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9 きみに会いたい。
きみに会いたい。
あんと出会ったのは、先生が本当に先生になったばかりの若くて、新米のなにもわからないころのことだったけど、それから今、時間がたって、自分の先生としての人生を振り返ってみると、やっぱりあんは先生にとって、なぜかいつまでも忘れることのできない子供だった。
それがどうして、あんなのか、……、それは先生にも(とても長い時間がたった今でも)よくわからなかった。
先生。いつもありがちょう。
という、舌足らずなあんの声が聞こえた気がした。
いえいえ。あんちゃん。こちらこそ、本当にいつもわたしにいっぱい元気をくれてどうもありがとう。
と心の中で先生は言った。
すると、あんはいつものように嬉しそうな顔でにっこりと笑ってくれた。
それだけで、なんだか先生の心はいっぱいになった。
先生はどこかでまた大人になったあんに会いたいと思った。
あんにあっていっぱいいろんなお話ができたら、素敵だろうなって、そう思った。
わたしたちは、たくさん泣いて、たくさん笑って、大人になる。
杏 あんのこと。 終わり