第二十七話 暴姉優弟の猫師匠
久しぶりに更新します。
「それにしても結構賑わってんな」
「確かにそうですね〜」
獣人の姿をした壱路とフォウンは辺りを見回してそう言った。ちなみにブリュンヒルデは壱路の魔法で透明にして、壱路の首にマフラーのように巻きついて大人しくしていた。ちなみに動かないのは、壱路の魔法によって眠っているからであるのは秘密である。
辺りは様々な屋台があり、人がごった返している。
「そうだろ〜?この国は毎月一回はこんな風に祭りがあるんだ。いや〜、相変わらず賑わってんな」
「へ〜〜、すごいです!」
「すいません、その串肉ください、10本くらい」
「あ、マスター!勝手に行っちゃダメですよ!あと私の分も買ってください!」
「って聞けよぉぉぉぉ!」
「はいよ!あんちゃん、串肉お待ち!」
屋台で買って串肉を口にしながら、壱路はこう思っていた。
(やっぱり祭りはいいな、久しぶりだ)
小さい頃、両親といった縁日で祭りが大好きになったことを思い出していた壱路。
「それにしてもこの串肉、うまいな」
だがすぐに、買った串肉の味に夢中になった。なんの肉かわからないが鶏肉に味は似ている。そしてついているタレがさらに食欲を駆り立てさせる。味の感じが焼き鳥に近かったので壱路は気に入ったみたいだ。
「ハグッ・・・ん〜〜、うまっ」
「マスター・・・・・私にも」
「・・・ほれ」
「わーい!マスター、太っ腹〜〜!ありがとうございます!」
「・・・・・むぅぅ」
「・・・・・・・リュアちゃんも食う?」
「へ?い、いいんですか?」
「別に、また買えばいい」
「あ、ありがとうございます・・・あむっ」
「おい、イチロ、俺にも」
「お前は自分で買ってこい」
「なんでぇぇぇぇぇ!?」
「あ、マスター!あそこにも美味しそうな屋台が!」
「何?行くぞ!」
「あ!ま、待ってください、イチロさん」
「待って!俺を置いていかないでくれぇぇぇぇぇ〜!」
そして、あちらこちら、屋台や露店を見て回り、買ったり食ったりしながら祭りを満喫した壱路達。
「ふ〜〜、満足した」
「そうですね〜!」
「は、はい!」
「なんでだろう、なんでこんなに寂しいんだろう・・・・・」
「さて、今日の宿を取りに行くか」
「あぁ、多分今日祭りだから、宿はみんな満員だと思うぜ」
「・・・・・・・・・・はぁ?!」
「いや・・・そんな顔で睨まないでくれよ」
「宿が満員だと?野宿しろとでも言うのか?まっ平ごめんだぞ、そんなこと!」
「イ、イチロさん・・・!」
「マスター、ちょっと落ち着きましょうよ」
「だ、大丈夫だよ!泊まるとこの当てはあるから!」
「・・・当て?」
「あぁ、その為にイチロ・・・・・ちょっと頼みが・・・」
「ん、面倒な事はごめんだぞ」
「いや、すぐに済むから!その〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・金貸してくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?!」
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数十分後、アルシャークに連れられ、壱路達はある古木の家の前にいた。ずいぶんと年季が入っていて今にも朽ち果ててしまいそうな古木だ。
「・・・・・・・・・・着いたぜ」
「お兄ちゃん・・・?なんか顔色悪いよ?」
「いやぁ〜〜、正直気が進まないんだよな」
「え〜〜?なんでなんですか〜〜?」
「・・・ここ俺の師匠の家なんだよ」
「・・・師匠?」
「まだリュアと会う前、ここで修行していたんだ」
「あ!そういえばお兄ちゃんがうちに来たの11歳の時だもんね、私は生まれたばっかりだったし」
「あぁ・・・・・そうだな、色々ヤンチャしてたから・・・怒られるかなぁ、大丈夫かなぁ?」
「でお前の師匠ってどんな奴なの?」
「・・・俺の師匠は2人いるんだ、片方は優しいけど、もう一方は・・・怖い」
「ふ〜〜ん、じゃ入るか」
「って、おいおいおいおいおい!まて、待ってくれ!頼むから!まだ心の準備ができてないんだ!」
「・・・・・お邪魔しまーす」
壱路は有無も言わさずドアに手をかけた。
「聞けぇぇぇぇぇ!そしてやめてぇぇぇ!」
キィ、とドアが開いた。どうやら鍵はかかってないみたいだ。
なかに入るが誰もいなかった。部屋は酒瓶や食べかす、ゴミなどで散らかり放題、机の上には訳のわからない複雑な機械がゴチャゴチャと置いてある。
「あれ?誰もいないみたいですよ〜」
「ほ、本当です。誰もいないみたいだよ、お兄ちゃん」
「・・・・・・・・・ぁぁぁぁぁご、ごめんなさいごめんなさい、許してください・・」
「よっぽどトラウマみたいですね、でも散らかり過ぎじゃないですか?ここ」
「あぁ、けどなんか机の上の物は面白そうだな」
「・・・・・・師匠は魔道具を作るのが本業なんだよ、研究もしている・・・」
「ふ〜〜ん、てか留守なら鍵くらい閉めとくべきだと思うんですけどね〜、ちょっと不用心じゃないですか?」
「・・・・・・いや、師匠達はここにいる」
「け、けど姿が・・・・・」
「多分地下に作った実験室兼鍛錬場にいるんだ。証拠に表のドアの鍵が開いていた、師匠達は家にいる時はドアを開けっ放しにする癖があるんだ」
言われてみれば、床に収納庫のような扉があった、これが地下に続く道なのだろう。
「・・・・・・はぁ」
「でどうすんの?今からその地下にいって、挨拶してくる?」
「・・・・行くしかないかぁ・・・」
そう言ってアルシャークは床の扉に向かい歩いて行った。
そして次の瞬間、彼に不幸が襲う。
ドッカーーーーーーーン!!!
