第二十八話 弟子入り、そして樹城訪問
「あー、つまり、こういう事か?そこの白っ子をあたし達に鍛えて欲しいって事なのかい、アル坊?」
「その通りでございます、師匠!自分じゃあこの子に厳しくできないのです。可愛いくってしょうがないんですよ、こいつが。・・・とても心を鬼にして教え込む事など出来ません!」
「・・・確かにアルは人に厳しくするの苦手だったよね〜〜」
「・・・・・・・・・ん〜〜」
アルシャークの頼みに難色を示すヨルシマとアサミケ姉弟を余所に壱路達はリュアと小声で話をしていた。
「リュ〜アさ〜ん、どうしますか?」
「へ?な、何を?」
「弟子入り、したいんですか?」
「え、えっ〜〜と〜〜・・・その」
口ごもるリュア、それに対して壱路はただ黙っていた。
「・・・・・・・・」
「マスター、黙ってないでなんか気の利いた一言を」
フォウンに焚きつけられ仕方なく口を開けることにした壱路。そっとリュアに語りかける。
「んー、リュアちゃん」
「は、はい!」
「どうするかはリュアちゃんが決めればいい。けど君が本当に強くなりたいならはっきり言った方がいい、力がない所為で、大切なものをなくして、一生後悔する前に、絶望する前に」
ちなみに最後の言葉は壱路の力を求める姿勢の原点であるが、その事をリュアはまだ知らない。
「・・・マスター、それ・・・」
「・・・・・分かりました!私、アサミケさんとヨルシマさんに自分から頼みます!弟子にしてくださいって!」
壱路の言葉で何処か吹っ切れたのかリュアははつらつとした笑顔でそう答えた。
「よし、行ってこい!」
「はい!」
そう言うとリュアはアサミケ達の元に向かった。そしてその場で座り込み頭を下げ頼んだ。
「アサミケさん、ヨルシマさん、お願いします!私を弟子にしてください!私、強くなりたいんです!」
「・・・リュア」
「ん〜〜、どうしようか・・・・・」
悩むアサミケ、そこにヨルシマが耳打ちする。
「姉さん、姉さん、良いんじゃない?あの子、筋良さそうだし」
「けどな〜〜・・・・・なんかね〜」
「じゃあさ、こういう事にすれば?」
ヨルシマの提案にだんだんアサミケの顔が変わってきた。何やら悪巧みしているような悪どい顔に、だ。
「え?ん・・・おぉ!ヨルシマ、それ良いな!おい、白っ子!」
「し・・・へ?わ、私の事ですか?」
「他に誰がいんの?あんたの弟子入りの件だが・・・」
息をのむアルシャークとリュア、そしてそれを静かに見守る壱路とフォウン。
「・・・今日はもう疲れたから、明日決めることにする」
「「って、なんでぇぇぇぇぇ!」」
フォウンとアルシャークが揃えて絶叫した。無理もない、突然明日に選択が先延ばしにされたのだから。
「うるさいな、別にいいだろ」
「いや、師匠!そりゃないですよ」
「じゃかしいぞ、馬鹿弟子!まぁ、明日になれば分かるさ、今日はもう寝るぞ、じゃあな〜」
そう言って、アサミケはさっさと部屋を出て二階に行ってしまった。取り残されたアルシャーク達は。
「大丈夫だよ、アル、リュアちゃん、姉さん、ああ見えてリュアちゃんのこと気に入ったみたいだから」
「え、じゃあ、なんで明日って・・・」
「・・・・・本でよくある展開だな」
「は?イチロ、どういうことだ?」
「本や物語で弟子入りの話がある時さ、決まって試験とか試練とか何かにかこつけて厄介ごとを任されるというパターンがある。それと同じだろ?ヨルシマさん?」
「・・・何のことかな?」
「僕、耳が良いからさ、さっき小声で話してた内容を聞いていたよ」
実は壱路、近頃〈法則開放〉で身体の機能を一部分変形強化する魔法を編み出していたのだ。それにより聴力を強化し、話を盗み聞きしたのだ。
「へ〜〜、なかなかやるね」
「でも、驚いたな、その明日行く場所、聞いた時軽くビビったよ」
「イ、イチロさん、そこって・・・」
「一体・・・」
「どこなんですか〜!?」
壱路は気だるそうにこう言った。
「樹城【ユクシドラル】だって言ってた」
「「「・・・・・・・えええええええええ!!!」」」
三人の重なった驚きの叫びが夜の空に響いたのは言うまでもない。
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次の日、樹城【ユクシドラル】前、神社の鳥居のような立派な正門・・・・・・ではなく城の真裏にある小さな人ひとり入れそうな抜け穴(普段は穴は塞がれ隠されている)、壱路達はその中でほふく前進をしながら進んでいた。
ちなみに順番は前から、アサミケ、アルシャーク、ヨルシマ、イチロ(ブリュンヒルデも一緒、ちなみに今回は静かにしている)、リュア、フォウンである
「ししょお~~、なんで正門から堂々とじゃなくて、こんな狭くて汚い場所からコソコソと・・・・・てかここで何を・・・」
「うるさい、黙れ馬鹿弟子」
ゲシッ!
