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その八 お歯黒きゃんぺーんなりけり

 ほんの出来心で未来の日本国国歌をパクった歌がウケてしまった。


 宴会場の几帳の奥では女性たちが集まり、男性たちの声を聞いていたようだ。


 大臣様の北の方様を筆頭に帝のサロンにも上がるような女房様も来られている。

 そんな中、皇后様にお仕えする方が北の方様と会話するのが聞こえた。


「大臣様の北の方様もお歯黒をされてると聞きましたが……」


 流石は皇后付きの女房様、目の付け所が鋭い。


「ええ、ひろから唐帰りの学者や帝も嗜まれていると聞きまして先日塗らせました。女房たちにもかのように」


「あれ、ひろなる者はなかなか優れた者のようですね」

「ええ、最近婢として雇い入れた者ですが父親が医師くすしという事もあり薬草などにも詳しくて」

 女房様同士で話しているが、ちょっと自慢気なのは私としても嬉しい。


「見事な歌も歌っておりましたね。あの内容の歌をとっさに歌えるとは教養があると思いますがいかがなのでしょう」


 いや、パクりなので!!元ネタはどこのどなたかわかりませんが、私より優れた方だと思います!!

 心の中であわあわしながら几帳の中の会話を聞いていたがそろそろ炊屋かしきやに戻って仕事をしなければ。

 医師くすしとして家と田畑をもらえたけれど、まだ正式な話ではないのだから婢としての仕事に戻った方がいいだろう。


 お方様にご挨拶をして炊屋に戻ろうと声をかけてみる。


「北の方様、ひろでございます。本日は大臣様にありがたき褒賞を賜りまして、これもお方様のおかげと存じまする」


 時代劇だとこんな感じで上司にお礼を言っていたような気がする。正しいのかどうなのかわからないけど、間違っていたら婢なので~とてへぺろしておこうと思う。


「おぉ、ひろか。よく来たの」

「これがあの医師の娘かの」

「まだ童じゃな」


 色とりどりの十二単が目の前に広がっていて少し目がチカチカする。

 北の方様も大臣様と同じようにちょっと自慢気な顔で

「ひろ、こたびの流行り病を防いだ薬はそなたが作り出したものと聞いておる。その知識は父親に教わったものかえ?」


 父の名前を出したら修験者や陰陽師の修行をする父の邪魔になりかねない。

 優れた家臣を持ち物自慢みたくひけらかしたい貴族が無理やり修行を止めて引き込もうとするのは火を見るより明らかだ。


「いえ、たまたま病に効きそうな物を見つけたのでそれを薬にしてみました」


「婢の子が溺れ死にそうになったのを生き返らせたと聞いたが、陰陽師の反魂術も心得ておるのか?」

 心肺蘇生術は蘇生が目的だけど反魂術とは違うんだよなぁ。どう説明したらいいんだろう?なるべくオカルトから離れた技術ということにしなければ厄介だ。


「あれは反魂術のように死んだ人を生き返らせたのではなく、溺れて息が止まったのを再び息をさせるきっかけにしただけでございます」


「そなたは北の方様や女房たちにもお歯黒をしたと聞いたが、お歯黒の作り方も知っておるのか?」

 お歯黒の話題を振ってくれて助かる!虫歯予防キャンペーンしたかったからね!


「はい、唐から伝わった美容法で、お歯黒をすることで歯が虫食いされることが減って他の口の病を防ぐこともできる素晴らしいものと聞きました。父が以前筑紫に行った時に唐帰りのお役人様や学者様に作り方を教わったとのことでそれを教わりました」


「ほぉ、そなたの父も医師として優れておるようじゃな」

 やばい!父への関心を逸らさなければ!


「父は唐帰りの学者様に習っただけですので……。唐で直接見識を深められた学者様やお坊様の足元にも及びませぬ」


「なかなか謙虚な娘じゃの。自分の知識や父親の業績を驕ることなく遜るとは」

 皇后様付きの女房様がめっちゃ褒めてくれて嬉しいけど、あまり覚えがめでたくなるのは避けたいのよね……。

 ここらでインタビューは終わってもらってもいいのだろうか?


「北の方様、私のようなものがいつまでも斯様な席に留まるのは失礼かと思いますのでここらで炊屋に戻りとう存じます。こたびは誠にありがとうございました」


「うむ、鳥食とりはみとは別にそなたには馳走を用意するよう伝えておる。ゆっくり食べるがよい」


「ありがたき幸せ」

 いや、本当にありがたい。一度庭の土の上に投げられた食べ物を拾って食べるのは抵抗があったから。


 お歯黒啓発キャンペーンも終わったことだし、早く帰りたいと思いながら廊下をそそくさと小走りで炊屋に向かっていると足を引っかけられた。

 勢いよくズデーン!と転んだけれど受け身が取れたのでケガはない。


 引っかけた足の持ち主は百合女ゆりめさんだ。


「あれまぁ、お偉い医師様でも転ばれるようですね、ほほほほ」

 人を見下した目でこっちを見ているが相手にしても仕方ない。令和マダムの持つスキルの一つ、『華麗にスルー』を発動させる。


「ちょっと待ちなさいよ!」

 何もなかったかのようにスタスタと歩き始める私の袖を掴み吠える。


「何ですか?炊屋の手伝いに行かなきゃならないんですけど」


「大臣様に褒められたからって威張るんじゃないわよ!」


「威張ってなんかいませんよ」

 むしろ威張ってるのは百合女さんでしょという言葉は飲み込んだ。

「あんたね、生意気なのよ。片付けが終わったら井戸まで来なさいよっ!」


 あー、昭和のヤンキーが体育館の裏に来いって言うのと同じじゃん!!もう面倒くさい。

 こういう時ってヒーローが登場して助けてくれるんだよね?平安時代にヒーローなんているとは思えないけど……いざとなったら叫んでみるか。


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