突如、床の扉が弾け飛び、それが近くにいたアルシャークの顔面に直撃した。
「ふごふぅ!」
「ア、アルシャークさあぁぁぁぁん!」
「お、お兄ちゃん!大丈夫!?」
「・・・・・死んだか」
「って誰が死ぬかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながらなんとか復活したアルシャーク。どうやら無事みたいだ。
「うるさいなぁ~~~」
先程、爆発音が聞こえた扉がはじけた穴から声が聞こえた。少年のような声だ。
「まったく誰なの〜〜?ひとん家に勝手に入ってきてさ〜〜」
そして穴から出てきたのは、猫耳と猫の尻尾を持った獣人だった。白と黒の縦じまの髪に白衣を纏っていた。
「ヨ、ヨル師匠〜〜!」
「ん、君どっかで・・・・・・もしかして、アル?」
「はいっ!アルシャークです!お久しぶりです!」
「いや〜〜、大きくなったね〜〜」
「お陰様で図体だけはでかくなりました!」
「おい、アルシャーク、この人がお前の師匠?」
「ん?そういえばアル、そこの子達は?」
「はいっ!、この子は俺の妹、可憐な白薔薇、リュア・レイジューンです!」
「リュ、リュア・レイジューンです!」
「よろしく〜〜、でそっちの黒い二人は?兄妹?」
「・・・・・・・イチロ・サガミ」
「そしてその妹、フォウン・サガミで〜〜す!よろしくです。師匠さん!」
色々説明するのが面倒なので兄妹で通す事にした壱路とフォウン。
「ははは、あぁ、紹介が遅れましたね、
僕はヨルシマ・ラーベント。そこのアルシャークの師匠してました〜〜」
「そこは知ってる、・・・アルシャーク、さっき言ってた、優しい方の師匠って、あいつのことか?」
「あぁ・・・、そういえば、ヨル師匠、アサ師匠は?・・・出掛けですか?」
「うん、ちょっと買い出しに・・・、そういえば、君が出てった時、結構怒ってたからな〜〜、一発殴られるかもよ?」
「う、うわあぁぁぁぁぁ!」
「そんなに怖いのか?」
「まぁ、口より先に手が出ちゃう人だからね〜〜」
「それよりあんた、そこの机にある機械なんだが・・・・・」
「おぉ!君、魔道具に興味が?!それはね、画期的な発明でね!(以下略)」
「(な、長い!話が長過ぎます〜〜!)」
「(どうやらは相当重症な発明バカのようだな、なんか話が合いそうだ)」
話を聞きながらひそかに念話で会話する壱路とフォウン。
「ヨル師匠、リュア!俺は机の下に隠れてるから!」
「お、お兄ちゃん、いくら怖い人でも謝って、ちゃんと話せば分かってくれるよ」
「・・・・・リュア・・・そうだな、ちゃんと謝るよ」
「うん!」
「この発明品は入れたものを冷やせる箱でね、僕は《ヒエヒエ箱》と名づけたんだよ」
「冷蔵庫みたいなもんか」
「れいぞーこ?是非教えてくれ!」
「あぁ、いいぞ」
「・・・あ、アルシャークさん、一人こっちに来ますよ」
「・・・な!師匠か!や、やっぱ無理かも」
机の中に再び隠れようとするアルシャーク、一方壱路とヨルシマは飛行機について話していた。
「時にイチロ君、そのヒコーキとやらはどうやって空を飛ぶんだい?」
「エンジンを使って推進力をつけて飛ぶんだ」
「えんじん?すいしんりょく?面白い!色々教えてくれ!」
「・・・す、すげえ、イチロの奴、ヨル師匠の常人じゃ気絶する地獄のマシンガントークを屁ともしないのか?」
「基本的マスタ・・・兄さんは人と話す時は受け身ですからね〜」
「そっか・・・」
「あ、扉の前にいますよ、怖い師匠さん」
「か、隠れる!あの人に勝てるとしたら、それは神か悪魔しかいない!ほとぼりが冷めてから呼んでくれ!」
「あ、お兄ちゃん・・・」
そしてアルシャークが隠れようとした次の瞬間。
ドギャパァーーーン!!!
