美しすぎる姉が婚約者を裏切ったので、冴えない妹の私が選ばれました。
「わたくしにはバリウス様という素晴らしい婚約者がいるのに、貴方ときたらいまだ婚約者がいないなんて、仕方ないわね。なんせわたくしの方が優秀で美しいもの」
姉、ベラルシアの言葉に、黙り込むしかないフェリーシア。
黄金の薔薇とまで言われ、求婚者が絶えなかった姉は、バリウス第二王子殿下の熱愛に応え、第二王子は名門ブルド公爵家に婿入りすることに決まっていた。
黄金の薔薇のベラルシアと、お似合いと言われるバリウス殿下もそれはもう美しい顔をしていて。
二人揃って現れれば、日の光と、黄金の薔薇の組み合わせだと、人々は褒めたたえ、うっとりとその姿を見つめるのが常日頃。
それだけ美しさでこの二人は秀でていたのだ。
それに比べて、フェリーシアはあまり美しくない。
くすんだ金の髪。姉と比べてどうしても見劣りしてしまう容姿。
姉があまりにも華やかな美人だから、どうしてもフェリーシアは目立たなくなってしまうのだ。
だから、婚約の話が出ても、顔合わせの席で。
「ベラルシア嬢はあんなに華やかで美しいのに、君は普通なんだな」
と言われてがっかりされたのには、フェリーシアの乙女心が傷付いた。
姉があまりにも華やかすぎるのよ。
両親も、バリウス殿下が婿に来てくれるのに舞い上がっていて。
フェリーシアがどこの家に嫁入りしようが、気にしていないみたいで。
両親に関心があるのは姉ベラルシア。
自分なんて関心も無いのだわ。
慣れているはずなのに。
とても寂しくて寂しくて。
姉とバリウス殿下がテラスでお茶を飲んでいる。
ああ、なんて美しい光景
バリウス殿下は品があって、フェリーシアはバリウス殿下の事をずっと憧れていた。
王立学園でバリウス殿下はフェリーシアと同い年でクラスが一緒なのだ。
いつも堂々と、皆を引っ張ってクラスの中心にいるバリウス殿下。
彼は日の光と言われているだけあって、輝いていて。
いつも気が付いてみれば彼を目で追っていた。
彼の姿が好き。
彼の声が好き。
バリウス殿下は気が利くのだ。
クラスの一人一人に声をかけて。
ただ、婚約者がいるので、令嬢とは適切な距離を持って接している。
クラス全体を纏めようと、皆にやる気を出させようと、いつも燃えていた。
「今度、学園で催されるダンスパーティなのだが、婚約者がいる人は婚約者をエスコートして。いない人は、いない人でカップルになって貰い、楽しくやりたいと思っている。社交界へいずれデビューする前のリハーサルだと思って、楽しみながらも真剣に取り組んでくれ」
ああ、姉をエスコートして踊るのね。
姉は卒業しているけれども、当日は招待されて会場に来るわ。
羨ましい。わたくしが姉だったら。わたくしが……
そんな中、事件が起きたのだ。
最近、姉の様子がおかしかった。
何だか具合が悪そうなのだ。
姉ベラルシアは、とある日、両親に向かって、
「わたくし、子が出来てしまったようですの」
父も母も驚いて、
「バリウス殿下との子か?」
「結婚は殿下が卒業してからなのに?」
ベラルシアは首を振って、
「いえ、ブルーデル様とですわ」
両親は驚いた。フェリーシアも驚いた。
ブルーデル大公は凄い美男子だ。
銀の髪に青い瞳の40歳。
彼は色々な女性と浮名を流す遊び人として有名だ。
そのブルーデル大公の子が出来たというのだ。
ベラルシアは、両親に向かって、
「だって仕方ないじゃない。ブルーデル様がわたくしの事をあまりにも褒めるものだから、つい流されてしまって。とても素敵な夜だったわ。でも、まさか子が出来るなんて思わなくて」
父が姉の頬を叩いた。
そして喚いた。
「お前は我が公爵家の跡取りだぞ。それなのに、王族と婚約しておきながら、別の男との子を?」
「ねぇ。お父様。ブルーデル様に責任を取ってもらいましょうよ。幸い、大公殿下は独り身ですし。ね?お父様」
「お前、バリウス殿下と婚約中だぞ。他の貴族と婚約していたのと訳が違う。王族と婚約していたのだ。それを裏切ったのだぞ」
「ブルーデル様があまりにもわたくしの事を褒めるものだから。わたくしは悪くないわ。お父様から、王家に説明して頂戴。わたくしは大公様に嫁ぐわ。もっと子を産むの。その子の一人にこの家を継がせればいいわ。フェリーシアみたいな冴えない女に婿をとって家を継がせるのは恥ずかしいでしょう」
フェリーシアは呆れた。
あんな素敵なバリウス殿下を裏切って、遊び人として有名なブルーデル大公と?
