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第6話 家族…?

 お兄様がいらしている。


 神人がそう知らせに来たのだが、それを受けて隣にいたお父様はやや渋い表情となった。


(お父様はお兄様が苦手だものね)


 いつも小言を言われていると、前に言っていたのを思い出す。


 しかし普段ここには来ないお兄様が来るとは、いったい何の用事だろう。


「ルナリア」


 報告を受けて少しすると神人が兄と兄の側近の二人を連れて来てくれる。


「ルシエルお兄様、お久しぶりです」


 椅子から立ち上がり挨拶をすると、兄も返してくれる。


「久しぶりだ。忙しくてなかなか顔を出せず。来るとなれば知らせもなく来てしま手申し訳ないな」


「とんでもありません、そのようなお気遣いの言葉をおっしゃって下さるだけでも嬉しいです」


「そうか」


 相変わらず笑顔は見受けられないけれどいつもこうしてわたくしを慮ってくれる。


(このようなお兄様と小さい頃から過ごしていたら、もっと親しくなれていたかしら)


 生憎と成長してからの顔合わせであった為、少々ぎこちない関係であるのは否定できない。


 兄というよりも顔見知りと言ったくらいの距離感の為に、やや照れくさい。


 わたくしはお兄様が来てくれて嬉しいのだが、父はそうではないようだ。


「何をしに来た、ルシエル。今は儂とルナリアで楽しく話をしていたというのに」


 邪魔されたみたいな顔をしてお兄様を睨むが、どこ吹く風である。


「仕事を放棄し、こうしてルナリアの所に頻回に訪れることはしませんようにと、前もお話しましたよね」


 寧ろお兄様の方が怒りが強いようで言葉に怒気を感じる。


 それはお父様も同じようで、小さく呻いていた。


「ルナリアが心配で来ているのだ。仕事は後でやる」


 お父様はまるで叱られた子どもの様な事を言い、お兄様は呆れているみたいなため息を吐く。


「その為に張った結界ですよね。仕事をしない理由としては認められません。それにあなたは天上神。皆をまとめる役目をしなくてはならない身なのですよ。なのに娘にばかり入れ込むのでは、罰を受けるやもしれませんね」


 天上神であるお父様が罰を受けるとはどういう事だろう。


「……わかった」


 暫しの沈黙の後、不承不承という様子でお父様は頷く。


「それとルナリア。君にも仕事をしてもらわなくてはならない」


「わたくしですか?」


 その言葉に少し嬉しくなる。


 名ばかりの月の神であったのが、ようやく何か役に立つことが出来るかもと期待したのだ。


「わたくしで良ければ――」


 是非、と答えようとしたところでお兄様とわたくしの間にお父様が立ちはだかる。


「ルナリアに仕事とは何事だ! 儂はそんな話は聞いていないし、許可した覚えもない!」


 わたくしを外に出さまいとお父様が語気を強めて反対する。


「お父様、わたくしは……」


「ルナリアは黙っていなさい、お前を外に出すなんて許しはしないぞ!」


 怒るお父様を見ても尚お兄様は冷静だ。


 表情一つ変わりはしないのは凄い、わたくしなんて怖くて震えてしまう。


(わたくしだって、仕事をしたい。たとえ完璧ではなくとも、求められるのならば応えたい)


 そんな自分の想いを口にすることは出来ない。


 怒りに狂い、暴れた時の事を思い出すとどうしても足が竦み、声が出なくなるのだ。


 お兄様と目が合うと、やや眉間に皺が寄ったようにも見えた。


(呆れられてしまった……?)


 お父様の言葉に反論も出来ない、自己のない者だと不快な思いを与えてしまったかしら。


 わたくしは申し訳なさと不甲斐なさで縮こまってしまう。


「ルナリアを大事に思う気持ちはわかりますが、それだけでは済まない事があるのですよ。月の神という役割を与えたのだから、囲っておくだけでは他の者に示しがつかない」


「ルナリアはここで十分に仕事を行なっている、外に出る必要はない」


 ここでしている仕事というのは夜に行うお祈りの事だろうか?


 だがそれも目を閉じて祈るというだけのもの。大したことはしていないはずだけど。


「どのような仕事なのでしょう?」


 好奇心と興味で溜まらず口を挟んでしまう。


 お父様が口を開く前にお兄様が間に入る。


「ルナリア、何処彼の神に就任したら、他の者にその事を伝えなくてはいけないのだ」


 初めて聞いた事である。


「皆に伝えるとは、どうするのですか?」


「就任式を行う。本来ならば任についてすぐにするものなのだが、父上の我儘で長い事出来なかったのだ」


 聞けば聞くほどに驚く事ばかりだ。


 そんな大事な事を忘れていたとは思えない、お父様が秘密にしていたとしか。


「ルナリアを他の男の前に晒すのは嫌だ」


 またしても子どものような言い訳を言うお父様に対して、何度目かのため息がお兄様の口から漏れた。


「それは私ではなく他の二界の最高神にお伝えください。私は彼らからの要望を伝えただけです」


「あいつらからか……さすがに無視は出来んな」


 さすがに他の界の神にはいつもの調子は出ないのだろう、珍しく弱気である。


「あの、他の界の神様って怖いのでしょうか?」


 おずおずとお兄様に聞くと首を横に振る。


「癖のある者達ばかりだが、敵とは言いづらいな。一応共にこの世界を統べる神達だからな」


 無知なわたくしにもお兄様は丁寧に答えてくれる。


(本当は優しいのよね)


 恐らくだけれどそう思う。


 思えばソレイユもそう言っていた気がする、こうして話す機会が少なかったから、ようやく少し内面を見られた気がした。


「ではその神達の要望もありますし、急いで日程も組みましょう。さぁ帰りますよ」


「うぅ……ルナリア、またな」


 名残惜しそうにしながらお父様は大人しく帰っていく。


「では私もお暇しよう。騒がせたな」


「お待ちくださいお兄様、わたくしがしなくてはならない準備などありますか?」


 他の神に会うのは初めてなので不安に駆られ聞いてみるが、お兄様は首を横に振るばかりだ。


「そうだな。正装とそして心構えと……後は」


 そっとお兄様が耳元に顔を寄せて来る。


 綺麗な顔が近くにあって思わず心臓がドキドキしてしまう。


「ソレイユとの関係は上手く隠すように」


 言われた言葉に心臓が凍り付くような気がした。


「どうして、それを……」


「それは些細な事だから気にするな。それよりも今伝えた言葉をしっかりと意識するように。そうでなくばあの男がどう動くかわからない」


 ちらりとドアの方に目配せをしていた。


「私は二人を《《祝福》》するよ。だから気をつけるんだ」


「ありがとうございます」


 お兄様からの突然の言葉と祝福の気持ちに驚いて、その言葉がどれだけ大事であったかわたくしは気づかなかった。


 そして未来が大きく動くことも。


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