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お芋ホクホク、ドキドキ遠足!?

あの時の不安そうな顔はどこへやら。菊田さくらは、何人かの友達に囲まれて、桜の花が咲き誇ったような、天使のような笑顔でそこにいた。


「……む。心配なんてしなきゃ良かった。」


僕はちぇっと思いながら、紙皿に乗った焼肉をパクリと食べた。


ここは、どこかのキャンプ場。僕らは高2の学校行事、遠足に来ている。班ごとになって、一つの焚き火台を囲んで調理をして食べる。皆んな私服だからか、普段よりも大人っぽく見える。僕の班は、女子3人、僕含め男子3人で構成されていた。同じ組内で、自由に班を構成できたのだが、仲の良い奴がいない僕にとっては、そんなの鬼の所業だ。そんな僕をこの班に入れてくれたのは、学級委員長のメガネ女子、新宮あまねだ。


「あ、佐藤くん、そこにある野菜、何でも良いから取ってくれる?」


「あ、はい。これですか?」


僕は、新宮さんに目の前にあったサツマイモとタマネギを渡した。


「そうそう!ありがとう!敬語じゃなくても良いんだよ〜!」


こんな風に、気を使って僕に話しかけてくれたりする。新宮さんが僕に話しかけると、近くにいた班員も「そうだぞ〜」と笑い出す。普段から誰かと会話することが殆ど無い僕には、きっと皆んな声をかけづらいのだろう。そういったことに敏感で、細やかな配慮ができる人間というのは、きっと世の中でも重宝されるのだ。まさに、新宮さんがそれに当たる。


(僕も、こういう人になれるかな……)


そうやっていつも思うのだが、結局なれた試しはない。すごいなぁと、尊敬の眼差しで新宮さんを見ていると、


「あれ、佐藤くん、だっけぇ?新宮さんのこと気になってるんじゃねぇの〜??ずっと見てるし!」


(……!?)


僕の背後からにょろりと現れたその人物は、ひょろりとしていて、まるで幽霊のように見える。


「ちょっ、違いますよ!」


僕は慌てて否定したが、否定すればするほどに、その人物のニヤニヤが増していく。


「ちょっと!野木!やめなさいよ〜!」


新宮さんはそう言うと、サツマイモにアルミホイルを巻き、軍手をしながらトングで焚き火の中にそれらを入れていく。その所作は手慣れていて、だけど丁寧で、新宮さんの魅力を際立たせていた。


(………。)


「うわっ!!」


突然、野木が大きな声を上げたので、僕は後ろを振り返った。すると、あの人間が立っていた。


「ふふふ、やっほー」


その人間は、ニヤニヤしながらこちらを見つめている。


「おい、佐藤くん、だれに向かって言ってると思う??こっち見てるよな?俺かな?俺だったら、ゾクゾクする……!」


そう小声で騒ぐ野木にうんざりしながら、僕は黙ってその人間の方を見た。すぐ後ろには、気の強そうな女子が2人立っている。僕が絶対に関わりたくないタイプだ。


「ん?あ、ごめんごめん!なんか恋バナが聞こえちゃったからさー!面白そうと思って!ふふふ」


そう言うと、天使のように微笑み、自分の班のところへ戻って行った。


(何だったんだ……?)


そう思いながら、僕は紙皿を台に置き、新宮さんに「代わります。」と言ってトングを受け取った。


「あ、ありがとう」


新宮さんはそう言うと、台に置いてある自分の紙皿を手に取り、焼けている牛肉を別のトングで皿に乗せると、割箸で食べ始めた。


同じ班の女子と「おいし〜」と楽しそうに話している。何となく、そこでの会話に耳を傾けていると、こんな会話が聞こえてきた。


「あまね〜!なんかさ、さっきの宮下さんと竹田さん、ちょっと怖くなかった?」


「え?まあ確かに…」


「あの2人、さくらちゃんといつも一緒にいて、『さくらの親友』アピールが凄いらしいよ?さくらちゃんに近づく人の所には、絶対にあの2人がやって来て、『さくらに変なことしたら許さないからな』みたいなこと言ってくるんだって……!!」


「そ、そうなんだ……」


僕はその話を聞いて、どきりとした。


(え、そうなの……!?)