ブルーデル大公は、国王陛下の従弟にあたる。王族の血は引いているのだ。
ことの次第をブルド公爵夫妻は国王陛下と王妃に話したら、二人とも激怒した。
「我が息子と婚約中でなんという裏切りだ。婚約破棄だ」
「そうよ。ブルーデルと浮気?子が出来た?とんでもない話だわ」
傍で聞いていたバリウス殿下。
「父上母上。私は名門ブルド公爵家に婿入りしたいのです。浮気をした悪い女はブルーデルにくれてやればいいじゃありませんか。ブルド公爵家はフェリーシアという令嬢がいます。私は彼女と婚約をしたい」
ブルーデル大公が呼ばれた。
ことの次第を話せばブルーデル大公はあっさりと、
「私の子だという証拠は?色々な女性と遊んでいるし、あの女だって私だけではないでしょう。私は結婚せずに色々な女性と遊び続けたいのです。責任を取るなんてまっぴらごめんです。バリウス殿下の子として育てりゃいいでしょう。あの家に婿入りしたいのなら、それくらい目を瞑ったって」
バリウス殿下は怒りまくって、
「冗談じゃない。他人の子を私の子として育てるなんてまっぴらごめんです。ともかく、私はベラルシアと婚約破棄をし、フェリーシアと婚約を結びます。よろしいですね?父上母上。それからブルド公爵夫妻」
王宮であったやりとりをベラルシアとフェリーシアは両親から聞いた。
それを聞いた姉は怒り狂って、
「わたくしと子に対して責任をとらないですって?だったら、バリウス様が婿入りして、バリウス様の子として育てればいいのよ。当然でしょう。フェリーシアなんかと結婚するより、余程幸せだと思うわ」
フェリーシアは頭に来た。
あんな素敵なバリウス殿下を裏切って、自分勝手な事ばかり言う姉。
バリウス殿下の子としてブルーデル大公の子を育てろだなんて。
だから言ってやった。
「バリウス様がわたくしを望んでいるというのなら、わたくしが跡継ぎとしてバリウス様と婚約致します。お姉様はこの家に居て貰っては困りますので、早々に出て行って下さいませ。わたくしとバリウス様が結婚する前に」
「なんて冷たい妹なの?子がお腹にいるわたくしを追い出すと言うの?フェリーシアのくせに」
「だったらお姉様はどうしてこの家に残りたいと?わたくしとバリウス様との結婚生活を邪魔するつもりでしょう」
この姉ならやりかねない。事ある毎に、バリウス殿下を誘惑する。
確信だった。
姉は悪びれもせず、
「だって、バリウス様はわたくしの婚約者よ。仕方が無く別れる事になったけれども。一緒に暮らせば、冴えないフェリーシアより、わたくしの方がいいって解るわ」
父も母も、
「身重なベラルシアを追い出すのも」
「そうよ。フェリーシア」
「お父様、お母様、だったらわたくしが不幸になっても構わないというの?わたくしはバリウス様との結婚生活を守る為にお姉様には出て行ってもらいます。当然ですわ」
毅然と対応した。
一緒に暮らして、バリウス殿下を誘惑するだなんて許せない。
バリウス殿下が望んでくれたのだ。
自分と婚約することを。
政略だってかまわない。
ずっと好きだった。
彼の姿を目で追っていた。
バリウス殿下はいつも輝いていたのだ。
ああ、でも、あくまでも政略よね。
お姉様との婚約はバリウス殿下の強い要望だと、熱烈に愛を囁いて成立したと聞いているわ。
自分に自信がない。
せっかくバリウス殿下と婚約を結ぶ事になったのに。
自信がないのだ。
翌日、王立学園に登校したら、バリウス殿下から声をかけられた。
「フェリーシア。新たに君と婚約を結ぶことになった。これからよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願い致します。それから姉の事は申し訳ございませんでした」
「他の男の子を孕んでしまったのだから仕方ない。せっかくだから、一緒にお昼を食べながら話をしよう」
授業が終わり、昼になったので、食堂で二人で食事をした。
バリウス殿下は、優雅に肉をフォークとナイフで切り分けながら、
