11 - 守護隊見習い、始動
夏季休暇が明け、夏の暑さが残暑と呼ばれるようになった。空の模様もいつの間にか夏より秋に近づき始めている。もうすぐ訓練所生活も半分が終わろうとしている。
「久しぶりね、真白。今日は座学的な部分よ。」
「よろしくお願いします。」
今日は守護隊側での訓練の日だ。基礎的な部分が多く、最初は座学が多めらしい。担当してくれるのは、八雲に保護された直後に病院でも担当してくれていた睡蓮さんだ。
「元気そうで安心したわ。まさかこんな形での再会になるとは思わなかったけど。」
「私もです。」
「改めて、月の国守護隊第四隊所属の睡蓮よ。」
「睡蓮さんも守護隊員なんですね……。」
「そうよ。第四隊は医療に特化した隊だから、病院運営にも携わってるわ。」
事務方はまた別の隊が担当しているらしいが、施術の担当は第四隊で担っているらしい。
「まず戦うときの基本スタイルね。実戦に出るときは口元が隠れるハイネックのケープの着用が必須よ。なぜか分かる?」
「相手に唇の動きから技を予測されないため。」
「正解! 技名の詠唱を省略するとどうしても効力が落ちるから、戦場ではなるべく省略しないのがベターよ。他に服は黒。肌色は自然界では明るくて目立つから、露出はほぼ禁止ね。靴は指定のラバーソールの物があるから、それを着用よ。」
実戦……か。出ることがなければそれが一番いい。けれどこの国に生きる以上、そんな甘えたことは言っていられないだろう。私は首元のネックレスのチャームをグッと握り締めた。
「はい、真白が今握り締めているそれは何でしょう。」
「…ドッグタグネックレスです……。」
「正解。肌身離さずつけておいてね。」
この訓練に参加するようになってすぐに渡された物だ。月の国の紋章と名前が刻まれているそれは、戦死した際に身元を証明するための物だ。ただのネックレスにしては重すぎる。こんな物が必要だなんて、ただ悲しくなる。
「あとはー、実際に任務に赴くときは必ず第四守護隊の人間をチームに組み込まないといけないの。これは知ってる?」
「いえ……。」
「例えば四人でチームを組む場合、一人は必ず第四守護隊の人間を組み込む必要があるわ。これはわりと最近決まったルールなんだけど、生存率が跳ね上がったのよ。」
「そうなんですか……。」
「まぁ当たり前ではあるんだけどね。ちなみにどれもこれも、八雲の提案よ。」
「え…。」
医療系の魔法について考えを巡らせ始めていた私は、思わぬ情報にパッと顔を上げた。恐らく間抜けな顔をしていただろう。
「やっぱり知らなかったのね。」
「そういったことは全く……。」
「そりゃそうよね」と笑うと、睡蓮さんは私の隣に腰掛けた。彼女との歳の差はいくつなんだろうか。大して変わらないはずなのに、こう……特に胸元の色気が違う。何というか、大人だ。以前入院したときと同様、ついそんなところに気を取られてしまう。
「私、八雲とほぼ同期なんだけど、アイツ優秀だから……昔から前線に送られがちでね。その度にこう変えたら、ああ変えたらって意見して、気づいたら生存率爆上がりよ。」
「そうなんですか……。」
八雲は優秀だ。それが幼い頃からなのであれば、どうしたって前線に送られてしまうのだろう。それで成果が上がっているのは喜ばしいことだが……。
「ねぇ、真白から見てどう?」
「え?」
「アイツ、最近少し変わったように見えない?」
「えぇ…。」
正直、訊く相手を間違えているとしか言いようがない。私の目には対して代わりなく見えるし、そもそも八雲とは知り合って日が浅く、親密度も低い。私がどうこう言えた立場ではない。
「なんか最近少しホワッとしてんのよね。」
「ホワ…?」
「前はそんな瞬間なかったのよ。ずっと眉間に皺寄せてて、ジトーッとしてて。」
「ジト…。」
「でも最近、たまにホワッとすんのよね。」
「ホワ…。」
「アイツが心安らげる瞬間があるってことかしら。」
そう笑う睡蓮さんはとても嬉しそうだった。睡蓮さんは私に向き直るとニッコリと笑った。優しい笑顔だった。
「真白、ありがとう。」
「私……ですか?」
「うん。まぁそういうことにしとこ。」
睡蓮はそう言って立ち上がると、勢い良く手を叩いた。
「さて、そんなわけで医療魔法の練習よ!」
私は首を傾げながら睡蓮さんに続いて立ち上がった。
それから医療魔法の基礎を教えてもらった。医療魔法を使うには、水、草、土の属性魔法を使える必要がある。いわゆる人体の構成要素に近しい属性だ。これをうまいこと掛け合わせて使うのだ。うまくすれば薬になり、毒にもなる。人体の直接の修復まで行えてしまうのだから、医療魔法は実はとんでもない分野なのだ。
「医療魔法は科学実験に近しいわ。あれ、化学かしら。なんでもいいけど、もはや魔法って感じじゃないわね。大元の属性から派生させて採集して、それを加工して、欲しい反応を引き起こす……って感じなの。第四隊の人間は、第一隊とはまた別のエリート軍団ってわけ。」
そう言って睡蓮さんは誇らしげに笑った。
「座学知識だけでも実戦で大いに役立つわ。ちょっとずつやっていきましょう。」
「はい。」
すでに心が折れそうだ。こんなに難しいのか。私は気合を入れ直して睡蓮さんに向き直った。




