第4話 量産設計と“工房チーム”の始まり
初めての正式発注――荷車用の改良車輪十台分――は、レンにとって確かな節目だった。
単なる手伝いではない。正式な依頼。用途があり、使われることが前提の製作だ。
「量産、か……」
工房の机に設計図を展開しながら、レンは小さく息を吐いた。
試作品と量産品は違う。前の世界でも何度も経験したことだ。単体で優秀でも、数を作ると誤差や弱点が露呈する。だから量産設計には余裕と再現性が必要だった。
だが今は《創造工房》がある。
設計テンプレートを開くと、構造・素材比率・耐久値・応力分散の数値がすべて固定値で表示されている。
「個体差ゼロで出せるなら、量産向きにもほどがある」
スキルの設定項目を操作する。
(量産生成モード)
【同時生成数:最大5】
「ほんとにゲームみたいだな……」
だが便利なのは事実だ。
まずは基準モデルを再チェックする。弾性層の厚み、外周リングの強度、軸との接合部。段差衝撃シミュレーションも問題なし。
「よし、いける」
床に光の円が五つ展開した。
同時に部品が生成される。寸分違わぬ同一品だ。
レンは一つを持ち上げ、回転させ、手応えを確かめる。
「精度良好」
魔力はやや減ったが、まだ余裕はある。少し休憩してから残り五つを生成した。
並んだ十個の車輪を見て、自然と口元が緩む。
「ちゃんと“納品物”だ」
作業完了の達成感は、どの世界でも変わらないらしい。
扉が勢いよく開いた。
「なんか光ってたけど終わった?」
リアナだった。
「ちょうど」
「うわ、本当に十個ある」
「注文分です」
「早すぎない?」
「設計が固まれば、あとは再現ですから」
彼女は一つ持ち上げ、床で転がす。
「滑らか」
「外周の素材配分を変えてます」
「説明は分からないけど、良いのは分かる」
「それで十分です」
「運ぶの手伝おうか?」
「助かります」
「見たいだけだけどね」
「正直でよろしい」
倉庫で取り付け作業を行うと、管理担当の男性が何度も感心した。
「同じ出来だ……全部」
「テンプレート生成なので」
「普通は微妙にずれるんだが」
「設計固定ですから」
交換後、実際に荷物を載せて動かす。
段差も問題なく越えた。
「これは楽だ」
「振動も減ってます」
「追加発注する」
「ありがとうございます」
横でリアナが腕を組む。
「もう立派な設備係ね」
「まだ仮です」
「仮が長く続くタイプでしょ」
「否定できない」
工房に戻ると、フィーナが来ていた。
「評判が広がっています」
「早いですね」
「便利さは伝播しますから」
「怖い言い方」
彼女の後ろに、二人の少年がいた。
「手伝いたいそうです」
「見学だけでも!」
「道具好きなんです!」
目がきらきらしている。
「危険作業はなし。それでもよければ」
「はい!」
素材の分類、部品の整理、完成品の記録。単純だが重要な仕事を任せる。
「混ざると効率が落ちます」
「分けます!」
「ラベルも付けましょう」
「はい!」
吸収が早い。
教える側の楽しさを、久しぶりに思い出した。
作業効率は目に見えて上がった。
探す時間が減るだけで、設計時間が伸びる。
「環境、大事だな……」
レンはつぶやく。
前の職場は、いつも散らかっていた。時間がなく、整理する余裕もなかった。
今は違う。整えれば、早くなる。
夕方、スキル通知が光った。
【創造工房 Lv5】
【作業補助ユニット設計 解放】
「補助ユニット?」
設計図を開くと、小型の作業ゴーレムが表示される。
「作れます?」
フィーナがのぞき込む。
「安全仕様なら」
丸い胴体、短い腕、低速移動。危険動作制限を最大に設定する。
生成。
ぽてん、と床に現れた。
とことこと歩く。
「かわいい!」
少年たちが声を上げる。
箱を持たせると、指示した棚まで運んだ。
「……優秀だ」
「補助専用です」
「工房チームが増えましたね」
「非戦力ですけど」
「この工房では主戦力です」
その言葉が少しうれしかった。
戦わない。壊さない。作って助ける。
そんな場所が、ここにはある。
レンは作業台を軽くなでた。
「もっと良くできるな」
設計したい物が、次々と頭に浮かんでくる。
工房はまだ始まったばかりだ。
だが確実に、“必要とされる場所”になり始めていた。