僕の場合は、あの人間の方から一方的に近づいて来ただけなのだが、それでもあの2人は来るのだろうか。


(いや、でも今まで来た事ないしな…。僕の影が薄すぎて、もはや見えてないとかか?)


僕はそう思う事にして、焚き火の中からアルミホイルの塊を取り出した。試しにアルミホイルを開けてみる。


「おお…」


中には、ホクホクに焼けたサツマイモが入っていた。

野木がそれを見て、「うまそーー!!」と言う。


班員皆んなが僕のもとにやって来て、その甘い匂いに胸をときめかせながら、「えー!すっごい美味しそう!!」と口々に言った。新宮さんが「ねぇねぇ、パカって割ってみてよ!」と言うので、僕は熱々のサツマイモを素手で割ってみせた。すると、周りの班員たちが、口々に「わぁ〜!!」と歓声を上げた。内心は「熱い」という気持ちの方が大きかったが、僕は少し照れくさくなって、黙って小さくなっていた。


班員全員にサツマイモが行き届いたことを確認して、みんなでホクホク言わせながら、口に頬張った。


「美味しい!」


皆んなが口々に言うのを聞き、僕はサツマイモを取り出し二つに割っただけなのに、なんだか少し誇らしくなった。そして、サツマイモをパクパクパクリと食べると、冷たい水を求めに水道の所まで早歩きで行った。水道は僕の班からはちょうど対角線上にあり、かなりの距離がある。


(皆んなに配っているとき、めちゃくちゃ熱かったんだよな、サツマイモ!火傷するかと思った……!)


水道に着いて蛇口をひねると、勢い良く水が出た。僕はそれを手に当てて、手を冷ましていた。すると、横からヒョコっと誰かが現れた。


「ふふふ、楽しそうだったね!」


あの人間の声だった。1人でいるようだ。


(『さくらに変なことしたら許さないからな』……って、別に僕は何もしないけどっ!嫌だな、面倒なことは。)


そう思い、僕はその人間を無視して、ポケットからハンカチを出した。


「あれ、無視〜??」


(そうだよ、無視だ無視!察しろ!)


僕は手を拭きながら、自分の班のところへ向かおうとした。 すると、


「大丈夫だよ。別に私と喋ったからって、何かが起きる訳じゃない。」


いつもより低い声が聞こえた。


「…な、何ですか!別に僕はお肉食べたいから向こうに行こうと思っただけですけど!」


「あ、本当?ごめんね!!でもさぁ、私、気分転換したいんだぁ〜。ほら見て、あそこに猫がいる。ずっとこっち見てるんだよ!可愛いよね!」


(猫…だと?こんなキャンプ場しかないような坂の上に…?)


僕らが今いるキャンプ場は、長い坂道を登った先にある。辺りに、民家などは見えない。ここら一帯には、キャンプ場しか無いと思われた。だが、振り返ってみると、確かに三毛猫がいた。それも、おそらく子猫だ。


「猫…ですね。」


「ふふふ。事務所から、野良猫には近づくなって言われてるんだけど、近づいちゃっても良いかな?」


その人間は、僕に聞いた。僕は「知りません」とだけ言った。そんなこと、僕に聞かれても困る。


「ふふ。じゃあ、近づかなーい!見ない聞かない触らな〜い!」


「猿じゃないんですから。なんなら、ちょっと違いますよね。」


僕がそう言うと、その人間はふふふと笑った。そして、「まったね〜」と言い、自分の班へふらりと戻って行った。僕の班とは、少し距離がある。クラスが違うからだ。


僕も、「自由な人だな……」と思いつつ、自分の班へ戻って行った。


―――――――――――――――――――――――


その日は快晴だった。青い空の下、そこにはトコトコと歩く小さな生き物がいた。ミャオと鳴いて、その場をふらりと立ち去る。その歩みには、たくましく、そして自由奔放な生き様が表れているようだった。

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