そして刃に蒼炎を宿し全てを燃え散らす《倶利伽羅・煉獄》を発動する壱路。
「そして・・・《嘆きの川》」
その言の葉を紡いだ時、異変は起きた。暴走機士を含めた周辺に突如雪が降り、巨大な氷塊が全てを覆い凍りついていく。そして暴走機士の動きがだんだん鈍くなっていった。
「ギ、ギギギギギギ、ヒキョ・・ウ・ダ!」
「卑怯とかそういう事は後で聞くからさ、今は一旦眠っとけ」
「・・・ネ、ネムル・・・?」
そして壱路は一気に駆け出した。
「《獅子刹断》」
その言葉を紡いだその時、『ガイシ』に淡い紫の光がかすむ。そして淡い光が刀を導くように動き出し、壱路もそれに従い、斬撃を四つ繰り出した。次の瞬間、暴走機士の四肢は斬撃が走った部分から溶解したように溶け出し、暴走機士はまるで糸の切れた人形のように動かなくなった。
《獅子刹断》・・・これは壱路が編み出した新たな技、〈法則開放〉により動きを記憶し、まるでゲームの必殺技のシステムアシストエフェクトのように動きを繰り出す。簡単に言えば必殺技コマンドを現実に作ったような物だ。ちなみにこの《獅子刹断》は瞬時に四肢を切り裂く為、四肢を獅子にかけた四連撃の技である。ちなみにこの様な技を壱路は《魔技》と名付けた。単純である。
「《解除》・・・ふぅ・・・、結果はまずまずだな」
「そうですね〜、しかしマスターも考えましたね〜、あの《獅子刹断》、相手が機械だからこそのチョイスですね〜!」
「あぁ・・・、さて後はこいつの機能を正常にして直しておくか」
「キューイ」
「そうですね〜」
「よし、・・・《解析》、《正常化》、《復元》、《清浄》、《改造》」
キーワードを紡ぎ、修理・・・いや改造を進める壱路。ちなみに文字通り改造する《改造》と見たものを正確に読み取る《解析》、先ほど使った魔法を解除、無効化する《解除》はよく使っているキーワードである。
「あれ?マスター、《解析》と《改造》以外は初めて聞くキーワードですけど・・・・・」
「たった今創った。必要だったし、問題なく出来たからな」
「マジですか!」
そんな話をしながら、着々と改造が整っていく。
「よし、大体修理完了だ」
「ってか、修理っていうより改造の方が正しいんじゃ・・・」
「脳とか精神とか司る部分は手付けてないよ?他人のだし、ちょこっと出力とか上げただけだ」
「いや、マスターのちょこっとは一般のちょこっとより遥かにやり過ぎですよ!」
「まあいいだろ別に・・・さて《再起動》!」
そう言うと機械騎士の瞳は先ほどの狂気に満ちた赤でなく、清らかな青に光っていた。
「コ・・・コ・・・ハ?ワタシハナゼココニイル?」
「よう、ようやくマトモに話ができるな、機械騎士」
「・・・アナタハ?」
「お前がいきなり攻撃仕掛けてきたもんだから、一旦機能停止させて、修理した者だ」
「・・・ソウダ、ワタシハアノトキボウソウシテ・・・ソシテネムッテイタ・・・」
「・・・なぁ、あの子に見覚えある?」
壱路は眠っている少女を指をさしてそう言った。
「エ・・・・・!・・・ミアムサマ!」
「ミアム・・・そっか、この子ミアムっていうのか」
「アァ!アノトキ、ワタシハ・・・ワタシハ!ナゼマモレナカッタンダ!」
「・・・なあ、良かったら話してくれないか?何があったのか?あ、あとお前の名前教えてくれよ」
「ナ、ナマエ・・・ナハ『オズ』ダ」
「オーケー、オズ、でその子は・・・一体誰なの?なんかお前にとって大事な人だって事は確かだけど」
「・・・」
「場合によっては何とかなるかもよ?」
「・・・エ?」
「だから、話してみろ、な?」
「・・・カノジョハ、ワガアルジデアリ、オウゾクノヒトリ、ミアム・レオズサマデス」
「「(な、なんだとぉぉぉぉ!)」」
内心で驚いていた壱路とフォウンだった。
次回!
機械騎士、オズの過去に何があったのか!?
それを聞いた壱路はどうするのか?!
そして眠りし姫は遂に目覚める!
乞うご期待!




