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「ねえ副隊長、最近やたら王宮の文官殿、顔出してません?」


昼休みの雑談の中で、そんな声が聞こえた。


「確かに。しかも副隊長と話すとき、なんか優しくない? あの人、普段あんな顔してたっけ?」


「ていうか、レイさんだけ敬語使われてないのおかしくない? あれ、絶対……。」


「いやいや、まさか。……え、まさか?」


「まさか、って……副隊長、付き合ってるんですか?」


グレイスは、カップを口元に運んだまま、動きを止めた。


「は? 誰と?」


「誰って、レオン・クラヴィスですよ! あの宰相候補の!」


盛大に噴きそうになった。


「ないないないない! なんだその怪情報!」


「え〜? でもこの前、レオン殿が副隊長の帰りに付き添ってましたよね?」


「しかも、“寒くないか?”ってマントかけてたって聞いたし。」


「あれ、完全に“恋人の距離感”じゃないですか?」


「しかもあの人、最近ずっと第三部隊ばっか来てない? それって……。」


「いやだからっ!」


 グレイスは椅子をきぃっと引いて立ち上がった。


「ほんっとに何でもかんでも恋愛に繋げるの良くないよ!俺は王子様なの!」


そう言い放って席を立ったのに、内心はひどくざわついていた。


(……待って、これ、あいつわざとじゃないよな?)


このところ、何気ないようで距離が近い。視線も、言葉も、誰よりも優しい。それは気付いていた。けれど決して“付き合ってる”なんて言わないまま、周囲には“そう思わせている”?


(……あいつっ!)


仮面を崩さずにいた自分が、囲われていくような感覚。それに、気づいているのに――どこか、嫌じゃないと思ってしまったことが、何より悔しかった。


****


(……このままじゃ、ほんとに捕まる。)


心のどこかでそう思ったのは、あの日以来ずっとだ。レオンが自分のことを「好きだ」と言い、その感情が、ただの一瞬の衝動じゃなかったと分かったときから。


だから、少しずつ距離を置くようにした。話す回数を減らして、書類も他の隊員に渡してもらい、視線が合いそうになれば逸らした。


(これで、少しは……。)


だが――


「第三部隊、今日の報告は私が直接聞こう。書類もその場で確認する。」


王宮に届く連絡書の差出人が、いつの間にか全部“レオン・クラヴィス”に変わっていた。


「副隊長、王宮からの使いが来てますよー。あっ、クラヴィス殿!」


「偶然だな。詰所に用があって寄っただけだが……レイがいるならついでに話をしよう。」


通りすがりのはずのレオンは、なぜか毎回こちらを見つけ出す。訓練日程、巡回当番、提出日。すべて把握されている気がする。


(……おいおい、ちょっと待って、なんで知ってんの。)


誰にも言ってない。共有もしてない。なのに、レオンは毎回、“タイミングよく”現れる。


まるで、自分の動きを全部、読まれているみたいだ。


(まさか……いや、でも……。そんなこと出来るはずが。)


気づいたときには、もう遅かった。距離を取ろうとしたはずなのに、いつの間にか“逃げ道”がなくなっていた。完全に囲い込まれている。


ある日の夕方、レオンが訓練後の詰所にふらりと現れた。


「今日は、逃げないのか?」


「……」


言葉に詰まった自分を、レオンは静かに見下ろしていた。優しい目のまま、だけど決して“逃がす気はない”ことだけは伝わってくる。


「どうしてそんなに俺を囲い込むんですか。」


「囲い込んでるわけじゃない。……君を離したくないだけだ。」


その言葉が、思っていた以上にまっすぐで、抗えないことを、ようやくグレイスは悟った。

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