表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

4(レオンside)

事務手続きで訪れたのは、王宮図書室の司書――ノア・エルフィリア。


寡黙で感情の起伏は少ないが、芯の強さと観察力を感じさせる少女。幼馴染であるカイル・バルゼンの婚約者だ。


「手続き、ありがとうございます。……急いでいたので、助かりました。」


「問題ない。それより。」


ふと、以前から気になっていた名前を口にする。


「レイとは、知り合いなのか?」


ノアのまぶたが、ほんのわずか揺れた。顔の表情はほとんど変わらない。だが、空気の中に、ほんの少しだけ“言葉を選ぶ迷い”が混じったのを見逃さなかった。


「……ええ。カイル様と仲もいいですし、…気さくで、今ではよく話す友人です。」


あくまで当たり障りのない返答。けれど、その言い方に、レオンは妙な引っかかりを覚えた。


「彼のことを、どう思う?」


不躾な問いだとわかっていた。だが、それでも聞かずにはいられなかった。


ノアは少しだけ目を伏せてから、静かに言った。


「……笑っていることが、多いですよね。レイ。」


「そうだな。」


「でも……あの笑顔、見てると、時々……怖いなって思うんです。」


その言葉に、レオンは目を細めた。


「どうしてそう思う?」


ノアは答えなかった。けれど、その代わりに小さくつぶやいた。


「――あれは、自分の気持ちじゃない。」


それだけ言って、彼女は視線を戻してきた。その瞳の奥に、妙に澄んだ“確信”があった。まるで、何かを“見た”ことのある者のような。


(……やはり何かが見えているのか。)


ノアの観察力、『自分の気持ちじゃない』という言葉、見えているのは――人の感情?それもかなり正確に見えていそうだ。


そして、あの夜のレイの姿が思い出される。何もない空間で、頭を抱えて“誰かの声”を振り払うように苦しんでいたあの姿。もし他人の感情を――感じているのだとしたら。ノアの言葉にも説明がつく。

レイのあの笑顔は、自分を保つための仮面だったのかもしれない。


「……あいつは、“感じすぎる”側か。」


呟いたその言葉に、ノアは何も言わなかった。ただ、ほんの少しだけ目を伏せた。


****


それからしばらく暇があれば騎士団へ足を運んだ。たった一人を気にするなんて俺らしくない。でも、どうしても笑顔で隠す理由が知りたかった。


調べてみて分かった。彼は天涯孤独なのだ。頼り方を知らない。無償の愛をくれる家族がいなかった。


(そういう事か…。)


彼は好きでああしている訳では無い。ああならざるを得なかったんだ。

能力を得た時は、普通だったら十歳の祈りの儀か。平民の能力者は本当に稀だと聞く。孤児院では受け入れられなかったか、軽くあしらわれたか。どちらにしろ真剣に聞いてくれる大人などいなかったのだろう。


(なんて苦しい生き方をしている。)


孤児だった彼が騎士になるのには、相当な努力をしたはずだ。衛兵なら平民でも比較的簡単になれる。しかし騎士は見習いさえも狭き門なのだ。それなのに彼は今一個隊の副隊長だ。たとえ才能があったとしても、ちょっとやそっとの努力では不可能だと言える。

彼は不真面目なんかでは無い。かなりの努力家だ。


(王子様の仮面の下は傷だらけか…。)


俺が彼にしてあげられることは何かあるのだろうか。不憫に思った訳でも、哀れんでいる訳でもない。ただ、一人で頑張る彼を支えたいと思った。ただ、彼の努力を褒めてあげたいと思った。それだけだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