第十四話 魔との交渉
「あんたをここから出してやるよ」
突然の提案にウォーランは驚愕の表情をしていた。
「おいおい、イチロ。お前今何言った?」
「言葉通りの意味だが?」
「いや、こいつは魔族だぞ!お前魔族が怖くないのかよ!」
「全然」
「まじかよ・・・・・」
「僕にとっては魔族も獣人族も人族も違いなんてどうでもいいんだ。種族が違うだけで、みんな一人ひとり一生懸命に生きてるのに変わりないから」
「・・・・・・はぁ」
アルシャークはため息を吐いた。そしてこう言った。
「やっぱり、お前変わっているよ」
「なんとでも言え」
「だが、凄いと思うぜ、人族の殆どは獣人族や魔族を憎み、人とは扱わないのにお前は一人の人として俺らを見ている、すげぇよ」
「わ、私もす、すごいと思います!」
「(マスター!ワタシもですよ!)」
「(うん!イチロかっこいいー!)」
「当たり前のことだと思うんだけどな」
なんか褒められた。自分にとっては普通の事を言っただけなのに。
(確かに面白い、今どきあんな考えを持つ人物があの方以外に、しかも人族がいるとはな・・・・捕まったのは幸運だったか?)
とウォーランは内心で微笑んでいた。
その声をフォウンが聞いていたことを彼は知らない。
「で、どうなんだ?出たいのか?」
「・・・・・何かお前らにメリットでもあるのか?」
「ある!僕の取引の流儀は、ギブ・アンド・テイクだ!こっちにもメリットがなきゃ交渉なんてしない」
「ぎ、ぎぶあんど・・・なんだそれ?」
「後で説明してやるから、黙ってろ、めんどくさい」
「って、おい!人のことを・・・」
「お、お兄ちゃん、今は静かにしていよ?」
「うん」
「(早いな)で話の続きだが、あんたに頼みたいことがある。ちなみに頼んでくれたらここにいる奴隷全員逃がしてやるよ。人種関係なくね」
「「「なっ!?」」」
壱路の常識外の発言に驚愕する三人。
「まぁ、あんたが引き受けるかどうかだけどね、はっきり言ってめんどいし、ただ働きはごめんだし」
「おい・・・・・・・・・・」
「だがあんたが引き受けるなら、ちゃんとやるよ」
「必ずか?」
「必ずだ」
壱路の提案にウォーランは戸惑っていた。しかし彼の心の中には壱路に対する不信感は存在しなかった。初めて会ったのだ。自分が忠誠を誓った主と同じ考えを持つ人物に、しかも人間に会ったのは。だからか答えは決まっていた。
「引き受けよう。で己は何をすればいい?」
「よし、分かった。説明してやる。でアルシャークとリュアにも手伝ってもらうから」
「おい!リュアを危険な目には・・・」
「大丈夫。なにも無理しろとは言わないよ、ただ一緒についてきてもらうけど」
「ふぇ?!」
「何っ!おいお前ひとつ言っておくぞ・・・リュアに手を出したらお前を殺す!」
「出すかよ。このバカが」
「バカって言うな〜〜〜!!!!!」
というわけで壱路は作戦を話し始めた。
「で、その作戦なんだけど・・・・・・・」
ーーー数十分後ーーー
「おいっ!いたのか?!」
「いえ、捜しましたがまだみつからないようです!」
「捜せ!どこかに身を潜めている筈だ。ここの入り口はここしかないんだからな」
あれからブダノストは壱路達を捜しているのだが、なかなか見つからず途方に暮れていたのだ。
「くそっ、くそくそくそ!役に立たん奴ばかりだ・・・・・・」
この司会者の男、実はブダノストの幹部の一人でありオークションの事実上のオーナーでもあった。
(奴らめ、どこに隠れているのだ?まさかもう・・・いや、ありえん!なんとしても捕らえなければ、私の首が飛ぶ。それは避けねば!)
「し、失礼します!」
部下が報告に来た。
「なんだ?」
「緊急事態です!『赫狼』が脱走しました!」
「なっ!?そんなバカな!奴は強化牢に閉じ込めた筈だ!」
「そ、それが今そこまで・・・・・ぐはっ!」
その時突然扉が破壊され、飛び散った破片が構成員の頭を直撃した。
そして破壊された扉から声がした。
「よう、この下郎が」
「ここであったがテメェの運の尽きだぜぇ!」
それはウォーランとアルシャークの姿だった。
「あなた方は・・・」
「とりあえず同胞は返してもらうぞ?」
「俺もあの時やられた借りを返すぜ!」
「くっ!全員集結しろ!目標は獣人一匹と『赫浪』だ!」
どんどんブダノストの連中が押し寄せてきた。
その様子を見てウォーランはこう心の中でつぶやいた。
(なんとか連中の目をここに集中させることができたな。・・・・・後はお前が約束を守れよ、イチロ・サガミ!)
そしてウォーランとアルシャークは連中に向かっていった。
次回!
壱路の作戦の全貌が明らかに!
今壱路の魔法がド派手に炸裂する!
乞うご期待!




