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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第一章

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9 - 星送りの日

 夏の日差しが眩しくて目が痛い。見上げれば空は青々としていて、太陽の位置は遥か上空だ。蝉の鳴き声が鬱陶しく感じる。



「痛っ。」



 馬車が石に乗り上げた拍子に頭をぶつけた。少ししょんぼりしながらそこを摩る私に百音が苦笑した。



「そろそろ舗装されてない辺りに差し掛かるから、頭気をつけてね!」

「うん。ついウトウトしちゃった。」

「俺の肩使うてええで!」

「サンキュ、借りるわ。」

「あ! 俺は真白に言うたんやぞ!」



 ギャーギャーと言い争いを始めた飛鳥と聖を横目に、服の胸元に風を通した。


 夏季休暇がやってきた。まずは百音の実家にお世話になって、次に飛鳥の実家にお世話になる予定だ。今は百音の実家に向かっている道中で、首都から出ている乗り合いの馬車に揺られている。天幕はついているし、座席にはクッションも置いてあるのでかなり快適だ。とはいえ暑いものは暑いし、長旅なのも事実だ。



「朝から乗ってるけど、まだかかるんだよね。」



 青がお尻を摩りながら尋ねた。青は長身の痩せ型なので、腰とお尻へのダメージが激しいようだ。



「残念ながら今日は野宿ね。明日の昼には着くと思う!」

「僕の実家よりは近いけど、百音の実家もなかなか遠いね。」

「そうね。まぁ道中一人じゃないだけラッキーかな!」



 そう笑うので、私たちもつられて笑った。確かにこの道を年端もいかない女の子が一人は厳しい。その場合はご家族が迎えに来ていたとのことだった。聖はふと思い出したように顔を上げて私を見て言った。



「そういえば、守護隊の訓練に参加すんのって夏季休暇から戻ってからか?」



 あの後、寮に戻ってすぐ皆に報告した。皆喜び、応援してくれた。



「うん。」

「ふぅん。やっぱり羨ましいな、くそ。」



 聖は相変わらず口は悪いけれど、以前のような嫌悪感は感じられなくなった。



「アンタも頑張りなさいよ〜!」

「んだよ、百音も守護隊目指してんだろうが。」

「まぁね!」

「にしても、守護隊の訓練って俺らの訓練とどう違うんやろ!」



 飛鳥の疑問はもっともだ。守護隊はいくつかの隊に分かれて実務にあたっているが、私はまだどこにも配属されないので、週替わりで各隊の訓練に参加させてもらうことになっている。



「レベルが違うのは大前提として、各隊で訓練の特色も異なるだろうからだいぶ違うんじゃないかしら……。今の訓練って基礎的だし……。」



 一周目で見習いをやっていた頃はそれなりの任務に行かせてもらっていたけれど、それもそこそこ年数が経ってからだった。経緯が違うとはいえ、すぐの実戦はないだろう。



「真白がいない日が出てくるなんて寂しい〜! でも喜ばしいことよね! 悩ましい〜!」

「向こうで教わったこと、俺らにも教えてーな!」



 こう言ってもらえるのが非常にありがたい。どうしても妬みも出てくるものだから、どんな手を使ったんだという噂も少し耳に入っている。けれど百音、飛鳥、聖が「真白の実力を見てから言え!」と言い返してくれているので、私はあまりそれに心を砕かずにいられた。青は何も言いはしないが、欠片も温度のこもっていない笑顔を相手に向けている。正直なところ、一番怖い。



「あ! 守護隊行きよったら、俺の姉ちゃん探してみて! 俺と同じおさげしとるから!」



 そう言いながら飛鳥は顔の横の編み込みに触れた。確か村の風習で伸ばしていると言ってたはず。



「見つけやすそう。探してみるわね。」

「おう! あと同郷の(ごう)って人もおる! その人はもしかしたら街で会えるかもしれん!」

「そうなのね。」



 意外と守護隊員との繋がりって出てくるものなんだなぁ。



「百音や青たちも守護隊に知り合いっているの?」

「私はいない! 昔所属してたって親戚はいるよ〜!」

「僕も今はいないよ。」

「そうなのね……。」



 その日は業者の人や乗り合わせた人皆で鍋を囲んで、星空の下眠った。野営の訓練と同じだ。同じだけど、皆と一緒というだけで嬉しくて楽しくて、私はいつまでも星空を眺めていた。



 *



 翌日昼頃、百音の実家がある街に到着した。街は活気があって賑やかで、まるで小さな首都のようだった。百音のご両親は停留場まで迎えに来てくれていて、百音を見つけた瞬間顔を綻ばせた。まさに破顔だった。



