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終わりの始まり

「ねぇ、私を描いてよ!」


「…え?」


僕の名前は佐藤晴大さとうはるた。高校2年生。長い前髪が眼鏡に掛かっているような、地味で目立たない、普通の男子高校生。特技と言うほどでもないけれど、幼少期からずっと好きだった絵を描くことは、今でも続けている。そんな普通の人間が、今、普通の人間が経験しないであろう事態に巻き込まれている。


「ねぇ、聞いてるの?君、すごい賞取ったんでしょ?なら、私の絵を描くことだってできるよね?ね、描いてよ!お願い!」


廊下のど真ん中、周りの視線を痛いくらいに感じる。


そうだ、全ての元凶は今朝、全校生徒の前で行われた表彰式。僕はなんとなくで描いた絵を、なんとなくコンクールに応募した。そしたら、僕の絵は約8000点の作品から30点しか選ばれない特別賞を受賞した。


そして、今まで地味な高校生だった僕だが、同級生からの視線をいつもより感じるようになった。これも悪くないな、と少し胸を張って廊下を歩いていた時、この、目の前の人間がいきなり僕に話しかけてきた。


目の前の人間は、最近テレビでも見るようになってきた若手女優だ。僕の在籍する高校はいたって普通の高校だが、少し普通と違うことといえば、この目の前の芸能人が在籍していることくらい。だが、名前は知らん。


「あー、人違いではないですか?それに、こんな普通の高校生に描いてもらうくらいなら、もっと上手なプロの方にお願いしてはどうです?」


僕はやはり地味男じみおだ。こんな周りの視線が集中している状況にはとても耐えられない。今すぐ、この場を切り抜けたいと思い、自分の教室に戻ろうとする。だが、その人間は後ろをスタスタとついてくる。


「えー、人違いじゃないよ。ナントカ晴大でしょ?私の小学校にも同じ名前の子いたから覚えてるよ!」


「いや、この学校にはたくさん晴大がいます。」


「いないよ!晴太ならいるけど、晴大はいないからね!『太い』と『大きい』は違うでしょ!」


僕は瞬間的に察した。この会話が永遠に終わらないことを。

「あの、ここ僕の教室なんで。それでは。」

(よし、強制的に終わらせてやろうじゃないか。この無意味な会話を!)

僕は教室に足を踏み入れ、扉をガラガラと閉めた。そして、すこし歩くと突然、


「あ、菊田さくら!」

「ほんとだ!」


クラスメイトがぞろぞろと僕の方に近寄ってくる。

(ふ、僕が地味だからって、さすがにクラスメイトの名前くらいは間違えないでほしいな……ってあれ?)

クラスメイトは僕を横切って後ろに歩いていく。僕は恐る恐る後ろを振り返ると、


「ちょっと!勝手に閉めるなんて酷いじゃない!泣いちゃうわよ!」


(いるぅぅぅぅう!!!)


さっきの人間が、確かにドアを開けて仁王立ちで立っていた。その人間が僕に話しかけるのを見て、クラスメイトたちが

「ちょっと、ナントカ晴大くん。さくらさんの話くらい聞いてあげても良いじゃない?」

「そうだぞ、ナントカ晴大くん。美女を泣かせるなんて酷いだろう?」

と口々に言う。


そして、その人間は僕に近づいて来た。もちろん、ニコニコ笑顔で。

「ねぇ、描いてくれる?」

その後ろには、何人ものクラスメイトがこちらを見ている。

僕は、どうしようもなくなって、


「……はい。」


と小さく返事をした。


「やったぁ!!ありがとう!じゃあ、これからよろしくね。ナントカ晴大くん。」


その人間は天使のような微笑みで、教室を後にした。



僕がつくづく思うのが、どうも地味男は集団には太刀打ちできないこと。

そして、

(ナントカ晴大って何?クラスメイトにまで名字を覚えられていない??佐藤は日本で1番多い名字だぞ!!)


そう思いながら、僕は席についた。


窓の外に目をやると、桜の木に緑の葉がついているのが見えた。満開だった桜の木も、気付けば誰にも見られることなく、ひっそりと佇んでいる。


僕はその木を見て、こう思ったんだ。


(皆騙されてる……。桜なんて、満開の時よりも葉っぱの時の方が長いんだ………!!)


そうして僕は、これから僕を待ち受けている出来事に目をつぶり、見えないフリをして、机に突っ伏した。


(悪い予感がするのは、きっと気のせいだ!!)


そう、自分に言い聞かせて。

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