「私は名門ブルド公爵家に婿入りしたかったから、跡継ぎだと言うベラルシアと婚約を望んだ。第二王子たる私にふさわしい婿入り先だから。だけども、ベラルシアに裏切られてしまった。今、思えば婚約者が君に代わって良かったとそう思っている」
「お姉様に対して熱烈に愛を囁いて婚約者の座を射止めたと聞いておりますわ」
「君の姉が言ったのか。それとも世間の噂か。ただ、婚約者の女性に対しては紳士的に振る舞っただけだ。仲を深める為に、プレゼントもしたし、エスコートもした。話もしたが、あの女は自分の自慢しか話をしなかったな。それに比べて、君は。君の努力している姿は普段から見ていて、好ましく思っていた」
「わたくしはお姉様と比べたら美しくはありませんわ」
「そんな事はない。ただベラルシアが派手なだけで、君だって美しいと私は思うよ」
「そうなのですか?」
「領地経営の事は色々と勉強をしてきた。公爵夫人として、フェリーシアには色々と助けて貰う事になる。互いに良い関係を築いていこう」
ああ、この人は……なんて立派な。心がまっすぐな方。
フェリーシアは、バリウス殿下の事が更に好きになった。
「わたくしはバリウス様の婚約者になることが出来てとても嬉しく思いますわ」
思い切ってそう言ってみた。
きっと顔が真っ赤で。
とても恥ずかしい顔をしているに違いないけれども。
バリウス殿下は微笑んで、
「私も嬉しく思う」
嘘でも構わない。でも、生まれて初めて、誰かに認められた。
そんな気がした。
姉ベラルシアは居座って屋敷から出て行かない。
バリウス殿下がブルド公爵家に来るたびに、姉はまとわりついた。
「貴方の事を愛しているわ。わたくし、反省しているのよ。お腹の子は貴方との子として育てましょう。美しいわたくしの子ですもの。貴方も大好きになるわ」
バリウス殿下は腕を絡めようとするベラルシアの腕をそっと振り払って、
「私はフェリーシアと婚約を結んだ身だ。家を出ていくと聞いていたが、まだいたのか?
ブルド公爵。何故、ベラルシアを家から出さない?私はこの女性の顔を見るたびに、不快に思うのだが」
父であるブルド公爵はとりなすように、
「身重なベラルシアを追い出すのもあまりにも可哀想なので」
母も、
「そうですわ。身重なベラルシアを追い出すのは気の毒ですわ」
バリウス殿下は、
「だったら、私にまとわりつくのを辞めさせて貰えないだろうか。私はフェリーシアと結婚する。それをベラルシアにまとわりつかれたのでは迷惑だ」
父も母も姉に甘いのだ。
ずっと昔から美しい姉を優先し、美しくないフェリーシアには冷たかった両親。
フェリーシアはバリウス殿下に相談した。
バリウス殿下は、
「あの女の自信を打ち砕いてやるのが一番だな。学園のダンスパーティ。私の瞳の色のブルーのドレスをプレゼントしよう。ブルーと言っても明るい空色だな。
フリルをドレスに入れて華やかに見えるようにして」
「有難うございます。目いっぱい着飾って姉に見せ付けますわ」
ダンスパーティの当日の朝、バリウス殿下にエスコートされて、着飾ったフェリーシアは姉の部屋を訪ねた。
姉は驚いたようにフェリーシアを見つめた。
茶の髪は華やかに巻いて、バリウス殿下からプレゼントされた、キラキラした銀のイヤリングとペンダントをし、明るいブルーのドレスを着て、
「お姉様。バリウス様がわたくしの為にドレスをプレゼントして下さいましたの」
「フェリーシアの癖に、ドレスをプレゼントされただなんて。バリウス様。こんな冴えない女の為に???」
バリウス殿下はフェリーシアの手を取って、
「フェリーシアは美しい。派手な美しさは無いが、品があって、ブルド公爵夫人になるのに、ふさわしい美しさだ。私はフェリーシアを愛しているよ。努力家で、他の女生徒達ともうまく交流していて。公爵家の夫人として安心して任せる事が出来る。ベラルシアとの婚約を破棄して良かったと思っているよ」
