第二十五話 壱路と勇者と赫狼のその後
壱路はその後すぐに二度寝をした。まだ夜だったのでもう少し寝たかったからだ。ついでにリュアは横にして寝かせておいた、アルシャークに色々騒ぐのが面倒だったからだ。
しかし朝、フォウンとアルシャークとリュアに色々質問攻めにされたのは言うまでもない。
彼らの言葉を流しつつ、壱路はレギンレイヴの遺体に向かった。遺体が弄ばれないよう火葬する為だ。誇り高い母竜の魂が傷つかないように、骨ごと燃えるようにした。空から見守ってくれと祈るが多分届いていると信じる。
「キュ〜〜〜イ〜・・・・・」
「・・・・・ヒルデちゃん・・・大丈夫?」
「大丈夫ですよ〜、お母さん、きっと空で見守ってますよ〜、それに私達が居ますから!」
「そういや、イチロ、あの勇者を名乗る三人の事だけどよ」
「あぁ、あの三バカの事か?」
「さ、三バカ・・・・あぁ、その三バカだよ!お前あいつらをどうしたんだ?」
「移動させた」
「移動させた?どこに?」
「人帝国の首都の真上、上空5000メートルくらい」
「ごせん・・・めーとる?」
「この山より上の上空。そこから地面に接触するまで落ちていく地獄の空の旅さ。運悪ければ死んでるかもしれないし、運良ければ生きてるかもしれない、死んだほうがマシな状況になっているかも知んない、まぁ、どちらにしてもろくな目にはあってないだろ」
「お〜、怖ぇぇぇぇぇ!」
「マスター、ついに瞬間移動も・・・じゃあここから一気に獣共和国に・・・」
「無理だ、これは行ったことないとこには移動できない、これは感覚で分かるから間違えない」
「そうですか〜、残念です〜」
残念そうなフォウン、そして壱路は振り返らずに歩き出した。他の一同もそれに続く。
「さて、レギンを見送った事だし行こうか」
「おい、いきなりだな!別れの言葉くらいは・・・・・」
「いつまでも立ち止まってたら、あのオカン竜、あの世からやかましく喋りまくりそうだからな、今は歩くよ、お前たちとな」
「ふふっ、それもそうですね、行きましょう!お兄ちゃん、イチロさん!」
「そうだな、行くか!」
「キューイキューイキュイ!」
「ははははっ!ヒルデちゃんも行こう!って言ってますよ〜!」
「あぁ・・・・行くか!」
そして彼らは二カ月後、獣共和国【レオス】に辿り着く。そこで起こる新たな出逢いと別れが待ち受けている事を壱路達はまだ知らない。
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一方、壱路によって地獄の空の旅をする事になった勇者達。運が良かったのか悪かったのか、その一人であるヤマト・ケンザキーーーーーもとい剣崎大和は生死の狭間をさまよっていた。壱路に切断された左足と右腕からの出血が酷すぎた上に落下の衝撃もあり蜘蛛の糸のように予断は許されない状況のようだ。
人帝国の帝城【ポラリス】の一室にあるベッドに横たわる大和の隣には、シズク・アサヤケーーーーーもとい朝宅雫と将軍であるライ・ココラトが見守っていた。彼らも落下の衝撃で大なり小なり怪我を負ったが、大和ほどの大怪我ではない。それでも半年は安静にしておかねばならないが。
「・・・・・ケンザキ様」
「大和・・・」
その痛々しい姿を見て雫は唇を噛み締めていた。自分の非力さに、無力さに。
(あの男・・・黒コートの男が大和を・・・絶対に許さない!)
