第5話 はじめての工房トラブルと改良設計
工房に補助ユニット――通称「コロ助」と少年たちが勝手に名付けた丸型ゴーレム――が配備されて三日目。作業効率は目に見えて向上していた。
素材は自動で棚へ。完成品は分類箱へ。工具は定位置へ戻される。
「整理されているだけで、こんなに楽なんだな……」
レンは感心しながら設計図を更新していた。
工房の運用自体も、ひとつの“設計対象”だと気づいたのだ。作業動線、素材配置、生成位置。無駄な移動を減らせば、魔力も時間も節約できる。
「次は作業台の拡張かな」
そう呟いたときだった。
――ガタン。
棚の奥で音がした。
「あ」
少年の一人が声を上げる。
見ると、素材箱が傾いて中身が崩れそうになっていた。コロ助が二箱同時に持とうとして、バランスを崩したらしい。
「ストップ」
レンが声をかけると、補助ユニットはぴたりと止まった。
「制御は効いてるな」
「すみません!」
「大丈夫。これは設計側の問題です」
レンは箱を戻しながら観察する。
「同時運搬の重量制限が甘かった」
「直せるんですか?」
「もちろん」
スキル画面を開き、補助ユニットの設計テンプレートを呼び出す。
(運搬制御+重量センサー追加)
「これで無理持ちしなくなる」
再構成。
見た目は変わらないが、内部制御が更新された。
「テストします」
わざと重い箱を持たせると、途中で判定して一箱ずつ運び始めた。
「賢くなった!」
「安全第一です」
少年たちは拍手した。
昼過ぎ、リアナが訓練帰りに立ち寄った。
「例の手袋、調子いい」
「それは良かった」
「握力落ちないし、防御もある」
「フィードバック助かります」
「追加で改良できる?」
「どんな方向で?」
「滑り止め強化」
「了解です」
使用者からの意見は貴重だ。現場データは設計を進化させる。
(表面摩擦+通気構造)
「蒸れにくくもします」
「気が利く」
「長時間使用前提なので」
装備は快適性が重要だと、前の世界でも学んだ。
その様子を、入口からじっと見ている人物がいた。
施設の装備管理責任者だ。
「噂以上だな」
「どうも」
「少し相談がある」
持ってきたのは、訓練用の木製盾だった。
「耐久は足りているが、重い」
「素材バランスですね」
「軽くして同じ強度を出せるか?」
「やってみます」
解析。
無垢材の単層構造。確かに重い。
(中空多層+補強リブ)
「内部を格子構造にします」
再生成。
持ち上げると明らかに軽い。
「これはいい」
「衝撃分散も上がってます」
「正式採用したい」
「ありがとうございます」
横でリアナが笑う。
「装備担当まで取った」
「取ってません、改善しただけです」
夕方、工房は少し慌ただしくなった。
依頼品が一気に増えたのだ。
照明改良、留め具強化、収納箱の軽量化。
「順番にやります」
レンはホワイトボード代わりの板に依頼を書き出した。
「見える化、大事です」
「なにそれ」
「管理手法です」
少年たちは感心したようにうなずく。
コロ助たちも増員された。二号機、三号機。すべて低速・安全仕様。
とことこと動く姿に、工房の空気が和む。
作業が一段落した頃、スキル通知が出た。
【創造工房 Lv6】
【機能:作業エリア最適化 解放】
「エリア?」
設定を開く。
半径指定で、生成効率と魔力消費が改善されるらしい。
「工房バフだ」
「強そう」
「名前が?」
「なんとなく」
範囲を工房全体に設定する。
感覚的に分かる。生成時の負荷が軽い。
「これは助かる」
拠点型スキル。まさに工房向けだった。
夜、全員が帰ったあと。
レンは一人で椅子に座る。
今日の改良履歴を確認する。
補助ユニット制御更新、防具改良、軽量盾、新運搬設計。
「全部、壊すためじゃない」
守るため。便利にするため。安全にするため。
それが、この力の使い方だ。
前の世界では、間に合わせの修正ばかりだった。
ここでは違う。最初から良くできる。
「設計って、本当は楽しいんだよな」
誰もいない工房で、小さく笑った。
明日は何を作ろうか――そんな前向きな悩みがあること自体が、少しうれしかった。




