第二十一話 龍の巣と三つの影
「さぁ、着きましたわよ!」
オカン龍であるレギンレイヴに拉致、いや招待されてようやくその巣に着いた壱路達。その巣は山の中腹の終わりにあり洞窟であった。巣の中は意外にも清潔で広かった。
「や、やっと着いた・・・・・(あー、怖かった!)」
「お、お兄ちゃん、大丈夫?」
「おい、ちびコラ髪ひっぱんな!いてて!」
「あ、マスター私から言いますよ(髪ひっぱっちゃーダメですよ?)」
「キュイ(・・・は〜い)」
「それにしてもいかにも龍の巣ですって感じだな」
「そ〜ですね〜」
「だけどなんとなく綺麗にはされてますよ」
「あら〜、そういえばここら辺に最近捕まえた肉の残りが・・・」
「(マジでオカンだな・・・・・)」
そんな中適当に座りくつろぐ壱路達。
「そういえばここに住んでるドラゴンはあんたとこのチビだけなのか?」
「キューイ!キュイ!」
チビもといブリュンヒルデとふれあっていた壱路が疑問を口にする。
「そうよ?他のみんなは昔ここにいた精霊族について行ったんだけど私はここを離れるのが嫌でね〜、それに私あんまり長い時間飛べないし・・・」
「さ、さっきめちゃくちゃ飛んでましたよね?」
「短時間くらいなら飛べるから、大丈夫!」
「てかここに精霊族がいたのか?!いつまでいたんだ?」
「えーと、5000年前かな?魔大陸の方に行ったわよ」
「ず、随分前じゃないですか」
「ふ〜ん(へぇ、精霊が魔大陸にねぇ・・・探してみるか)」
「そ〜なんですか(マスター、精霊にも会いたかったんでしたよね?)」
「(まぁな)」
「ささっ!今日は腕を振るいますからね!」
「あ!俺も手伝いますよ!レギンレイヴさん」
「レギンでいいわよ、アルシャークさん」
「わ、私も手伝います!」
「じゃあ、僕はこいつの相手してるよ、ってだから髪をひっぱんなってば!」
「キューイ!キューイ!」
「ははは、懐いてますね!」
「・・・ったくもう・・・」
賑やかな時が過ぎて夜遅く。壱路は洞窟の入り口で夜空を見上げていた。
「はぁ・・・疲れたなぁ・・・」
「まぁ、楽しめたんだし、いいじゃないですか〜」
「けどあぁいうの悪くないけどな、慣れてないんだよ」
「マスターってなんか人との関わりと避けてるフシがありますよね〜、なんか必要最低限しか話したくないっていうか」
「・・・なにが言いたいんだ?」
「いえ、何も〜」
「・・・・・確かにそうよね〜」
「あんたまだ起きていたのか」
その近くにレギンレイヴがそっと歩いてきた。
「眠れないの?」
「うん・・・なんか寝れなくて」
「・・・寝るのが怖い?」
「・・・!・・・なんで?」
驚愕する壱路。
「ふふふ、私たちはね人の心が見えるのよ、あなたが寝るのが怖いのは、何かを思い出すからじゃない?」
「・・・・・・・・・」
「ふふふふふ、さらに言うとあなたはクールぶって人を拒絶しようとするけど本当は人との関わりを持ちたがっている、だけど怖がってるのね」
「・・・違う」
「そして恐れるのは・・・絶望を知っているから、そしてだからこそあなたは優しい、大切なものを失うことが誰よりもつらいと知っているから」
「・・・それは・・・確かに僕は一度壊れた、だけど今は・・・平気だ」
「だけど今でも思い出すんでしょう?」
「・・・・・」
「あなたは強い・・・強くあろうとしている。だけどちょっとは他の人を、仲間を信頼して、頼ってみたら?」
「・・・・・考えておく」
「ふふふ、私の子もあなたの奥にある優しさを感じたから、懐いたのよ」
「・・・いい迷惑だよ、まったく・・・」
そして壱路は洞窟の中に戻っていった。
「あっちゃ〜、あれだと相当手強いわよね〜、・・・そこにいるんでしょう?リュアちゃん?」
「は、はい・・・」
岩陰からそっとリュアが出てきた。どうやら立ち聞きしていたようだ。
「す、すいません、なんか気になって・・・」
「いーのよ!恋する相手なら気になるのは当然だし」
「こ、ここここここ恋?!いや、そそんなこことなないですよ?」
「・・・それじゃあバレバレよ」
「は、はぅう!」
「まぁ、アドバイスなら少ししてあげるわ!この私に任せなさい!こう見えても昔モテモテだったのよ〜!」
「・・・・・は、はぁ」
「いい?あんな感じの子にはそっと寄り添って優しくするのがいいのよ」
「は、はい!」
「けど間違いそうになったり、折れそうになった時はちゃんと隣にいて引っ張ってやるのよ?」
「はい!」
「じゃ、明日に備えてもう寝なさい、あ、あとこのアドバイスは必ず正しいとは限らないから、使い所に気をつけてね!」
「は、はい!レギンさんありがとうございました!」
そう言ってリュアは洞窟の中に戻っていった。
「ふ〜、最後にいい思い出が出来たわ・・・」
レギンレイヴのこの最後の一言は誰の耳にも届かなかった。
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場面変わってファフニール山中腹のど真ん中、そこに三つの人影が存在していた。
「ねぇ、この山に本当に龍がいるの!?」
ひとりは活発さを形にしたような黒髪ショートの少女、その目には真っ直ぐな光が宿っている。
「はい、近隣の住民の目撃証言で確かな事実です」
その傍に立つのは屈強な鎧を纏った男性、しかしその口調は柔らかで丁寧である。
「そうですか、分かりました」
そしてもう一人は少女と同じくらいの少年、どちらかといえば普通の少年である。
「お二人共体調に異常はないですか?明日は・・・」
「分かってるよ、ライさん、これは俺たちがやるべき事だから」
「本当ならもう一人、あの方もここにいるはずなのですが・・・」
「あいつの事はもういいですよ!あんな不良ほっとけばいいんです!」
「・・・・・そうですね、過ぎたことは仕方ないですね」
「さぁ、明日が本番なんです、早く寝ましょう」
「そ〜ね!じゃ頑張りましょ〜!」
「はい、『勇者』であるお二人には期待していますよ」
明日、この勇者たちとの出会いが壱路を過去の傷と向き合わせることになろうとはこの時誰も知らなかった。
次回!
勇者と名乗る者たち・・・悲しき別れ・・・その時壱路は・・・
乞うご期待!




