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あんちゃん。大丈夫かな?
引越し先で、ちゃんとやっているのかな?
今もお友達がいなくて、ひとりぼっちでずっといるのかな?
冬になったら、コートも着ないで、寒いままで、ぶるぶると震えているのかな? とか、そんなことを思った。
あんちゃん。
あんちゃんにまた会いたいな。
あんの舌足らずな言葉使いと、とっても可愛らしい笑顔を思い出しながら、先生は思った。
あんちゃん。
あんちゃんは今、幸せなのかな?
と、あんのいなくなった教室で、いつもはそこにいるはずの今は誰もいなくなった自分の隣のぽっかりとあいてしまった空間にふと目をむけて、先生は思った。(なんだか、そこで今もあんが笑ってくれている気がした)
先生はあんに子供用の赤いコートを貸すだけではなくて、本当にあげたかった。ずっと、着ていてほしかった。でも、先生としてそれはできなかった。そのことは今も間違ってはいなかったと思う。(あんだけひいきはできないし、ほかのみんなもいい子ばかりだったから)
……、なのだけど、でも、どうしても、あげたかったと思ってしまうのだ。
タンスの奥にしまってある子供用の赤いコート(どうしても捨てられなかった)を見るたびに。
あんに赤いコートを着ていてもらいたかったのだ。(真っ赤な顔で笑いながら、寒そうにしているあんに、鼻をすすってもらいたくなかったのだ)