雫の心には壱路への敵対心が渦巻いていた。
場面変わって、帝城の一室、二つの人影が何やら話をしている。
「あの勇者の一人はもう使い物にならないのか?」
「はい普通の方法ではもう再起不可能だと」
一方は立派な髭を生やした中年、一方は怪しげな緑の服を着た男性だ。
「ならば、普通でない方法でいい、使えるようにしろ」
「ふふっ、分かりました、さぁ久しぶりに色々弄れそうですねーー!」
「やっとの事呼び出したが、一人は国を去り、一人は今や虫の息か・・・、あと例の計画はどうなっている?」
「あぁ、分かってますよ、そっちについては部下たちが動いてくれてますから」
「ふむ、そうでなくては、その為に、お主と契約したのだ」
「はい・・・全ては我らが悲願、魔族に滅びをもたらす為に・・・」
「頼むぞ、ブダノスト幹部長、サーバン・レゲネイド」
「はい、人帝国帝王、アドルフ・リ・イスカオテ殿?」
そう言って立ち去るサーバンはこっそりとこう言った。
「せいぜい、利用させてもらいますよ?愚帝さん?我らの本当の悲願の為にね」
世界を狂わそうとする影たちが動き出した瞬間だった。
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場面が変わって、魔王国【ハーログ】の王城【ニブルヘイム】。その一室にある会議室で魔王と魔王騎士団が集まる議会が行われようとしていた。そしてそこには壱路が初めて出会った魔族、序列第三位、『ヴォルフス』のウォーラン・イラガ・ブレードの姿もあった。
(あの男・・・イチロはもう【レオス】にたどり着いた頃か?・・・こちらにも来るとは言っていたが、その時は是非ともあの時の恩を返したい、あと陛下と猊下にも会わせたいものだ)
壱路の事を思い返しながらふと微笑んでいたウォーラン。
「ちょっと、ウォーラン」
「ん?」
隣の席に座っていた巫女風の格好をした少女に声を掛けられた。彼女は序列第四位、『インキュバ』のシューナ・アイザ・ダンストン、底辺から成り上がったため周囲の風当たりが強いウォーランに話しかけてくる数少ない友人の一人だ。
「お前、何をニヤニヤとしているの?もうすぐ議会が始まるのだから気を緩めてはいけないでしょう?」
「あぁ、すまん。少し考え事をしてた」
「そうよね、お前、珍しく笑ってたよ、・・・・・・・なんかあった?」
「はははは、一月前に己が会った面白い男の話は知っているだろう?」
「あ〜、あの陛下と同じく種族を気にしないって言う人族の?あの時、陛下すごく喜んでいたよね」
「そうだ、あんな愉快な奴を見たのは初めてだ」
「ふ〜ん・・・、あっ。他のみんなが来たみたいよ」
不意に扉が開いた。部屋に入ってきたのは色白の少年と牛のような角が生えた男性、そして鮮やかな紅色の髪を持った青年だった。
「おぉ?またウォーランの旦那とシューナの姉御が一番乗りですか?お二人とも早いっすね〜、まさかお二人さん・・・」
「ふっ、感心だな・・赤犬よ、ようやくお前にも春が・・・」
「テンイート、ワント・・・・、ウォーランをからかうのはやめとけと何度も言っただろう・・・、そろそろ陛下がくる。全員着席して速やかに待機しろ」
そう言って彼らは椅子へ腰を下ろした。そして空いている席は2つだけとなった。
「・・・・・おい、ウォーラン」
「なんだ?アルファス」
話しかけてきた紅髪の男ーーーーーアルファスにふと眉をひそめるウォーラン。
「そろそろあの話を考え直してはくれないか?お前が承認しなければ話は進まないままだ、お前も納得してないようだが・・・ここは頼む」
「アルファスよ、しかし己は・・・・」
「二人共、陛下が来るわよ」
唐突にシューナによって会話が断ち切られた。そして扉を見ると・・・・・。
「待たせてすまない、皆の者よ」
そこに立っていたのは美しい金髪を持つ少女だった。流れるようにウェーブした髪はもちろん、少数の魔族のみ持つ雪のように白い肌、その容姿、スタイルは全て、この世のものとは思えぬ美しさだった。
「陛下〜〜〜!お待ちしてました!」
「いえいえ、つい先ほどいらしたばかりですよ、陛下」
「・・・・・陛下」
「お待ちしてました、陛下」
「皆集まってますよ、陛下」
「そうか、御苦労、アルファスよ」
どこか違和感のある男言葉を使い、彼女は席に着いた。
「さて、今より今宵の議会を始めよう!」
「「「「「ははっ!」」」」」
この少女とそれを支える騎士団が壱路と関わるのはまだまだ先の話である。
そして時は進み二ヶ月後・・・・・。物語はまた動き出す。
次回!
獣共和国に到着した壱路達!そこに待つ出会い・・・、新章突入!
乞うご期待!




