第十二話 危機対峙
後ろから気配を察知し振り返った壱路達。
そこには灰色のフードつきマントを身に包んだ人が数人、そしてその前にオークションの司会をしていた男が立っていた。多分灰色マントの連中はブダノストの奴らだろう。
「いやいや、お客さん。いくら何でもステージに上がるのは礼儀知らずにも程がありますね〜」
司会者の男がまるで作られた笑顔を浮かべながらそう言った。
「テメェは・・・・・」
「アルシャーク、知っているのか?」
「リュアを攫った奴らだ。ちなみにオークションのこと喋っていたのはあの司会者だ」
「あー!思い出しました。貴方はその商品の保護者様でしたね。いやー、キチンと河に流しはずなのにちゃんと殺すべきでしたね〜」
「黙れ!もうお前らには負けはしない。リュアは返してもらうぞ!」
「いやー、そうは行きませんよ。何せそのお嬢さんは獣人の中でも絶滅寸前の白狼ですよ?そうやすやすと返すわけには行きませんね〜」
アルシャークと司会者の男が対峙している中壱路はフォウンと話をしていた。
「(なぁ、フォウン)」
「(なんですか、マスター?)」
「(白狼ってなんだ?)」
「(いや私も流石に分かりませんよ。世界辞典にも載ってないですし、後で聞いてみたらどうですか?)」
「(あー、分かったよ)」
疑問は後にして今はこの状況をどうにかしようと壱路は司会者の男を見た。
見た目は弱そうだが、実力は未知数だ。それに今いる奴らと戦う事になるのなら問題が一つある。
(僕に人を殺す事が出来るのか?)
壱路はこの世界に来てから人と戦った事がない、なるべく人との接触を避けていたのだ。魔物と比べると訳が違う。
(だけど、このままじゃダメだよな。この世界で生きていくって決めたんだ。いざとなったら・・・・)
そう思いガイシに手をかける。
「(だいじょうぶ!ボクがいるから)」
ガイシが言葉を掛けてくれた。お陰で幾らか決心がついた。
(とにかく戦うしてもこの人数を同時に相手にするのはちょっとな)
と考えていると。
「そういえばそこの黒衣のお客さん」
「は?」
「そうですよ。あなたは人族のようですが・・・何故こんな獣人と手を組むのですか?」
「・・・・・何が言いたいんだ?」
「こんな薄汚れた獣人共と手を組むとはどんなキチガイだと思いましてね、獣人が人に何をしてきたかご存知ですよね?」
そう言うと司会者の男は後ろに控えていたブダノストの一人を手招きし呼んだ。
そしてそのフードを外すと・・・・。
「なっ!」
「きゃっ!」
「・・・・・・・」
その人物の左目は爬虫類のような瞳をしていた。しかも無理矢理いれられたように傷が出来ている。
「これは獣人達が実験として埋め込まれたものです、そもそもブダノストは獣人や魔人を憎む者達が集ってできた集団ですし、人を人と思わない奴らを排除するのは当然なのですよ。そう人を守る為にもね!」
「さっきから話が読めないんだが、何をしたいんだ?」
「取引ですよ。あなたがその二人を引き渡せばあなたの身の安全は保障しましょう。もし断れば・・・・・」
よく見ると周囲にブダノストの連中に囲まれていた。連中は剣を持っていて入り口も塞がれている。
ハッキリいってピンチだ。
「確かにいい取引だな」
「「なっ?!」」
「そうでしょう?では・・・」
なんて答えるかはもう決まっている。
「嫌だ」
この場の空気が壊れる音がした。
「い、いまなんと」
「嫌だって言ったんだよ。このブタのクソが」
壱路の口調が刺々しい敵意と嫌悪に満ちた言葉に変わっていた。
「あんたらの言っていることは分かった。言い分も理解出来る」
「・・・・・じゃあ!」
「だが共感はこれっぽっちも持たない。あんたらのやっている事は所詮ひとりよがりで勝手な行為だ。名前からしてブタのクソだし」
「おい・・・・・だからブダノストだって。間違って覚えているのかよ」
「どっちでもいいよ。いいか?第一関係ない奴らを巻き込んだ時点であんたらはただのクズに成り下がったんだ!」
実は今のセリフはある小説の主人公からとったのだが読んだ時とても共感できたものだ。
例えどんなに誇り高く立派な言葉で取り繕うとも関係ない者を巻き込み傷付ければそれはただの犯罪者でテロリストだ。ただの一人よがりで憐れな連中だと壱路は評価した。
「という訳で僕らは失礼するよ」
そう言うと壱路は懐から何かを取り出した。
それは白いボールのような物でそれをいきなり地面に叩きつける!