アルシャークの頭にアサミケの足がクリーンヒットした。
「い、いてぇぇぇぇぇぇ!」
「姉さん〜〜、アル〜〜、早く進んでよ〜〜、もう詰まっちゃってるよ〜〜」
「とっとと進めよ、シスコン変態」
「誰がシスコン変態だぁぁぁぁぁ!」
「アルシャークさ〜〜ん、うるさいです、声響くから、耳キーンてするからやめてください〜」
「お、お兄ちゃん、ちょっと静かにして、ね?」
「はい」
「即答した?!あのアルが?!人は妹を持つとこんなにも変わるものなのか?」
「そんなに昔と違うんですか?アルシャークさんのこと〜」
「あたし達といた頃は、とんだイタズラ坊主だったからな」
「ア、アサミケ師匠・・・・・」
「そして今みたいなシスコンになってしまったと、気の毒に」
「なんだとこのヤロ〜〜!」
「お、ようやく出口が見えてきたな」
「え!」
「ようやくか〜〜」
「やっとか」
「ふ〜〜、疲れました〜〜」
「は、はい・・・・・」
ようやく狭苦しい穴から抜け出し、身体を伸ばせた壱路達。
その抜けた場所は・・・。
「ここって・・・」
「子供部屋・・・か?」
「ひ、広いです・・・」
「なんでこんな所に〜?」
そこは子供部屋だった。床やベッドにはオモチャというオモチャやぬいぐるみ、毛布や座布団が散らばっている。まるでオモチャ箱をひっくり返した様な惨状だった。
「さ〜〜て、白っ子、ここであんたの弟子入り試験をやるよ」
「へ?こ、ここで?」
「あぁ!」
「なんだ?問題児のカウンセリングでもやる気か?」
「おぉ、察しがいいね〜〜、イチロくん」
「まぁ、そんな感じだな、要はここにいるガキ一匹を見つけて外に連れ出してやれば、あんたの勝ちだ、無事弟子入り許可してやる」
「え?ほ、本当ですか?」
「ただし、相手は手強いよ、9年も引きこもっているしね、今まで散々手を焼かせたことか・・・・油断しない様にね〜〜、リュアちゃん」
「は、はい!ヨルシマさん!」
「よーし、じゃあ、あたし達は部屋の前で待っているから、頑張れよ」
「頑張れよーーーーー!!!リュア〜〜〜〜!俺が付いている!」
「お前も出ろ、馬鹿弟子!」
「フギャ!」
「頑張ってね。リュアちゃん〜〜」
「が〜ん〜ば〜れ〜、リュ〜ア〜ちゃ〜〜ん〜〜!」
それぞれが励ましの言葉をリュアに掛け、部屋を出ていく中、最後に壱路が近づいてきた。
そして唐突にリュアの耳元に顔を近づけたのだ!
「イ、イチロさん?!」
「シッ!静かにしろ」
「は、はい!」
「いいか、焦るんじゃないぞ、焦ったらどんな簡単な事も失敗する」
「はい・・・」
「けど、下手に頭を使おうとするな、いざとなったらなりふり構わずいけ」
「は、はい?」
「僕は君ならできると信じている、だから頑張れ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!はい!」
その言葉で顔が一気に赤くなったリュア、だが同時にその眼は決意に満ちていた。
「じゃ、そういう事で」
「はい、イチロさん!ありがとうございます!」
そして壱路も部屋の外に出た。
「・・・・・さて、あいつが終わるまで、城見学でも行くか」
「へ、マス・・・・・じゃなかった兄さん!待ってくださいよ〜!」
「おや、あの子を待たないのか?」
「おい、イチロ!お前リュアが心配じゃ・・・」
「うっさいな、シスコン」
「このヤロ〜〜!」
「落ち着いて、アル、落ち着け、落ち着け」
アルシャーク、アサミケ、ヨルシマを置いてサクサクと進む壱路。そこにフォウンが追いつく。
「マスター、いいんですか?リュアちゃんの事・・・」
「あいつなら大丈夫、絶対できる」
「な、なんでそんな・・・」
「・・・あいつは強いからな」
「へ?リュアちゃんがですか?」
「ん、あいつは良くも悪くも純粋だ。だけどだからここぞって時は芯が強い、折れない、僕みたいなまがい物じゃないんだよ」
「・・・・・マスター?」
「キューイ〜〜」
「大丈夫だ、ヒルデ」
透明化しているブリュンヒルデを撫でながら壱路は言った。
「あいつは、絶対大丈夫だ、だから信じながら僕らは待とう、戻ったら笑顔で迎えてやればいいんだ」
そう言って壱路は少し頬を緩めていた。
次回!
リュアの前に現れたひきこもりはお姫様?!
そして樹城を見て回る壱路は謎の眠り姫と遭遇?!
二人の姫の関係は?急展開を見逃すな!
乞うご期待!