「百音〜! 会いたかったぞ!」

「おかえりなさい!」



 二人に抱き締められた百音は照れ臭そうに、けれど嬉しそうにそれを受け入れていた。二人はもちろん私たちも歓迎してくれた。



「君が真白ちゃんか! いっつも百音の手紙に書いてあるよ!」

「ほーんとうにお人形さんみたいに可愛いわねぇ! サラサラの金髪に緑の瞳! 想像してたまんまだわ!」

「でしょ!? その上成績も優秀なんだから!」



 こんなに一気に褒められたことがないので、つい反応に困ってしまう。そんな私を見て飛鳥は盛大に笑った。



「照れとる! 可愛えなー!」

「あ、飛鳥まで止めてよもう……!」



 *



 翌日、街は昨日より何だか活気づいて見えた。朝食をいただきながら不思議に思っていると、それに気付いた百音のお母さんが「今日は星送りの日だからよ」と教えてくれた。



「星送りの日か…。」



 なるほど、道理で賑やかなわけだ。故人に対して遺族が息災であることを報告するという伝統行事なのだが、その風習は地域によって異なる。



「この街ではもうお祭り騒ぎになっちゃうのよね! 街の伝統衣装を着て、夜には灯籠を空へ飛ばすの! 素敵なのよ〜!」

「へぇ……!」

「もちろん真白ちゃんのも、飛鳥くん、聖くん、青くんの衣装も用意してあるからね!」

「え!? 俺たちのも!?」



 慌ててご両親を振り返ると、二人は有無を言わさない笑顔だった。



「せっかくだもん、皆で楽しもう〜! ねっ、真白!」



 上機嫌な百音に抱きつかれて、私は少したじろいだ。この親にこの子あり、だ。納得。



「た、楽しみ。」



 やっとそう笑うと、百音は楽しそうに笑って「腕がなるわ〜!」なんて言っていた。



「そういえば百音の兄貴はいねぇのか?」



 聖の言うように昨晩はお会いできなかった。どうやら仕事でバタついていたらしい。そんな話をしていると、奥から青年がやって来た。



「あ! 兄貴! ちょうどいいところに!」



 百音に手招かれて青年──百音のお兄さんは百音の側に立つと、皆の方を向かされた。



「こちら兄貴です! 今は父さんの店の手伝いをやってるの!」



 すぐに状況を把握したらしい百音のお兄さんは完璧な笑顔をその顔に浮かべた。百音の実家は呉服屋を営んでいるらしく、お兄さんはその跡取りなんだとか。



「百音の兄貴です。百音の手紙でよく聞いてるよ! 真白ちゃん本当可愛いね〜!」

「兄貴、その下りもうやった。」

「はは、やっぱり? 今日は衣装の貸し出しで忙しくて、祭りが始まるまで俺は仕事なんだけど、ぜひ楽しんでってくれな!」



 そう笑う顔は百音にそっくりで、何だか心が温かくなった。



「よし! 早く食べて衣装選びに行こ! 可愛いやつは争奪戦だからね!」



 そう笑った百音に促されて、食事を終えてすぐに百音の実家が営む呉服屋にやって来た。可愛い衣装がたくさんで目移りしてしまう。白地の布に黒と金を基調とした刺繍が施されており、差し色として使われている色が異なるようだ。つい口を開けて感嘆を漏らしていると、それを見た聖に笑われてしまった。結局各々髪や瞳の色に合わせたデザインの衣装に決めた。百音はピンク、飛鳥はオレンジ、聖は紫、青は藍色だ。



「真白は緑にしたんだね! 瞳の色!」

「うん。」

「そういえば八雲さんと瞳の色お揃いじゃない!?」

「……そう、かも…。」



 あまり気にしたことがなかったけれど、確かに同じのような気がする。そうか、同じなのか。



「自分の色が想い人の色でもあるなんて素敵〜!」



 頬を染めながらそんなことを言う百音は完全に乙女だ。そんな風に言われると、緑が少し特別な色に思えてくる。思わず笑みが溢れた。



「やだ真白ったら! 可愛い〜!」

「や、やめてっ。」



 揶揄われて慌てて両手で頬を隠した。百音には到底敵わない。

 その後は皆で市街地を観光した。珍しい物を食べたり、特産品を見たり、スイーツを食べたり。そして日暮れ頃、百音のご家族と合流した。


 この地域では、一家族で一つの大きい灯籠を上げることが多いのだそう。皆一緒に元気にやっているよという意味を込めて。

 星送りの日は家族の行事だ。なんだか気が引けて、私は百音の家族から少し離れた所で灯籠の灯りを眺めていた。



「俺ら、大きい灯籠もらった方がよかったかな。」



 不意に隣に立っていた聖が呟いた。そちらを見れば、悲しげな顔をして手元の灯籠を見つめていた。



「……大きさなんて関係ないわ。」



 私たちが手渡された灯籠は、両手で持てるほどの可愛らしい大きさだった。大きな灯籠を上げるのは必ずではない。きっと必ずじゃないのは、遺された人が一人の場合があるからだ。



「私は不謹慎で、上げていいのか分からないわ。」



 誰に向けて私は元気だと伝えるのだろうか。私の無事を喜ぶ人がこの空にいるんだろうか。そんな私の嘲りを青が否定してくれた。



「不謹慎なわけないよ。死んだら人は星になって見守っててくれるんだから。その人はきっと、真白からの報せを待ってる。」

「……そうかしら。」

「僕もね、兄さんが死んでるんだ。病気でね。でも歳が離れてたから兄さんの記憶がなくて。それでもきっと、見守っててくれてると信じてる。」



 そう言った青の表情は穏やかで優しかった。先日聖に打ち明けて以降、飛鳥と青にも村や親の記憶がないことを打ち明けた。そのときも青は穏やかで優しかった。その理由がやっと分かった。


 高い笛の音が会場に鳴り響いた。それ合図に灯籠を空へと放った。真っ暗な空に星が散らばって優しく瞬いている。そこに向かって大小さまざまな灯籠がどんどん昇っていく。美しい光景だった。無意識に涙が頬を伝った。


 この国には大切な人を失った人が多すぎる。けれど悲しみに囚われることなく前に進んでいる。皆逞しい。

 私は八雲を死なせないために生きると決めた。八雲を守って、総隊長も守ろうと。だけどこの数ヶ月で、守りたい人が増えた。皆のことも守りたい。皆の家族も、その知り合いも守りたい。それは国を守りたいという思いへと繋がり始めている。そんな大それたことができるのか分からない。けれど少しでも、この悲しみの連鎖から皆を解放したい。そう思った。


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