ピカッ!
そして次の瞬間白い閃光が辺りを包み込む。
「な、なにが・・・・あっ!」
気がつくと壱路達はその場から消えていた。
「いつの間に・・・・・探せ!まだここから出てないはずだ!」
そう、司会者の言うとうり壱路達はまだここから出ていない。
「・・・・ハァハァハァハァハァ」
「大丈夫か?」
「き、緊張した」
「いや、こっちも肝冷やしたぞ?まさかあんな事言うとはな・・・」
「しょうがないだろ、一か八かのぶっつけ本番だったんだから。あれ作ってからまだ試してなかったし」
「あの道具か」
「暇だった時適当に作ってたんだ、目くらまし用閃光玉」
「お陰で助かったが・・・」
現在壱路達はボーンドームの地下にある部屋に隠れている。入り口が見張られていたので、ブダノストがボーンドームから出て行くまで待とうと言う作戦(半分勢いそして希望的観測)に変更したのだ。ちなみに部屋の扉は壱路が魔法で封鎖したのでしばらく安心だ。
「はぁ、疲れた。取り敢えず一旦休憩しよう」
「いや、敵地のど真ん中で休もうなんて考え普通は出来ないぜ」
「・・・・・・・・・・」
リュアはアルシャークの後ろで縮こまっていた。どうやら壱路を警戒しているみたいだ。まあ初対面のしかも人族の男が目の前にいるのだ。とてもじゃないが緊張するだろう。
「(マスター、あの子震えてますよ。ちょっとはコミュニケーションをとった方が・・・)」
「(・・・・・あー、分かったよ。)」
壱路はあまり人とのコミュニケーションを取ることがなく、小さいとはいえ女の子と話す事は初めてである。
「えーと、リュアちゃん、でいいよな」
「っ!・・・・・はい」
なんか怖がわれているみたいで複雑な気持ちだ。
「僕はイチロ・サガミ。冒険者で君のお兄さんから依頼を受けて手伝いに来た」
「お兄ちゃんが?」
「あぁ、河に流れていたところを偶然助けて貰ってな、しかも凄え変わっているんだぜ、コイツは」
「・・・おい、一言余計だ」
「そうだったんですか・・・・・改めましてリュア・レイジューンです。イチロさん、助けてくださってありがとうございます」
「いや、大したことしてないし、まだ何も解決していない」
よく見るとやはりかわいいと壱路は思った。獣人と言ってたが獣耳と尻尾は隠れていて見えない。後で見せてもらおうと思う壱路だった。そんな感じで壱路達は少しは打ち解けていった。
「まぁ、詳しい話とかはここでてから聞くとして・・・どうしよう」
「どうしようって、考えなしでここに籠城したのか?!」
「仕方ないだろ、あの人数相手に戦えるほど僕は強くないですよ・・・多分?」
「多分?って、なぜ疑問形?!」
「うっさいな、いちいち細かいこと考えていたらハゲるぞ、この兄バカ」
「おい!細かいってなんだよ!うるさいってなんだよ!兄バカは認めるがそれ以外は謝罪しろぉぉぉぉ!」
「お、お兄ちゃん落ち着いて」
「あぁ・・・・、リュア分かった。俺落ち着いたよ、リュアを見てると癒される・・・」
「(やっぱり兄バカだ。認めてたし)しかしここは・・・・・牢屋?」
よく見ると篭った部屋は薄暗く細長い通路が一直線になっていた。そして奥のほうには牢屋のような物がある。
「誰かいるのかな?」
牢屋に向かって壱路は歩く。
「おい聞けよ!って行きやがった・・・・・リュアは俺の後ろにいな。大丈夫だから」
「うん!」
そして壱路達はその牢屋に近付いていく、すると・・・・・。
「・・・・・誰だ・・・」
牢屋から声がした。
次回!
牢屋に閉じ込められた人物の正体は?!
そしてその出会いが壱路に何をもたらすのか?!
乞うご期待!




