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文化祭?何それ美味しいの?

「さて、皆さん。遠足も終わり、夏休みが近づいて来ていますよね。」


そう言って、学級委員長の新宮あまねと、もう1人の学級委員の男子が黒板の前に立っていた。先生は教室のドアの近くに立っていて、学級委員の2人を微笑ましそうに見ていた。


「ですが、夏休みが近づくということは……?」


もう1人の学級委員が言った。


すると、クラスのうるさい男子たちが


「文化祭が近づくーー!!ギャハハ!」


と大きな声で言った。その途端に、クラスの皆がわぁっと騒ぎ出した。その間、僕はというと、こう思っていた。


(はぁ、文化祭なんて何が楽しいんだか。)


僕の学校では、夏休みが明けてから約1週間後に文化祭がある。大勢の人が、ワイワイと騒いでいる中を過ごすなんて、何が楽しいのだろう。


「はーい、静かにね〜!皆んな分かってると思うけど、高2は毎年演劇をすることになっています!そこで、早速ですが、係を決めちゃいましょう!第3希望まで決めたら、私か藤堂くんに教えてね〜!」


そう新宮さんが言うと、皆んな一斉にガタガタドタバタ、自分の机から離れる。そして、どの係にするか友達と話し合っていた。僕はそんな中、自分の机から離れず、ぼうっとしていた。それに気付いたのか、新宮さんが僕のもとに近づいてきた。


「佐藤くんは、何かしたい係とかあるの?」


「いや、特には……」


そう返事をしたが、それがまずかった。


「そう?じゃあ皆んなどんどん決めていってるけど、佐藤くんはどれになっても良いの?」


「強いて言うなら、小道具…とかですかね」


(キャストとかは嫌だけど)


そう思いつつ、このクラスにはキャストしたそうな奴いっぱいいるんだから、と高をくくっていた。


何度でも言う。それが、間違いだった。


―――――――――――――――――――――――


「はーい、じゃあ、皆んなの希望をもとに係を決めました〜!」


そう言って、新宮さんは手元の紙を見ながら、次々に係と、選ばれた人の名前を読みあげていく。


「よっしゃ」「ああ、第一希望通らなかった〜」


そんな声が教室のあちらこちらから聞こえてくる。


そんな声を横目に、僕は新宮さんを見つめていた。大きな声でハキハキと話す、その声に耳を澄ました。これまで、監督、脚本、音響、大道具が呼ばれていた。そこまでで、21人。僕のクラスは40人だから、大体半分が呼ばれ終わったことになる。もちろん、僕の名前はまだだ。


「次は、小道具です。」


(…来た!)


「木野瀬、櫻井、堀井、」そう言って順々に名前を呼んでいく。10人呼ばれたところで、新宮さんが


「次は、キャストです。」


そう言った。


(……!?)


僕の名前が呼ばれなかった。確かに、強くは希望しなかった。しくじったと思った。ここまでで、クラスの4分の3は呼ばれた事になる。つまり、残るは9人。


(これは、キャストになってしまうのか……??)


僕がそう焦っていると、新宮さんが次々とキャストの名前を読み上げていく。なかなか僕の名前が呼ばれない。そして、新宮さんはすうっと息を吸い、


「これで、キャストは終わりです。」


(……あ、れ?)


僕の名前が呼ばれなかった。キャストに呼ばれた人数は6人。僕の計算が合っていたら、まだ3人呼ばれていないことになる。僕を含めて。


「最後は、宣伝です。」


(……そんなのあったぁ???)


僕が聞いてなかっただけなのか。他のクラスメイトは何も不思議に思っていなさそうだ。


「宣伝は、私新宮と、野木、そして佐藤です!以上で、係決めを終わりたいと思います!」


パチパチパチと、先生とクラスメイトが拍手をしている中、僕だけが、状況を理解できないでいた。僕は、急いで野木の方を見る。だが、野木は知らん顔をして、他のクラスメイトと一緒に拍手をしている。


(……なんだ、宣伝ってなんだ!?)


―――――――――――――――――――――――


「えぇ!君も宣伝になったの〜!?」


そう言って、その人間は僕の机の前に立っていた。ここは美術室。最近思うことだが、この人間は僕に絵を描かせる気が無いのではないか。お喋りばっかりしてる気がする。


「そうですよ、菊田さんもですか」


僕はテキトーにそう言うと、用意していたキャンバスに鉛筆で輪郭を描き始めた。思えば、もう4回目になる。


(4回目でまだ下描きを始めたばかりって何だ……)


そうは思っても、そもそも僕が人間の絵を描いた事ないのが1番の原因だよな、、と思い、この人間に文句を言う事はできなかった。

すると、目の前の人間が笑って言った。


「そうなの〜!!私も宣伝になったんだよ〜!本当はキャストやりたかったんだけど、文化祭まだまだ先じゃん?お仕事が急に入っても困ると思ってね〜」


「そうですか。確かに、菊田さん売れっ子ですもんね。」


「ふふ。今はね〜。ありがたいことに。でも、いつかお仕事無くなっちゃうのかなって思ったら、ちょっと怖いなぁ」


「菊田さんなら大丈夫じゃないですか?何だか、そういう世界で生き残るの上手そうです。」


「それ、褒めてる??」


「褒めてますよ。僕には到底できないでしょうから。」


その人間は、少し間を空けて言った。


「うん、そうだね!君は無理だ!なんか、へなちょこそうだもんね、君!」


僕はキャンバスから顔を上げた。


「それ、褒めてませんよね。まあ、事実なんで良いですけど。」


「ふふふ。意外と褒めてるかもよ〜?」


その人間は小悪魔みたいに笑った。僕はむっとして、

「絶対褒めてないですよ」と言った。


すると、その人間はニヤリと笑ってこう言った。


「じゃあさ、君は尊敬してた人に裏切られたらどうする?」


僕は、急に何を、と思った。だが、尊敬と聞いて、新宮さんの顔が思い浮かんだ。


「嫌…ですね。」


「ふふふ。それだけ?それじゃあやってけないよ〜!」


僕は、目の前の人間が何を言おうとしているのか理解できず、ただ、ぼかんとしていた。


「じゃあ、どうするんですか?」


その人間は、ニコリと笑って一言、言った。


「100倍返し、だよ?」


その目には光が宿っていないように見えた。僕は思わず、


「こ、怖いです。」


と言った。その人間は、ふふふと笑うと、またいつもと同じような顔をして「そんじゃあ絵でも描くかぁ〜」と言った。


(やっぱり、この人よく分からない……)


僕はそう思いながら、キャンバスに視線を下げた。

その時だった。


ガラッ


勢い良く扉が開いた。見ると、そこには新宮さんと野木がいた。2人はキョロキョロと見渡していた。そのとき、新宮さんと僕の目が合った。


「あ……」「あ……」


僕と新宮さんだけではなく、その場にいた全員が固まった。


「…ちょっと2人とも?何してるのかなぁ?」


新宮さんがニコニコとこちらを見つめていた……………。

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