入り口のドアが吹き飛び、アルシャークを直撃した。
「ふぎゃあ〜〜!」
「お、お兄ちゃん!」
「わ〜〜、またしても?!」
「あ、姉さん、帰ってきたのか」
「・・・ここでは扉を吹き飛ばすのが流行っているのか?」
「いや!あり得ないですよ〜!そんなの!」
「おやおや・・・どこの誰かと思ったら・・・何年も前に家出した馬鹿弟子じゃないか」
「・・・あ・・あざじじょう(・・・ア・・アサ師匠)」
声がした方を見ると吹き飛ばされた扉の跡の前に誰か立っていた、そこに居たのは三毛猫のような紋様が刻まれた髪と耳と尻尾を持ったヨルシマと同じ白衣を身に纏った女性だった。
「ん?なんだい、ヨル、このガキどもは?」
「ああ、そこの白い娘はアルの妹?のリュア・レイジューンちゃんで、今僕の前に座っているのがイチロ・サガミ君、でその妹のフォウン・サガミちゃん、アルの仲間らしいよ?」
「ふーん・・・あのアル坊がねぇ・・・」
「なかでもイチロ君とは気が合ってね、新たな研究テーマを沢山得ることができたよ!」
「ほうほう、それは後で聞くとして、まだ名乗ってなかったな、あたしはアサミケ・ラーベント、天才科学者だ!覚えておきな、チビ共!」
「「「・・・・・はぁ」」」
「ん?なんだ?その反応は?わたしのこと知らないのか?自分で言うのもなんだか結構有名なんだぞ?」
「す、すいません、私、あまりそういうの詳しくなくて・・・」
「人にはまったく興味がない」
「以下同文です〜!」
「ア、アサミケ師匠!突然出て行って突然帰ってくるのもなんですけど俺たち、色々事情があって・・・・」
アルシャークは手をついて頼む。しかしアサミケは怒りを抑えない。
「嗚呼?馬鹿弟子の分際で生意気を言うな!とりあえず千発殴らせろ」
「姉さん、それ、やり過ぎ。せめて百発にまけてあげて」
「それでも死にますよ!百発なんて!勘弁してください!」
「問答無用だ!」
「うわあぁぁぁぁぁ!イ、イチロ!あれ出してくれ〜〜!」
「あぁ、あれ?そうかそれで・・・」
「か〜〜く〜〜ご〜〜し〜〜ろ〜〜!」
「ぁぁぁぁぁ!」
「お、お兄ちゃん!」
「アルシャークさぁぁぁぁん!」
アサミケの鉄拳がアルシャークに振り下ろされようとしたその時、イチロは魔法袋に手を突っ込み、何かを取り出した。
「アサミケさん、これ、アルシャークが買っていた土産です」
「みやげ〜〜?なんだっ・・・・・そ、それは?!」
「そうです!師匠達の大好物、超高級マタタビ酒『ねずごろし』です!」
「おお〜、気がきくじゃないかい!おうおう、仕方ない許してやろう!」
「解決した?!」
急展開に驚くフォウン。
「助かった・・・」
「お兄ちゃん、この為にイチロさんにお金を借りたんですか・・・」
「だってイチロ、あまり金使わないじゃん!使わずに貯まっていく一方だったろう!だから・・・」
「だけど後々返してもらうぞ、利子つけて」
「か、勘弁してくれ〜〜!」
「ふふふふ、面白いね〜〜、アルの仲間は」
「そうだね〜〜、ヨル」
「・・・・・あの〜〜、師匠、あとひとつお願いが・・・」
恐る恐る、慎重に話しかけるアルシャーク。
「ん、なんだ?」
「なんですか?」
声がハモった、そこは姉弟、よく似ているようだ。
「その・・・・・リュアを師匠達の弟子にしてもらえないでしょうか?」
「「・・・・・へ?」」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・ええええぇぇぇぇぇ!?」」」
アサミケとヨルシマ以外は驚きの声をあげたのは言うまでもない。
次回!
リュアの弟子入りはどうなるのか?
そして壱路達は何故か樹城【ユクシドラル】に行く事に?!
乞うご期待!