フェリーシアも姉に向かって、
「ですから、お姉様。いい加減に出て行って下さらない?領地にお姉様の住む屋敷を用意致しますわ。そこで子を産んで下さいませ。そして二度と、この屋敷に戻って来ないで下さいませ。わたくしとバリウス様との結婚生活に、お姉様はいりませんわ」
ベラルシアは震えながら、
「バリウス様、しっかりとわたくしを見て。わたくしの方が美しいのよ。わたくしと結婚してわたくしそっくりの子を一緒に育てましょう」
バリウス殿下ははっきりとベラルシアに向かって、
「私を裏切るような女はいかに美しかろうと、必要ない。心の美しさが顔に現れているのはフェリーシアのような女性だ。心の醜さが顔に現れているようなベラルシアは必要ない」
バリウス殿下はフェリーシアをエスコートして部屋を出て行った。
ベラルシアは泣きながら、
「わたくしは愛しているって言って貰っていない。バリウス様から言ってもらった覚えがないわっーーいやぁーーーーー」
ブルド公爵夫妻が、王宮から戻って来た。
国王夫妻に厳重に注意されたのだ。
ブルド公爵が、
「領地の片隅の屋敷にベラルシアを行かせる。国王陛下と王妃様がお怒りだ」
ベラルシアは、
「わたくしが悪かったと言うの?お父様お母様。わたくしがフェリーシアに負けたと言うの?バリウス様はわたくしを愛していないと。フェリーシアを愛していると言うの?ああああっ。わたくしはブルーデル様にも捨てられて。バリウス様にも捨てられてっ」
嘆き悲しむベラルシアを両親は部屋に閉じ込めた。
子がお腹にいるので、馬車で遠くへ運ぶのは危険という事で、街の一角に家を借りてそこにベラルシアを閉じ込めることになった。
母は嘆きながら、
「ベラルシアには期待していたのに。なんでああなったのかしら」
フェリーシアは両親に向かって、
「お父様お母様がお姉様を甘やかしたからですわ」
バリウス殿下が、
「いずれ、私が爵位を継いだら、君の両親も領地の片隅に追いやった方がよいかもしれぬ。利になるのなら、置いてやってもよいが」
「バリウス様のお好きなように」
両親がどうなろうと未練はない。
幼い頃の自分が泣いている。
姉ばかり優先して、まったく愛情を注いでくれなかった。
だから両親がどうなろうとどうでもよいと思った。
遊び人のブルーデル大公は、借金まみれになったそうで。
最近、社交界で見かけなくなった。
金を貢いでくれていた某商会の未亡人が亡くなったそうで、それで一気に、借金が膨らんだとの事。
国王陛下が怒って、
「借金取りが押し寄せていると聞いた。お前が作った隠し子の養育費も請求されているそうだな。お前に大公家なんぞもったいない。ブルーデル大公の爵位を取り上げることにする」
ブルーデル元大公は、行くところが無く、今は行方不明になったらしい。
街の小さな屋敷で子を産んだベラルシア。
子と一緒に、領地の屋敷に移されて、そこで監視付きで過ごすことになった。
最低限の金だけ与えられて、やっと生きていく日々。
姉は嘆き悲しみながら、過ごしているらしい。
全てがやっと落ち着いて、改めてバリウス殿下に言われた。
「ベラルシアの事は忘れよう。これから先、どう幸せに過ごしていくか。私達に必要なのは先を見つめる事だ」
「その通りですわね」
ふとバリウス殿下に問いかけてみる。
「本当にわたくしの事が好きなのですか?わたくしの機嫌を取る為に言ったのでは?」
「まだ自分に自信がないんだね」
バリウス殿下はフェリーシアの手に手を差し出して、
「美しさとは心の美しさだ。私は君と過ごしているととても安心する。君が努力家のおかげだろうか。地に足が着いて歩いていけるような……これからも一緒に、手を携えて歩いて行こう。フェリーシア。君は十分魅力的だよ」
幸せだった。
バリウス殿下の顔を見上げて、
「ええ、一緒に歩いて行きましょう」
全てが清々しい日で、フェリーシアは隣の愛しいバリウス殿下の顔をいつまでも見つめているのであった。




