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肖像画の娘

作者: WAIai
掲載日:2026/09/06

ー私が選ばれたのか。

緑昭は皇帝の後宮におり、三千人の中の一人だった。

皇帝は当然、そんなに対応できるわけがなく、緑昭はひっそりと暮らしていた。

他の女達は金を出し、肖像画を描いてもらい、皇帝の気をひいているらしいが、緑昭はそんなことはしなかった。

ーそんなことをしても無駄だわ。陛下のお子を孕むか分からないんだから。

諦めて後宮の隅で暮らしていようと思ったのだが、急に呼ばれてびっくりした。

もちろん呼んだのは皇帝ではなく、直属の者だった。

「緑昭だな?」

「はい。私が緑昭でございます」

墨で描かれた下手くそな肖像画と、実際の緑昭と比べ、直属の者は憐れみの目で見る。

「野蛮な異民族の元へ嫁いでくれるか?」

「…ご命令とあれば」

内心、冷や汗をかいていたが、緑昭には拒否権がないのは分かっていた。

しかも後宮から出られるなら、息苦しさから解放されるかもしれないと期待もあった。

「明日、出発するから用意しろ」

「はい。ただいま」

緑昭は深く頭を下げると、直属の者が去っていく。

部屋には誰もいなくなり、緑昭はふうと息を吐く。

「嫁ぐのか…。どんな人なんだろう?」

皇帝の後宮の三千人に比べれば、異民族の王でも相手をしたほうが、情が生まれるかもしれないと考えた。

ー強く生きなければ。私が行かなかったから、家族や一族に迷惑がかかる。

緑昭は腹を据えると、荷物をまとめ始める。

と言っても、ほとんど荷物らしいものはないのだが、それでも一つ一つ大事にしまっていく。

「あーら、どうしたの? 荷物なんかまとめて」

嫌な奴が来たと、緑昭は嫌な気分になった。

「ちょっと。教えることはできませんわ」

「陛下に嫌われて、夜逃げするのかしら? おほほ」

「ふふ。そうだといいですね」

軽く返すと、嫌な女はまだくすくす笑う。

「陛下に一度もお手をつかれていないのに、急に帰るなんて、ざんねーん。一人、好敵手がいなくなって幸運だわ」

「それは良かった。私も皆さんに迷惑をかけたくないので」

袖で口元を隠し、笑うと、嫌な女は飽きたのか、ふんと言って去っていく。

あれが後宮に残るのかと思うと、皇帝もどうなるか分からないなと他人のように思う。

ー賢い人だといいのだけれど、

まだ見ぬ夫となる人物の想像をしてみる、

私に優しくしてくれるだろうか、私と一緒に笑ってくれるだろうかと、期待が膨らんでいく。

時間は刻々と過ぎ、次の日、緑昭は皇帝に呼ばれ、拝をする。

「お前が緑昭か。悪いが、異民族の元へ嫁いでくれ」

「畏まりました。私は私の与えられた任務を果たすのみにございます」

そう言い、顔を上げると、皇帝が息を呑んだ。

肖像画だけが頼りなだけに、不細工とでも思っていたのか、実は美人だとようやく気づいたようだった。

しかし時は遅く、緑昭は覚悟を決めていた。

「必ずや任務をまっとうしてきます」

「そ、そうか…。…くそ、もったいない」

皇帝は後悔したようだが、緑昭には聞こえなかった。

ー新しい人生、新しい生活、新しい環境。私を待っているものは、全て新しいものだわ。

どうしてかすっきりしており、皇帝の驚いた顔が見られただけでもいいと思っていた。

ー事実はねじ曲げられる。正直なことを知りたかったら、面倒くさがらずに、自分で選ぶべきだわ。

少し溜飲を下げると、緑昭は拝をする。

「ーでは、行って参ります」

「あ、う、うん…。頼むぞ」

「はい」

力強く答えると、緑昭は立ち上がる。

その途端、光が彼女を包み込み、眩しさに皇帝が目を細める。

しかし緑昭は気にせず、踵を返すと、後宮を後にする。

ある意味、自由になれて良かったかもしれない。

ーでも異民族の王に気に入られず、殺されたら?

ふと思ったが、それはそれでいいような気がした。

肖像画一枚の関係。

破綻しなければいいのだけれどと、心の中で毒づくと、緑昭は馬車に乗り込み、進んでいくのだった。

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