上
ある所に、
中身が真っ白な本がおりました。
文字も、絵も、何もありません。
その本は、誰にも読まれず、
本棚の隅で埃をかぶっていました。
「さびしい……さびしい……」
本はぽろぽろと涙をこぼしました。
けれど、誰も気づいてくれません。
ある日、
本は本棚からころりと落ち、
よちよちと外へ歩き出しました。
そして原っぱで、
ぴょんぴょん跳ねている
バッタに出会いました。
本は思わず――
パクリ。
バッタを食べてしまいました。
すると、どうでしょう。
真っ白だった頁に、
バッタの絵と文字が浮かび上がったのです。
「……うれしい」
けれど、すぐに本はまた寂しくなりました。
そして再び、よちよち歩き出しました。
次に出会ったのは、
ちょろちょろ走るネズミ。
パクリ。
ネズミも食べてしまいました。
すると頁は、さらに埋まりました。
次に本の前に現れたのは、
ネズミを追いかけてきたネコでした。
ネコは本に飛びかかりましたが――
パクリ。
ネコも食べられてしまいました。
次はイヌです。
ワンワン吠えながら走ってきましたが、
パクリ。
イヌも消えてしまいました。
それを見ていた、
イヌの飼い主の少年が叫びました。
「僕の家族を返せ!」
少年は本に飛びかかりました。
けれど――
パクリ。
少年も食べられてしまいました。
それを見た少年の父は、
棒を持って走ってきました。
「息子を返せ!」
けれど、どんなに叩いても、
本は倒れません。
パクリ。
父も食べられてしまいました。
こうして、
町では大騒ぎになりました。
「人も食べる、
危険な本がいるぞ!」
けれど本は、ただ寂しかっただけでした。




