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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第一章

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2 - 魔法演習

 演習場に出ると、爽やかな青空が広がっていた。今日は天気がとても良い。春の風が心地良くて、今日も日向ぼっこには丁度良さそうだ。あの丘の上で昼寝ができたら最高に違いない。



「今日は魔法演習だ!」



 声を張り上げた進先生が、心なしか少し楽しそうに見える。先生は座学より演習の方が好きなんだろうか。



「初めての魔法演習だから、今日のところは発現練習だ。魔法の中では基礎中の基礎だが、かなり苦労すると思う。」



 そこまで言って、先生は顔を少し曇らせた。言いたいことが手に取るように分かる。それは恐らく皆も同じだろう。

 私たちは生まれた時から体内に魔力を持っている。そこに精神エネルギーと身体エネルギーを組み合わせることで魔法を発現することができるという理論だ。精神エネルギーはいわゆる感情、身体エネルギーは体力が源になるので、ほぼイコール関係だ。

 つまり、魔力の認識さえできれば魔法の発現はなんてことはないのだが……そもそも生まれた時から体内にあるものを認識することがとんでもなく難しい。こればかりは根気の話だ。



「だが同時に、今日の演習は自分の得意属性を知る手掛かりにもなる。属性は覚えてるか? 飛鳥。」

「火、水、草、土……と〜…、風や!」

「そうだ。訓練を積めばコントロールできるようになるが、最初は無理だからな。無意識に発現された属性が得意属性というわけだ。」

「得意属性って一個なん!?」

「良い質問だ、飛鳥。基本の得意属性は一つだ。だが、訓練次第で増やすことが可能だ。守護隊所属の人間になってくると、複数なんてのはザラだ!」

「すげぇー!」



 ぼんやりと手のひらを見つめると、沸々と魔力を感じ取れた。一周目での得意属性は水と草だった。基本は水の方だったから、水が出るだろうな。



「今から手本を見せる!」



 進先生は片手のひらを上に向けて、前に突き出した。



「体内の魔力を感じたら、そこに精神エネルギーと身体エネルギーを組み合わせて……」



 次の瞬間、先生の手のひらの上に、手のひら大の土の塊が出現した。皆からワッと声が上がった。



「俺の得意属性は土だ。魔法は戦いにも使えるが、日常生活にも使える。さぁ、次は皆の番だ! 理論は昨日授業で教えた通りだ。暴発する可能性があるから、距離を開けて各々やってみろ!」



 各々立ち上がると演習場に散らばっていく。私たちも周りと少し距離を取って取り組み始めた。



 *



 しばらくして、飛鳥が歯を食いしばって言った。



「これ難しすぎへん!?」



 飛鳥は顔を真っ赤にして言った。力の入れすぎで指が強張っている。



「難しいね…。魔力なんて感じたことないもんなぁ。」



 青も自分の手のひらを見つめて苦笑している。かなり苦戦しているように見えるが、これが普通なのだ。最初の発現に限っては、努力というよりセンスだろう。その隣で聖も怖い顔をしながら手のひらを睨んでいた。



「百音はどう?」



 私と同様に三人を眺めていた百音に問うと、百音は誇らしげに笑った。



「実は私、できるの! 兄貴に教えてもらったんだ〜!」



 そう言うと百音は手のひらを突き出し、サッと草の塊を作ってみせた。発現の速さも、塊の大きさも申し分ない。すごい。三人からも驚きの声が上がった。



「百音すごいわ!」

「すっごく練習したけどね! これだけしかできないし!」

「でも大変だったでしょ、本当にすごいわ。」

「私、守護隊に入りたいからさ! 魔法は頑張ってるの!」



 この歳でこれだけできれば十分だろう。百音は本当にセンスが良いんだ。これはちゃんと鍛えればいい使い手になる。



「それにはお前、基礎練習もやらねぇと無理だぞ。」

「知ってますー! でもやる気出なくて……。」

「なんでなん!? ちなみに俺は総隊長になりたいから頑張るで!」

「なんで総隊長!? 国のトップよ!?」

「なんかカッケェやん!」



 そう笑う飛鳥の笑顔が眩しい。


 この国の運営を担う組織、守護隊。月の国には国王がいるが、実質的な長は守護隊のトップである総隊長だ。総隊長はつまるところ、最強の戦士なのだ。何においても秀でた存在。それに憧れるのは、至極当然のことだ。



「皆志が高くてすごいね。僕とは大違いだ。」

「青は守護隊興味ねぇのか。」

「僕は、戦いとかはあんまり……。」

「……確かに向いてなさそうだな、お前は。」



 これはチャンスだ。私は少し勇気を出して聖に声をかけた。



「聖も守護隊に入りたいの?」

「うるせぇ。お前もさっさとやれ。」



 ばっさりと切られてしまった。やはり嫌われているような気がする。私、聖に何かしてしまったんだろうか。



「真白は!? 守護隊入るん!?」



 すぐに空気を変えてくれた飛鳥にホッとする。本当に飛鳥には助けられている。



「うん。会いたい人がいるの。」

「『八雲さん』でしょ!? 私も見てみた〜い!」

「八雲さんって、あの(・・)八雲?」

「青、知っているの?」

「知ってるも何も、かなりの有名人だよ。」

「そうなの……。」



 八雲が有名だなんて、考えたこともなかった。一周目では私は幼少の頃から守護隊内部の人間だったので、外聞までは知らなかったのだ。

 だが考えてみればそれもそのはず。八雲はエリート部隊と名高い第一部隊の所属だ。名前が知られていても不思議はない。



「なんで八雲なん!?」

「私、八雲さんに助けてもらったの。」



 かいつまんで八雲に助けられた日のことを話し終えると、百音は大量生産した草の塊を放り投げた。塊は空中で霧散して消えた。百音には八雲に会いたいということしか話していなかったので、ここまで話したのは初めてだ。



「何それ超素敵!! あのうさぎのぬいぐるみの贈り主ってことよね!?」

「うん。」

「むっちゃロマンチックやん!」

「真白が無事に助かってよかったよ。八雲さんに感謝だね。」



 優しく笑う皆の中で、聖だけが顔を顰めていた。



「だから八雲を追いかけて守護隊に入りてぇって? いい気なもんだな。っつかストーカーかよ。」

「なんてこと言うのよ!」

「そうやぞ、今のは言い過ぎや!」

「けっ。」



 私と青が宥めてその場は収まったが、やはり聖には嫌われているらしい。その日は途中から雨が降り出し、演出は中断になってしまった。

 人によってはそう見えても無理はないなと、私は少し落ち込んでしまった。


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