第2話 工房スキル、はじめての依頼
レンが与えられたのは、召喚施設の隣にある小さな作業部屋だった。
石造りの建物の一角で、机と棚、それから古い工具箱が置いてある。昨日レンが生成した作業台も運び込まれていた。
「ここを自由に使っていいそうです」
案内してくれたローブ姿の女性――フィーナが言った。
「研究協力の代わり、だそうで」
「研究対象扱い、継続中ですね」
「危険人物ではなく、有用人物の方です」
「それは良かった」
レンは少し安心した。
今朝から何度もスキルを試しているが、分かったことがある。作る対象の構造を具体的に理解しているほど、成功率が高いのだ。
つまりこれは、完全に“設計職”向け能力だった。
「では最初の確認です」
フィーナが机に布袋を置く。
「壊れた道具の修復は可能ですか?」
中には曲がったナイフ、欠けた留め具、割れた金具が入っていた。
「修復……分解して再構成できれば」
レンはナイフを手に取り、スキル画面を開く。
(構造解析)
視界にワイヤーフレームのような図が浮かんだ。材質、密度、摩耗度まで表示される。
「3Dモデル表示まであるのか」
「何か見えているんですか?」
「内部構造です」
「便利すぎません?」
「同感です」
(再構成・修復)
光が走り、刃の歪みが消えた。
「……直りました」
「早い!」
フィーナが目を丸くする。
他の金具も次々と直していく。魔力は少しずつ減るが、休めば回復する感覚もあった。
「修理工房が要らなくなりますね」
「仕事を奪わないよう気をつけます」
レンが言うと、フィーナはくすっと笑った。
午後になると、剣士のリアナが顔を出した。
「聞いたわよ。便利職人」
「呼び方が雑」
「悪口じゃない」
彼女は腰のポーチから金属器具を取り出した。
「これ、直せる?」
バックルのバネが壊れている。
「いけます」
三十秒で修復完了。
「早っ」
「設計が単純なので」
「じゃあ改良は?」
「改良?」
「外れにくくしたい」
レンは少し考え、構造を調整する。
(保持力+30%設計)
再生成。
「どうぞ」
リアナは引っ張って確かめる。
「……全然外れない」
「数値的にも強化してます」
「数値?」
「なんとなく分かるんです」
「便利ね、あんた」
評価が一段階上がった気がした。
そのとき、廊下が少し騒がしくなった。
「どうしました?」
「倉庫の棚が崩れたらしい」
フィーナが答える。
「けが人は?」
「いません。ただ物資が取り出せなくて」
「行ってみてもいいですか」
「ぜひ」
倉庫では、木製棚が斜めに傾き、箱が取り出せなくなっていた。だが幸い、誰も下敷きにはなっていない。
「支えが弱かったみたいで」
「構造的に無理がありますね」
レンは棚を観察する。
(補強フレーム設計)
「支柱を追加します」
その場で金属フレームを生成し、外側から固定する。
棚は安定した。
「おお……」
兵士たちが感心する。
「ついでに転倒防止も」
床と固定した。
「これで安全です」
「助かった!」
感謝された。
戦わずに役に立てたことが、少し嬉しかった。
作業部屋に戻ると、通知が出た。
【創造工房 Lv3】
【機能:設計保存スロット解放】
「テンプレ登録できるのか」
「何です?」
「よく使う設計を一瞬で呼び出せます」
「量産向きですね」
フィーナがうなずく。
「戦わなくても、人は助けられるんですね」
レンは言った。
「はい。とても立派な力です」
その言葉は、前の職場では一度も聞かなかった評価だった。
夕方、正式な通知が届いた。
レンの役割は――
臨時技術員兼工房担当。
「肩書き、ちゃんと付いた」
「おめでとう」
リアナが言う。
「これで追い出されないわね」
「最低ライン突破」
「次は必要不可欠を目指しなさい」
「設計目標、設定完了」
レンは笑った。
この世界では、作れば評価される。
ならば作ろう。
便利なものを。安全なものを。役に立つものを。
まずは、小さな工房から――。




