14 - 仮装祭
「くしゅっ。」
思わず身震いをする。いつの間にかすっかり寒くなってしまった。腕をさするももちろん温かさは足りなくて、私は側にいた百音にくっついた。
「真白ったら可愛い……! いっぱいくっついて温かくなろうねっ。」
百音がぎゅうぎゅうと抱き締めてくれて、寒さは少しはマシになった。今日は座学だったので体が冷え切ってしまった。こういうとき、体術や武術の授業だと体が温まっていいのに。
「俺も温かいで!」
「どれどれ。」
「あ、青! ちゃうやん!」
腕を広げた飛鳥の胸には青が飛び込んでくれた。聖はそれを見てケラケラ笑っていた。
蛍様の死から一月以上が経った。犯人は捕まっていない。もう犯人を捕まえるのは絶望的だろう。守護隊は未だ捜索を続けているが、いつの間にか首都には平和な時間が戻っていた。
「明日は仮装祭だな。」
ふと食堂の飾り付けを見上げて聖が言った。もうそんな時期か。
仮装祭はその名の通り仮装を楽しむお祭りだ。老若男女関係なく皆が仮装し、子どもたちは近所を回ってお菓子をもらう。そんなイベントだ。
仮装をするといっても大袈裟なものではない。太陽の国の人間が紛れ込んだり、いざという時に即座に対応できないことを防ぐためだ。
「私は留守番してようかしら。」
衣装を準備していないのももちろんだが、とてもまだそんな気分にはなれなかった。部屋に引きこもって、何をするでもなく過ごす日が続いてしまっていた。こんな姿を見たら蛍様が怒るのは分かっているのだが、この感情にどう折り合いをつけたらいいのかが分からずにいる。
「だーめ!」
「えっ……。」
「兄貴に皆の分の衣装送ってもらったんだ! 明日はパーッと楽しみましょ!」
百音は私の手を取ってにこにこと笑った。有無を言わせないこの笑顔は久しぶりに見た。
「俺らのも!? ええの!?」
「今更! 可愛いのいっぱい届いてるよ!」
「可愛い!? 俺可愛いのは嫌なんだけど……。」
「じゃあ聖は留守番ね!」
「うぐっ……。」
「百音の方が一枚上手だったってことだ。真白も行かなきゃだね、これは。」
「青まで……。」
お兄さんたちのご厚意を無碍にするわけにもいかない。
「……分かったわ、私の負け。」
苦笑してそう言うと、皆は優しく笑った。百音は「腕が鳴るわ!」と楽しそうにしていた。
翌日、百音は朝から大忙しだった。前日に決めた衣装を私たちに配り、全員のヘアメイクまでやってくれたのだ。好きが高じてとのことだったが、素晴らしいクオリティだった。
「はぁ可愛い! 私ったらいい仕事しすぎ!」
百音は完成した私たちの姿を見回して感嘆を漏らした。私と百音はお揃いの猫、飛鳥はドラキュラ、聖は王子様、青は僧侶の仮装だ。
「センスええやん百音!」
「へへ〜ん! まぁ私がリクエストしたのは私と真白の分だけなんだけどね! 他は父さんと兄貴が三人に似合いそうなの見繕ってくれたの!」
「ホンマ!? ……王子様…って感じとちゃうやろ……。」
「あ?」
「確かに。王子様はそんな言葉遣いしないね。」
ひとしきり笑った後、私たちはお菓子をもらうための籠を片手に街へと繰り出した。出会う人皆が仮装を褒め、お菓子をくれた。籠は数時間でパンパンになってしまった。
「もう一つ籠がいるね! 魔法で作っちゃおっか!」
「そうね。」
百音の提案で、私たちは草属性魔法で籠を作り出した。私が三つ、百音が二つだ。
「百音、魔法使うの上手くなった……?」
そのスピードに驚いてそう尋ねると、百音はピースしながら言った。
「めっちゃ練習したの!」
「いつの間に……。」
「だって真白に置いて行かれたくないもん! ずっと隣にいるんだから!」
「百音……。」
じんわりと心が温かくなった。
「俺らかて特訓頑張ってんで! 百音だけちゃうからな!」
「飛鳥……。」
「お前にだけ先に行かれるのは悔しいからな。」
「結構頑張ってるんだよ、僕ら。」
「聖……青……。」
「今成果見せられへんのは残念やけど! 火事になってまうからな!」
「ふ、ふふっ。そうね。」
こんな人混みで火属性魔法を、それも初心者の飛鳥が使うのは危険だ。暴発する様を想像してつい吹き出してしまった。
「あ! 真白、やっと笑いよった!」
「え……。」
「お前、ここんとこずっと愛想笑いしかしてなかったぞ。」
指摘されてつい言葉に詰まった。確かに蛍様が亡くなってからずっと塞ぎ込んでいたから、まともに笑っていなかった気がする。
「よ、よかった……!」
ギュッと抱きついてきた百音が涙声で、つられて涙が出そうになった。
「私……その……。」
「何も言わなくていいよ。僕らも多かれ少なかれ、失くす痛みは知ってる。」
青がそう笑うから、堪え切れなかった涙が後から後から頬を伝って零れて落ちた。初めて皆の前で泣いた。それを見て、百音はさらに泣いた。
「真白ったら! 私たちの前で泣かないからっ……! 部屋でいつも一人で泣いてるんじゃないかって! うわぁぁあ!」
「お前真白より泣くなよ……。」
「うるさい聖の馬鹿ぁあ!」
「はー?」
「泣いたらええやん! 泣きたいときは泣いたらええ! んで、明日からまた沢山笑お! な!」
そう笑って、飛鳥は私と百音の頭を撫でた。
「ありがとう、飛鳥。」
そう笑い返すと飛鳥は嬉しそうに笑った。
「皆も、ありがとう。」
三人も嬉しそうに笑った。私、なんで幸せなんだろう。まだ守りたいものがこんなにも残っている。失くした痛みは消えない。それでも、まだ手の中にあるものを大切にしながら生きていかなければ。今度こそ、失わないために。




