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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第一章

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19/28

14 - 仮装祭

「くしゅっ。」



 思わず身震いをする。いつの間にかすっかり寒くなってしまった。腕をさするももちろん温かさは足りなくて、私は側にいた百音にくっついた。



「真白ったら可愛い……! いっぱいくっついて温かくなろうねっ。」



 百音がぎゅうぎゅうと抱き締めてくれて、寒さは少しはマシになった。今日は座学だったので体が冷え切ってしまった。こういうとき、体術や武術の授業だと体が温まっていいのに。



「俺も温かいで!」

「どれどれ。」

「あ、青! ちゃうやん!」



 腕を広げた飛鳥の胸には青が飛び込んでくれた。聖はそれを見てケラケラ笑っていた。

 蛍様の死から一月以上が経った。犯人は捕まっていない。もう犯人を捕まえるのは絶望的だろう。守護隊は未だ捜索を続けているが、いつの間にか首都には平和な時間が戻っていた。



「明日は仮装祭だな。」



 ふと食堂の飾り付けを見上げて聖が言った。もうそんな時期か。

 仮装祭はその名の通り仮装を楽しむお祭りだ。老若男女関係なく皆が仮装し、子どもたちは近所を回ってお菓子をもらう。そんなイベントだ。

 仮装をするといっても大袈裟なものではない。太陽の国の人間が紛れ込んだり、いざという時に即座に対応できないことを防ぐためだ。



「私は留守番してようかしら。」



 衣装を準備していないのももちろんだが、とてもまだそんな気分にはなれなかった。部屋に引きこもって、何をするでもなく過ごす日が続いてしまっていた。こんな姿を見たら蛍様が怒るのは分かっているのだが、この感情にどう折り合いをつけたらいいのかが分からずにいる。



「だーめ!」

「えっ……。」

「兄貴に皆の分の衣装送ってもらったんだ! 明日はパーッと楽しみましょ!」



 百音は私の手を取ってにこにこと笑った。有無を言わせないこの笑顔は久しぶりに見た。



「俺らのも!? ええの!?」

「今更! 可愛いのいっぱい届いてるよ!」

「可愛い!? 俺可愛いのは嫌なんだけど……。」

「じゃあ聖は留守番ね!」

「うぐっ……。」

「百音の方が一枚上手だったってことだ。真白も行かなきゃだね、これは。」

「青まで……。」



 お兄さんたちのご厚意を無碍にするわけにもいかない。



「……分かったわ、私の負け。」



 苦笑してそう言うと、皆は優しく笑った。百音は「腕が鳴るわ!」と楽しそうにしていた。


 翌日、百音は朝から大忙しだった。前日に決めた衣装を私たちに配り、全員のヘアメイクまでやってくれたのだ。好きが高じてとのことだったが、素晴らしいクオリティだった。



「はぁ可愛い! 私ったらいい仕事しすぎ!」



 百音は完成した私たちの姿を見回して感嘆を漏らした。私と百音はお揃いの猫、飛鳥はドラキュラ、聖は王子様、青は僧侶の仮装だ。



「センスええやん百音!」

「へへ〜ん! まぁ私がリクエストしたのは私と真白の分だけなんだけどね! 他は父さんと兄貴が三人に似合いそうなの見繕ってくれたの!」

「ホンマ!? ……王子様…って感じとちゃうやろ……。」

「あ?」

「確かに。王子様はそんな言葉遣いしないね。」



 ひとしきり笑った後、私たちはお菓子をもらうための籠を片手に街へと繰り出した。出会う人皆が仮装を褒め、お菓子をくれた。籠は数時間でパンパンになってしまった。



「もう一つ籠がいるね! 魔法で作っちゃおっか!」

「そうね。」



 百音の提案で、私たちは草属性魔法で籠を作り出した。私が三つ、百音が二つだ。



「百音、魔法使うの上手くなった……?」



 そのスピードに驚いてそう尋ねると、百音はピースしながら言った。



「めっちゃ練習したの!」

「いつの間に……。」

「だって真白に置いて行かれたくないもん! ずっと隣にいるんだから!」

「百音……。」



 じんわりと心が温かくなった。



「俺らかて特訓頑張ってんで! 百音だけちゃうからな!」

「飛鳥……。」

「お前にだけ先に行かれるのは悔しいからな。」

「結構頑張ってるんだよ、僕ら。」

「聖……青……。」

「今成果見せられへんのは残念やけど! 火事になってまうからな!」

「ふ、ふふっ。そうね。」



 こんな人混みで火属性魔法を、それも初心者の飛鳥が使うのは危険だ。暴発する様を想像してつい吹き出してしまった。



「あ! 真白、やっと笑いよった!」

「え……。」

「お前、ここんとこずっと愛想笑いしかしてなかったぞ。」



 指摘されてつい言葉に詰まった。確かに蛍様が亡くなってからずっと塞ぎ込んでいたから、まともに笑っていなかった気がする。



「よ、よかった……!」



 ギュッと抱きついてきた百音が涙声で、つられて涙が出そうになった。



「私……その……。」

「何も言わなくていいよ。僕らも多かれ少なかれ、失くす痛みは知ってる。」



 青がそう笑うから、堪え切れなかった涙が後から後から頬を伝って零れて落ちた。初めて皆の前で泣いた。それを見て、百音はさらに泣いた。



「真白ったら! 私たちの前で泣かないからっ……! 部屋でいつも一人で泣いてるんじゃないかって! うわぁぁあ!」

「お前真白より泣くなよ……。」

「うるさい聖の馬鹿ぁあ!」

「はー?」

「泣いたらええやん! 泣きたいときは泣いたらええ! んで、明日からまた沢山笑お! な!」



 そう笑って、飛鳥は私と百音の頭を撫でた。



「ありがとう、飛鳥。」



 そう笑い返すと飛鳥は嬉しそうに笑った。



「皆も、ありがとう。」



 三人も嬉しそうに笑った。私、なんで幸せなんだろう。まだ守りたいものがこんなにも残っている。失くした痛みは消えない。それでも、まだ手の中にあるものを大切にしながら生きていかなければ。今度こそ、失わないために。


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