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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第一章

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13 - 蛍の置き土産

 翌日、蛍様の葬儀が営まれた。秋には多様な空がある。今日の空は、まさしく秋晴れだ。日差しの柔らかさから、もう夏でないことが分かる。秋独特の寂しい空だ。ポッカリと広がった青空は、どこまでも続いているように感じられた。



「殺されたそうよ。」

「恐ろしいことだ……この首都のど真ん中で……。」



 参列者のそんな囁きが聞こえてきた。



「犯人は捕まったのか?」

「それがまだらしいわ……。」

「なんだって!? じゃあまだこの首都に太陽の国の連中がいるかもしれないってことか!?」



 思わず振り向くと発言したと思しき男性と目が合った。彼は気まずそうにすぐに目を逸らした。まだこの中に、蛍様を殺した犯人がいるかもしれない……。ぐるりと参列者を見渡してその数の多さにただ圧倒された。守護隊参謀は言わば国のナンバー2だ。葬儀は国葬として扱われているため、参列者は国中から押し寄せている。

 無理だ。この中から犯人を見つけ出すなんて。首都の出入りも普段より活発になっている。見知らぬ顔がいたところでそれを怪しむことすらできない。太陽の国の人間を見分ける方法はただ一つ。右腰に入った太陽の国のマークだけ。無理だ……。胃がずしりと重くなった。


 近親者として参列させてもらえた私は、直接蛍様の棺に花を手向けることができた。不謹慎だが、美しくて神秘的だった。お別れが済んだら月桂樹の丘に埋葬される。ここから先はより親しい人たちのみの時間だ。

 私は一足先に教会を後にした。こんな日には何もやる気が起きない。強いて言えば犯人探しをしたいところだが、容疑者が多すぎる上、総隊長に啖呵を切った手前動きにくい。何となく足を向けた月桂樹の丘のベンチには、先客がいた。



「総隊長……。」

「真白か。」



 昨日の今日だ。少し気まずい。立ち尽くす私に、総隊長は柔らかく笑んだ。昨日のような殺気は感じられない。



「お掛け。」



 そう言って隣に座るよう促された。恐る恐る腰掛けた私に、総隊長は言った。



「昨日はすまんかったのぅ。気が動転しておった。」

「いえ……。」

「止めてくれたこと、感謝する。ありがとう。」



 総隊長は蛍様を彷彿とさせる優しい笑顔を浮かべた。



「もしかしたらあの婆、お前を儂に遺したのかもしれんのぅ……。」

「え……?」

「昨日お前が言ったこと。『やり返したって死者は生き返らない』。ありゃ蛍がずっと儂に言うとったことまんまじゃった。」

「……。」

「衝突なくしてこの戦いが終わることはなかろう。じゃが、それは今ではないな。一時の感情で動くのは危ういのぅ。」

「……はい。」

「さて。あの婆が守りたかったものを、儂ももう少し守ってやるとするかのぅ。」



 そう笑って総隊長は立ち上がった。ちょうど蛍様の棺が墓地に運び込まれて来たところだった。総隊長はそのままそちらに向かうと葬列に合流した。

 入れ違いで丘を登って来たのは八雲だった。隊服を着ているところを見るに、犯人探しと警戒の任についているんだろう。八雲はベンチの傍らで立ち止まって柔らかく笑んだ。



「少しは眠れた?」

「泣き疲れて……少し。」

「そっか。」



 八雲は葬列に目を向けた。



「ここにいていいんですか?」

「今日はとんでもない人数が駆り出されてるからね。気を抜きすぎなければ大丈夫だよ。」

「そうですか……。」



 それ以上言葉が見つからなくて、私はそっと目を閉じた。瞼が腫れぼったくて熱い。昨日から沢山泣いたから、この晴れ空と空気が心地良い。ふと息を吐くと、緊張が少し解けた。



「……昨日。」



 ポツリと静かに八雲が言った。



「総隊長を止めてくれて、ありがとう。」



 そっと目を開いてそちらを見やると、こちらを見ていた八雲と目が合った。八雲はゆっくりと視線を外して、葬列に目を向けた。



「……俺は何も言えなかった。本当は俺が止めなきゃなのに……、情けないね。」



 一瞬、風が強く吹いた。やけに八雲の背中が小さく見えて、私は思わず彼の手を握った。違う。



「私、怖かっただけです……! 大切な人を失いたくなくて、ただ逃げただけです……!」



 失う怖さを、目の前で奪われる恐怖を知っている。私はもうあなたを失いたくなくて。皆を失いたくなくて。ただそれだけだった。戦う勇気がなかっただけだ。



「……それを、忘れるんじゃないよ。」

「……!」



 八雲はこちらを振り向くと、私の手を強く握り返した。硬く無骨な手だった。



「それはお前を守ってくれる。今回、俺や月の国全体は、それに救われたんだ。恥じることじゃない。」

「っ……! でも私っ、そのせいで蛍様の仇に逃げる隙を……!」



 昨日あんなに泣いたのに、涙というのは枯れないものなんだろうか。堰を切ったようにボロボロと零れ落ちる涙を服の袖で必死に拭うも、後から零れて追いつかない。

 時間が経てば経つほど、追跡は難しくなる。もう既に犯人は首都から遠く離れてしまっている可能性だってある。私が総隊長を止めたせいで。

 憎まず恨まず、復讐を望まないなんて到底無理な話なのかもしれない。けれどそれは蛍様の教えに反する。相反する感情で板挟みになって、もうぐちゃぐちゃだ。



「ごめん。」



 八雲はポツリと呟いた後、私をそっと抱き寄せた。



「ごめん、真白。」



 その腕は微かに震えていた。けれど私を抱く腕は強くて温かかった。八雲の匂いが鼻腔を掠めた。ああ、大好きな匂いだ。私は八雲にしがみついて声を上げて泣いた。

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