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月桂樹をあなたに捧げましょう  作者: 弥生あやね
第一章

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8 - 守護隊見習い

 その日の放課後、私は急遽先生から呼び出されていた。指定された場所は守護隊隊舎だった。そっと隊舎のドアを開いて中に入ると、広がる光景が懐かしくて思わず建物内をぐるりと見回した。



「真白!」



 声の主は進先生だった。奥から駆け足でやって来た先生はいつも通りで、それに少し安心した。どうやら知らず知らずのうちにかなり緊張していたらしい。



「呼び出して悪いな。」

「いえ。それより何かありましたか……?」

「話は移動してからだ。」



 先生に促されて後をついて行く。階段を上って、上へ奥へと進んで行く。そして辿り着いた重厚な扉。ここは総隊長の執務室だ。先生が扉をノックすると嗄れた声で返事があった。



「失礼します。」

「失礼します……。」



 先生に続いて室内に入ると、そこには総隊長と蛍様がいた。



「そなたが真白か。」



 総隊長に問われて「はい」と返事をする。総隊長、お元気そうだ。一周目の記憶の中の姿と変わらないその姿にひどく安心した。

 彼は一周目の私の親同然の人物だ。一周目での私はやはり幼い頃に両親を亡くし、首都で盗みを働いて暮らしていた。総隊長に目をかけてもらって守護隊見習いとして育ててもらった。



「儂は月の国守護隊総隊長の足心(あさね)じゃ。よろしくのぅ。」



 そう笑う姿は好好爺のようだが、歴戦の将であるこの人はまごうことなき月の国最強の戦士だ。少し緊張して歯を食いしばったタイミングで、部屋の扉がノックされた。



「失礼します。あれ、遅くなっちゃったかな。」



 そう声をかけて部屋に入って来たのは八雲だった。八雲は私に目配せすると、いつものように優しく微笑んだ。



「いや、丁度良いタイミングじゃ。さて真白。前においで。」



 総隊長に促されて、そろそろと総隊長の前に歩み出た。なんだこのメンツ。この状況。何かやらかしてしまったんだろうか。まさか二周目がバレて、あらぬ疑いをかけられているとか……。そんな私の不安はあっさりと否定された。



「進と八雲から話は聞いておる。そなた、強いそうじゃな。」



 ホッとしたのも束の間、単刀直入な物言いに言葉に詰まる。最強の戦士に「はい、そうです」なんて言えないし、謙遜するのも何か違う気がする。私は困惑したまま縮こまった。



「進から提案があってな。そなた、守護隊に入らぬか。」

「えっ…!」

「力が突出しすぎて、訓練所では訓練になっておらんじゃろう。」



 総隊長は手元の資料をパラパラとめくった。詳細は見えないが、恐らくあれは私たちの成績だ。チラリと進先生と八雲を見ると、二人とも苦笑していた。守護隊に入れるのは願ったり叶ったりだ。だが……。



「なんじゃ、そなたは守護隊希望と聞いとったんじゃが、違ったかの。」

「いえ、そんなことは…! …ただ……。」

「なんじゃ、言うてみよ。」

「もう少し、皆といたいんです……。あ、甘えたことを言っているのは分かってるんですけど……!」



 胸の前で手を握り締めると、ふわりと目尻に涙が滲んだ。



「ふむ。なるほどのう。」



 一周目でも早くに守護隊見習いになったものだから、仲間はいたが友達はいなかったのだ。それもこんなに親しくしてくれる人たちは……。



「進、お前はどう思う。」

「他の子にとって良い刺激なのは間違いありません。ただ、真白の訓練になっていないというのも事実ですね。」

「ふむ……。お前はどう思う、八雲。」

「守護隊の現場的には大歓迎です。いつだって人手不足なので。小さい子は見習いとして所属してたりするし、真白もそれでいいんじゃないですかね。」

「そうじゃのぅ……。両方を行き来するっちゅうのはどうじゃ、真白。」



 話が戻って来て、私は困惑して首を傾げた。両方を、行き来?



「基本的には訓練所で訓練し、守護隊見習いとして守護隊の訓練にも参加する。宿舎は卒業までは今のままでよい。どうじゃ?」



 それなら早く八雲に追いつきたいという私の我が儘も、まだ皆といたいという我が儘も叶う。



「い、いいんですか……?」



 思わず目を輝かせて問うと、四人は顔を見合わせて笑った。



「決まりじゃな。」

「よかったな、真白!」

「はい! 先生、ありがとうございます!」

「待ってるよ、真白。」

「八雲さんもありがとうございます!」



 嬉しい。もっともっと頑張らなければ。



「うはは。そなた、そんなに喜びを露わにできる娘じゃったか。」

「あっ……。」

「よいよい。娘を見ているようで良い気持ちじゃ。励むのじゃぞ、真白。」

「はい! ありがとうございます!」



 部屋の隅で椅子に座っていた蛍様も立ち上がってこちらに歩み寄って来た。



「よかったのぅ、真白!」

「ありがとうございます、蛍様!」

「ほっほっ。こりゃ〜大事にしてやらにゃいかんねぇ。」



 私の肩をバシバシと叩くと、蛍様は元いた部屋の隅へと戻って行った。



「さて、これから忙しくなるぞ真白。心せよ!」

「はい!」



 八雲の隣に立つに相応しい女性になるべく、より一層頑張らなければ。

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